【特集:「排外主義」を問い直す】
毛受 敏浩:人口減少と外国人受入れ──共生政策の課題と展望
2025/12/05
移民ジレンマからの脱却を図るために
「日本人ファースト」現象が広がる一方で、実際には日本における外国人との摩擦は、欧州や米国と比べて極めて小さい。外国人による犯罪の増加やヘイト活動といった深刻な社会問題はほとんど見られず、社会は安定している。反中国感情が一部に根強く存在するものの、外国人への排外主義は社会全体に深く根を張っているとはいい難く一過性に終わる可能性もある。
人口減少に直面する自治体においては近年、外国人受入れに積極的に取り組む例が増えている。群馬県では多文化共生・共創推進条例を策定し、高知県では第二期高知県外国人材受入・活躍推進プランver.2の実施、茨城県では外国人幸福度指数を発表するなどの外国人の積極的な受入れに向かう動きもある。
そうした自治体の動きにもかかわらず、政府が移民政策に対して曖昧な姿勢を取り続ければ、反移民感情を煽る動きは今後さらに勢いを増す可能性がある。「移民」という言葉自体が政治的タブーとされ、議論が封じられている現状は、健全な政策形成において重大な障害となっている。
政府はまず、外国人受入れ政策の全体像を明確に示す必要がある。どのような人材を受入れるのか、受入れ後にどのような支援や制度整備を行うのか、そして移民と共に暮らす日本の将来像をどのように描くのか。これらを国民と共有し、対話を重ねることが不可欠である。特に、日本のアイデンティティや文化との共存をどう図るかについては、丁寧な議論が求められる。
グローバルな視点で見れば、日本は移民政策に成功しやすいともいえる。それは欧州や米国では陸続きで意図しない移民・難民の流入が生じやすく、現在の反移民、反難民の動きは「国境危機」に由来するものである。一方、日本は島国であり、流入の管理が徹底できる。さらに人口減少により人手不足は永続するため、適切な日本語教育と職業訓練を行えば長期に失業することも想定しづらい。欧州での移民の犯罪者は失業し困窮した若い男性が定番であるが、人口減少が続く限り、日本ではそうした状況は回避できる。
最終的には政府は移民法あるいは在留外国人基本法を策定すべきである。この法においては外国人に対する政府の基本姿勢を示すとともに、彼らへの支援策、彼らの権利と義務、さらに政府、自治体の役割が示される必要がある。筆者は昨年まで勤務した日本国際交流センターにおいて、政府に対して在留外国人基本法の要綱案の提言を2度にわたり行い、法務大臣を招いてシンポジウムを行った。どのような政権になろうとも、人口減少は避けられず、外国人への依存は高まるばかりである。
排外主義的な反応に対しては、感情的な対立ではなく、事実と理性に基づく政策対応をとるべきである。人口激減に直面する日本が持続可能な未来を築くためには、移民との共生を前提とした新たな社会像を描き出すことが急務であり、国民的に開かれた議論が今こそ必要である。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2025年12月号
【特集:「排外主義」を問い直す】
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