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【講演録】防衛大学校と慶應義塾

2017/02/01

防大の目的とは

さて、防大は、幹部自衛官の養成が目的です。学生は、「服務の宣誓」を必ず行います。「私は、防衛大学校学生たるの名誉と責任を自覚し、日本国憲法、法令及び校則を遵守し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、知識を涵養し、政治的活動に関与せず、全力を尽くして学業に励むことを誓います」というもので、入校式のときに、全員にやってもらいます。

そして、防大生活において学生は、「広い視野と豊かな人間性を持ち、道義をわきまえ、積極的でかたよりのない立派な性格徳操を具備するとともに、幹部自衛官の職務の特質を理解し、これに適応する基礎的資質を体得した伸展性のある自己を確立することを目標とする」と規定されています。つまり、4年間の教育と訓練を通じて、国家・国民を守り、世界平和に貢献する使命感(mission)を育成することです。公のため、そして人のために一生を捧げるDNAを植え付ける。これがわれわれに課された教育目標であります。

防大でバリバリの自衛官ができるわけではありません。実際には部隊に行ってからすべてを経験することになります。そのための人間的土台づくりとして、学業と体力と精神修養、つまり智・徳・体のバランスを重視するのです。それは彼らが将来、人の生命をお守りする、あるいはそれに関わる仕事だからであり、危機に面する機会が多いからです。

危機に遭遇したとき、決断力やリーダーシップに欠けていたら困ります。また、フォロワーシップ、つまり部下のことをきちんと分かっていなければならない。ということで、初代学校長の時代から、繰り返しつくり上げてきたわれわれのモットーは、「真の紳士・淑女にして真の武人たれ」です。これが、防大のいたるところに掲げられています。

また、こうしたことをもとに学生たちが自主的につくり上げたのが学生綱領です。現在も引き継がれていて、「廉恥・真勇・礼節」という言葉があります。これも防大のいたるところに刻み込まれています。

こういった防大の建学の精神は、やはり戦後の非常に厳しい時期を受けてのものだと思います。防衛大学校ってただの軍事学校じゃないのか、昔の軍国主義ではないのか。このような一方的なレッテルを貼られたり、昔の世代には、制服を着ていると水を掛けられたり、石を投げられた方々も結構いたようです。そのような中で耐えてきた歴史があり、その中でつくられてきた1つの文化であるということです。

世界一の士官学校を目指す

防大は私が着任した2012(平成24)年、創立60周年を迎えました。私は着任した際、60周年の記念の年だけ騒いでいては駄目で、61年目が大事だ、ということを申し上げました。また着任後すぐに、刑事法に違反するような服務事案や、いじめ事案もありました。それらの経験を踏まえて総点検し、日本一の大学、世界一の士官学校を目指そうと「新たな高みプロジェクト」を立ち上げました。

防大は、もちろん学業だけやっているわけではありません。体育大学のような体力錬成も行っています。さらに、宗教大学のような精神修業も行う。つまり、3つの種類の大学でやることをいっぺんにやっているのです。こんな大学は他にないということで、私は、防大は日本一の大学だと申し上げています。日本に防大は1つしかありません。

私はこれまで世界中の士官学校を回っていますが、防大が世界一の士官学校になれるという確信を少しずつ持ちつつあります。それはいろいろな理由がありますが、何よりも、まず陸・海・空が一体化している学校がほとんどありません。どこの国でも、陸軍と海軍ではあまり仲がよくないといったことが見られます。あるいは、理系・文系の融合も防大の特徴です。そして、防大の持つ「和」の精神があります。防大に来る留学生は、実によく定着します。ですから、世界中からいま、防大に学生を預けたいという要望がたくさん来ています。現状ではとても受け入れきれないので、基本的にはアジアに限るという形にさせていただ いています。また日本人の美徳でもある清潔感、あるいは、大学院(研究科)を持っていることも防大の特徴です。

さらに、現在の自衛隊の将官のおそらく8割以上が防大卒であるということです。ちなみに、ご紹介したように防大には3人の副校長がいて、1人は幹事と言いますが、現在の陸上幕僚長を務める岡部俊哉陸将は、以前私のもとで幹事として尽力してくれた方です。このように、防大に来る自衛官は、ロールモデルとして学生に示しています。

さらに、新設した教養教育センターでは、この春も坂東玉三郎さんにお越しいただくなど、文化に関する授業を非常に増やしております。また、このセンターでは英語教育にも力を入れています。英語は自衛官の場合、命に関わります。いま聞いた英語のなかに、“not” の1語が入っていたかいないか、コンマゼロ何秒の世界で判断を下さなければいけない。ですから、やはり英語は徹底的にやらなければいけないということになります。また、国際交流センターを設置し、バラバラに存在していた国際交流業務を一元化しました。加えて、今年からグローバルセキュリティセンターをつくり、防大の特色を生かした学内外の共同研究を行うことにしました。防大は教育が中心ですが、レベルの高い教官たちの研究を奨励する必要があると感じたからです。

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