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【講演録】防衛大学校と慶應義塾

2017/02/01

防大生の生活

防大の3本柱は、「教育・訓練」「学生舎」「校友会」です。言い換えれば、学業・服務・体力。さらにもう少し言い換えると、智・徳・体。このバランスを大事にしています。

防大には本当にたくさんの行事があります。入校式に始まり、棒倒しで有名な開校記念祭。そして卒業式は、首相、防衛大臣が参列されます。卒業式の最後に、皆で帽子を投げることでも知られています。

なお、卒業はするが、任官をしない、つまり幹部候補生学校に行かないという辞退者が毎年5〜8%います。それにはいろいろな理由があります。個人的な理由も多いのですが、最近は景気が上向いていて、有効求人倍率が高くなっていますが、こうした要因も影響します。ただし、総合的にみると、辞退者の数は毎年そんなに大きく変わっていません。

辞退の理由には、やはり、きつくてついていけないということもありますし、人の命を預かることにどうしても自信が持てない、あるいは健康上や家を継がなければならないなど、家庭のさまざまな事情からということもあります。そういう人を、無理やり任官させることはしません。人々の命、そして国を守るという、心身ともに非常につらい仕事であることは分かっているので、無理にはさせません。心に迷いがあると、部隊の統制などにも影響がでますので。

いま申し上げた3本柱を簡単にご紹介しておこうと思います。最初の「教育・訓練」ですが、一般大学の卒業単位が124単位なのに対し、防大は152単位です。防衛学という授業があり、これは防大の特徴です。国防論、軍事史、あるいは軍事技術、統率、戦略などです。自衛官の方が教えるケースが多いですが、来年度からは時代に合わせてサイバー戦も必修科目になります。

さらに、訓練の時間が4年間で合計1005時間あります。7月はほとんど丸々1カ月、部隊に散って訓練をします。専門の訓練は、陸・海・空に分かれて2年のときからそれぞれ始めることになっています。

共通訓練として、1年の富士登山や遠泳などがあります。1年夏のこの遠泳では、泳げなかった人も含めて、毎年全員が横須賀沖を8キロ、6時間ほどかけて泳ぎきります。やはり指導の仕方が見事ですね。毎年、感動的です。

2年ではきついカッター競技やスキー訓練があります。そういえばちょうど今日、3年生が硫黄島の研修に発っていきました。それ以外にもちろん射撃研修などもあります。

2つ目の「学生舎」は、宿舎、寮のことですが、ある意味で寮生活は、防大生の生活の根幹になります。学生舎は、4つの大隊に分かれています。大隊1つが約500人です。その中がまた4つの中隊に分かれています。さらにそれぞれの中隊が3つの小隊に分かれます。小隊という一番小さい隊でも、1個約30〜40人です。小隊長というだけでも、数十人を統率しなくてはならないわけです。なお、大隊、中隊、小隊のそれぞれに、陸・海・空自衛隊から若い幹部が指導官として日常的に付いています。

学生舎では、1年から4年まで、留学生を含めて全員が一緒に暮らします。いま人数が非常に多くなっていて、だいたい8〜10人部屋ですが、勉強部屋と寝室に分かれています。寝具をきちんとたたんでいないと、先輩にガサッとやられてたたみ直し。あるいは身の回りのものが整頓されていないと先輩に怒られる、というような世界です。

ほとんど日本語の分からない、日本に来たばかりの留学生も一緒に暮らします。そして、たった1年でどうして日本語がそんなにできるのかというぐらいになります。それほどに見事に留学生が育っていっています。

日常生活は、朝6時起床で、1日のうちに点呼が何回かあります。これが結構大変で、服のアイロンがけや、ズボンの折り目がきちんとしていなければやり直しです。靴が磨いてなければこれもやり直しです。そういうことを一人一人、お互いに点検しています。

国旗掲揚・降下の時間が来たら、必ず正対をします。それはわれわれも同じです。そして、課業行進もあります。授業に行くとき、それぞれの教室に行くスタイルが決まっています。実験のときは作業着、座学のときは常装でこのかばんを持つ、など決まっていて、それぞれ隊を組んで行進して教場(教室)に行きます。その行進自体が訓練です。つまり、きちんとパレードができるようになるためのものです。

第1大隊から第4大隊で、第4大隊が一番長い距離を行進するので、第4大隊がパレードが一番うまくなると言われます。授業の後は校友会(部活動)があり、消灯は22時30分ですが、延長は可能です。

平日外出は原則一切禁止です。授業関係の研修や見学に行く以外で、外に出ることはできません。いわゆる「脱柵」を何回もやると、それだけで退校処分になることもあります。もちろん、授業を何回か勝手にサボるだけでも厳しい処分があります。

土日の外出は可ですが、1年生の場合は制服着用です。また、校門を通過する際は、必ず制服着用です。つまり、2年から4年までは、外に出てから私服に着替えたいので、何人かで学校の近くに下宿を借りて、そこで着替えて町に出て行きます。日曜夜の門限が近づくと、みんな走るように帰ってきます。

1年生は夏休みなど正式な休暇以外、基本的に外泊ができません。しかし2年から4年までは、20日前後、外泊が可能です。もちろん、国家公務員ですから、休みはそんなにありません。正月休みなどはありますが、普通の大学生の半分以下、3分の1ぐらいでしょう。

昨年度から、年度最優秀大隊を選ぶことにしました。種目は全部で11あります。パレードや体力測定、カッター競技会もあります。これは2年のときの登竜門で、海上で激しいボート漕ぎ競争となります。これを終えると2年生として認められるというもので、非常につらい競技です。私はいつも海上で応援しているだけですが(笑)。それから水泳競技会。いろいろな泳法や着装のままのレース、教職員対抗レースもあります。私も毎年エキシビションで副校長や幹事と出ていて、学生たちが「リョウセイ」コールで応援してくれます。

英語能力競技会もあります。これはTOEICの点数を競うもので、1年間で300点伸びたような学生を個人表彰しています。先日は低学年を中心に演劇祭もありました。

そして、棒倒し。これはぜひYouTube でご覧いただきたいと思います。これはただ倒すだけではなく、相手はどういう作戦で来るかといったことをお互いに事前に諜報したりします。ビブリオバトル(書評ディベート)は、いま多くの学校でも行われています。隊歌コンクールでは、それぞれの大隊代表が、歌とパフォーマンスを競います。また断郊競技会、これはクロスカントリーです。ただし、荷物と背嚢を背負って、女性も一緒で、必ず全員でゴールしないといけないので、一番遅い人に合わせないといけない。チームワークですね。それに持続走、つまりマラソン大会があります。

パレード、体力測定、カッター、水泳競技会、英語能力、演劇祭、棒倒し、ビブリオ、隊歌、断郊、持続走、この全11種目の総計で年度最優秀大隊を選びます。それぞれ点数化するわけですが、みんな必死に頑張ります。昨年度は第3大隊が優勝しました。

校友会とは、部活動のことです。ただし、防大では学生全員が体育会に所属します。しかし、練習する時間がほとんどありません。毎日17時15分から18時30分までで、着替えなどの時間もありますから、結局1日に1時間ちょっとくらいしかできない。ですから、休日に練習します。授業をさぼって運動をやるなんてことはあり得ない(笑)。もしそういう学生が慶應にいたら、ぜひ防大を見習って、学生の本分に戻っていただきたいと思います。ただ、そうすると、強くはなりませんが。リーグで2部、3部か、それより下という校友会が普通です。でも彼らはやはり日頃から鍛えていますから、総合的な運動能力は高いと思います。女性も立派な体力と精神力を持っています。文化部や同好会もいろいろありますが、いずれにしても大事なことは、体力とチームワークです。そして同時に、自分の好きな活動に参加して、そこで個性を発揮してもらうということです。

卒業の少し直前には、卒業ダンスパーティがあります。ここで一生の伴侶に出会うということもあるようです。なぜなら、日頃はほとんどそういう機会がないからでしょう。ただ最近は週刊誌などで「防大生は婚活でモテる」というような記事も出ていて、それは分かるような気もします。

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