三田評論ONLINE

【その他】
【講演録】反グローバル主義とポピュリズム政治

2019/08/09

現代──ツイッター時代のナショナリズム

エージェント型政治の復活と動揺
そして、第3幕「ツイッター時代のナショナリズム」に入ります。

まず、第2次世界大戦後、1970年代までの世界には、エリート主導のエージェント型政治形態が復活し、黄金期を迎えます。いわゆるIMF/GATT(後にWTO)体制が生まれ、これらの国際的機関を通じて、アメリカは米国型資本主義を世界基準にしようとします。

またヨーロッパでも、EC(後にEU)が誕生し、国家主権を抑制し、やがて通貨を統一し、金融・財政政策を統合する方向に向かいます。ヨーロッパでは、ナショナリズムが2度の戦争を招いたことが強く認識されていて、ナショナリズムを抑えるために政治・経済の重要な部分を国際的な組織に委ねようとしたわけです。

世界に害悪を及ぼす「魔神」として封じ込められていたナショナリズムが封印を解かれ、表出してきたのが今日です。それでツイッター時代のポピュリズムは、ブラッセル(EU本部)が気に食わない、WTOが気に食わない、エリートは信用できないと不満をまき散らす。

根本にある問題は、国際エリートの統治下で、これまでは国や地方の権限が制約される見返りに、経済的な恩恵が得られてきたのに、リーマンショック後は経済成果に陰りが見え、しかも地域格差が拡大していることです。それでアメリカのラストベルトや、南欧の不満が拡大するのです。

トランプ大統領はなぜ強いのか?
2019年4月17日付『Financial Times』でジャーナリストのジャナン・ガネシュが興味深い指摘をしています。彼は、トランプ大統領は地域的な不平等、つまりラストベルトの問題を解決する具体策を出すのではなく、問題を嘆くのみだが、それが彼の人気の理由だというのです。またブレグジットにしても、例えばイギリスのウェールズの地域格差は深刻ですが、EUからの離脱でさらに悪化するでしょう。ここでも解決策は提示されていないのです。

もう1つ、経済学者のポール・クルーグマンの指摘も紹介しておきましょう(『The New York Times』2019年3月18日)。彼は、そもそもアメリカのポピュリズムはラストベルトに代表される地方の衰退、地域格差から起こっているが、その衰退を解決する方法は誰も知らない、と言います。例えば農業地帯の経済的衰退もある経済の力が働いていて、それを逆転させる方策は見つかっていないのです。

そう考えると、トランプ氏は強い地盤をつかんでいることになります。逆説的ですが、もしも地方の衰退が反転すれば、彼の政治基盤は消滅するのですが、地方が沈み続けるかぎり、彼らの悩みに同情することで支持を得られます。彼らの悩みがいつまでも消えないから、彼らに同情する姿勢を見せるトランプ氏が勝ち続けるというわけです。

しかし、そうならないかもしれない。政治には「飽きる」という現象があるからです。ドイツのメルケル首相は2017年の総選挙でCDU(ドイツキリスト教民主同盟)が伸び悩んだことを受け、次の党首選への出馬を断念しました。支持低下の理由として、移民政策への不満が挙げられていますが、一つの理由は飽きられたことだと思います。

皆さん、「デフォルト・オプション」という言葉をご存じでしょうか。例えばパソコンを買って、最初に設定するとき、「これ、どうしますか」という質問に答えていくわけですが、何もしないと「では、このようにやります」という設定があり、それがデフォルト・オプションです。

任期の長い人はデフォルト・オプションになっていると思われます。つまり、わざわざ投票所に行かなくても、「どうせ彼だ」と思うと、支持者は投票に行かない。一方、彼らに不満を持つ人々は投票に行きます。すると、デフォルト・オプションがそうでなくなるわけです。

トランプ氏の場合、デフォルト・オプションとは思いませんが、前回は嘆き節に共感して投票した人々が、再び投票に行くでしょうか。一度で十分と思っているかもしれません。トランプ氏の支持基盤は強固ではないのです。

(本稿は、2019年5月15日に行われた福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会での講演をもとに一部を加筆修正したものである。)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事