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【特集:予防医療の未来】
矢崎久妙子:一人ひとりの人生と共に歩む医療を──予防医療センターが目指す未来型予防医療への挑戦

2023/11/06

  • 矢崎 久妙子(やざき くみこ)

    慶應義塾大学予防医療センター事務長

人間ドックからパーソナライズド・ドックへ

予防医療センターは、2012年に3号館(南棟)3階において開設されました。開設以来、私たちのセンターが大切にしているのは、精度の高い検査と個別性を重視した医療です。予防医療センターが対象とするのは、治療すべき明確な疾患がある方ではなく、治療すべき疾患がない方や、あるいは自覚症状のない未病段階(揺らぎ状態)にある方です。そのため、「健康」や「予防」に対する考え方や取り組み方は1人ひとり異なります。

当センターを訪れる方々の多くは、身体上の大小はあるが問題を抱えながらも、その問題と上手に付き合いながら生活していると思います。また、「体調が思わしくないが」と一言で言っても、日常生活に支障をきたし入院加療が必要な状態もあれば、多少の症状があっても無理をしなければ安定した毎日を送れる状態もあります。さらには、その状態も常に揺らぎ変化しているため、1年に1回、誰もがみんな同じ検査項目を受診するだけでは不安が残ります。その方に適した検査メニューをご提案し、必要ならば追加検査を加えながら、その方独自の検査メニューを受診いただくことが大切であると私たちは考えます。

一般的に、人間ドックの経営は、多くの方に受診していただくことが必要であるため、受診者の検査メニューをできるだけ統一することで効率的運用につながり、かつ経済的に有効です。しかし、私たちのセンターでは「一人ひとりの人生と共に歩む医療を」という基本コンセプトのもと、検査メニューを限定するのではなく、受診者がご自身の希望に合わせて検査をオーダーメイドすることができます。そのため、私たちは「人間ドック」ではなく、パーソナライズド・ドックと呼んでいます。

パーソナライズド・ドックでは、生活習慣病に対する早期発見を目的に、健康状態を総合的にチェックする3つの基本コース(上部消化管内視鏡検査有りのコース・上部消化管内視鏡検査無しのコース・上部消化管内視鏡と大腸内視鏡を1日で行うコース)を用意しています。3つある基本コースを選択いただいたあとは、8個ある専門セット(心臓・血管セット、脳画像セット、レディースセットなど)や、19個ある個別オプション検査(PET - CT、ホルター心電図、睡眠時無呼吸検査)の中から自由に追加いただくことで、1人ひとりオリジナルの検査メニューを作ることができます(検査の組み合わせによっては同じ日に組むことができないなど一部制限があります)。

パーソナライズド・ドックの主な特徴

予防医療センターが提供するパーソナライズド・ドックは単に検査を行うだけではありません。「慶應義塾大学病院所属の専門医や技師による確かな診断」を根底に置きながら、「検査前に行う看護師による事前問診」、「検査後の医師による結果説明」、「予防医療コーディネーターによる検査後のフォローアップ」など、対話を軸とした予防医療アプローチを行っています。

予防医療では、正確な診断力のもと、できるだけ早い段階で病気を見つけることはもちろんのこと、そもそも病気にならないように生活習慣を改善してもらうことも大切です。病気を見つけるためには科学的根拠に基づいた高精度の医療が必要ですが、生活習慣の改善のためには、受診者との対話が極めて重要となります。ライフスタイルは人それぞれであり、健康に対する考え方も人それぞれに異なります。確かな科学的エビデンスを持ちながら、受診者との対話を重ね、1人ひとりの価値観を尊重し、不安や希望に寄り添うこと、それが私たちの目指すべきパーソナライズドされた未来型予防医療の姿です。

麻布台ヒルズ移転後は、こうした予防医療センターの特徴を継続しつつ、ほぼ全ての医療機器を最新のものにし、より高精度な検査が可能な環境を整えました。また、受診者のプライバシーに配慮した空間デザインに致しました。例えば、検査着に着替える前と後とでの待合スペースを区切り、内視鏡の回復室では他の方の視線を気にすることなくお休みいただけるよう1人ひとりカーテンで仕切れるようにしました。また、大腸の前処置室は全て個室化し、それぞれの部屋に専用トイレを設置しました。

来院の理由が検査であれ治療であれ、病院という空間で心安らぐ人は少ないと思います。今回、病院という空間から飛び出し、麻布台ヒルズという「街」に居を構えたことを生かして、可能な限りリラックスできる環境作りを目指しました。

予防医療メンバーシップ

予防医療の未来を見据え、麻布台ヒルズへの移転を機に新たに創設したのが、「予防医療メンバーシップ」です。「予防医療メンバーシップ」は、大学病院が初めて試みるメンバーシップ制の医療サービスであり、徹底した個別化医療への挑戦でもあります。

「予防医療メンバーシップ」の主な特徴は、〈プライマリードクターを中心としたメンバー専属のパーソナルサポートチームによる医療サポート〉、〈メンバーの方の考え方や状況に合わせて、プライマリードクターがカスタマイズするパーソナライズド・ドック〉、〈有所見時における慶應義塾大学病院の全面バックアップ〉の3点となります。従来の人間ドックにおいて、医療機関側が提供するのは検査結果だけでした。受診者はその結果をご自身で把握いただき、ご自身で健康管理をしていただいていました。自己管理ですと継続性の担保が難しく、日常生活の改善まで至るのはなかなかハードルが高いと感じる方が多い印象を持っています。そこで、「予防医療メンバーシップ」では、プライマリードクターがメンバーと一緒になり、何年か先に起こりうるリスクを予想しながら、日常生活をデザインしていくことを目指しています。

麻布台ヒルズでの開業

予防医療センターは、2023年11月6日(月)より、麻布台ヒルズ森JPタワーにおいて開業いたします。「予防医療センター」を信濃町の本院から麻布台ヒルズに移転するということは、私たちにとって、大変大きな決断でした。本院の組織が信濃町の敷地の外に出るのは、慶應義塾大学病院100年の歴史の中で初めてのことだからです。大きな不安もありますが、不安は希望の種でもあります。「超高齢社会における健康寿命の延伸」という、これからの日本において避けては通れぬ社会的課題に対して、私たち予防医療センターは、「一人ひとりの人生と共に歩む医療」を心掛けながら、未来型予防医療の推進に努めてまいります。

【住所】
〒106-0041 東京都港区麻布台1丁目3番1号麻布台ヒルズ森JPタワー5階
      慶應義塾大学予防医療センター

【最寄駅】
東京メトロ日比谷線 神谷町駅(徒歩11分)
東京メトロ南北線 六本木一丁目駅(徒歩10分)

慶應義塾大学予防医療センター(代表)
受付時間 月~金 第2・4・5 土曜日8時30分~17時
休診日 日曜、祝日、第1・3土曜日、年末年始(12月30日~1月4日)
※ 休診日は慶應義塾大学病院の定めた日に準じます。
TEL 03-5843-6085

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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