【特集:予防医療の未来】
伊藤裕:メタボリックドミノと〝未病〟医療──コンヴィヴィアリティ(conviviality)の創造
2023/10/06
7.「幸福寿命」とコンヴィヴィアリティ(conviviality)──「幸せ」は「あいだ」にある
今後100歳を超えて生きる人は増えていきますが、110歳を超えた方(超・百寿者、スーパーセンチナリアン)は日本に150人程度であり、その数は増加していません。この事実は、今の形の生命体としてのヒトの寿命限界は110歳あたりにあることを示しています。私は、スーパーセンチナリアンの方にお目にかかる機会がありましたが、印象深かったのは、「幸せそう」ということです。お話しする私までも幸せな気分になりました。私は、平均寿命(生命寿命)、健康寿命のほかにもう一つ別の次元の寿命として、「幸福寿命」があるとしています(『幸福寿命』伊藤裕 朝日新書)。健康と幸福は近しいですが同じでなく、健康であっても不幸と思う人も、大病を患っていても余計に幸せを深く感じられる人もいます。結局我々の生きる目的は幸福に生きることですし、スーパーセンチナリアンの方を見ていると幸せを感じていると、自ずと長寿となり、天寿を全うできると感じます。
私は、未病対策──病気にならない状態の先に、幸福が待っている、という考えではなく、幸福そのものを目指すことで、未病は自ずと達成できると考えています。
現在、幸福、ウェルビーイングが注目されています。私は、幸せは「あいだ」にあるとしています。人間は、人の間と書いて、はじめて人らしくなる、英語でもhuman being(be はあいだ、という意味)といいます。幸福も、英語でwell-being、「いいあいだ」です。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は「幸福学」の大家ですが、幸福の4因子を示しておられます。その第2因子は、「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)です。人との接触によって、絆の気持ち(コミットメント)を高めるホルモンであるオキシトシンの分泌は増加します。
私のウェルビーイングのイメージは、「コンヴィヴィアリティ」が実現する社会です。コンヴィヴィアル(convivial)は、con(ともに)、vivere(生きる)ということで、直訳すれば「共生」ですが、vivere には、生き生き、快活さのニュアンスがあり、(人が)陽気、(行事などが)にぎやか、(雰囲気などが)居心地のよい、などの語感を持っています。コンヴィヴィアリティ(conviviality)とは、自分とは異なる他者と出会い、お互いの自発性を尊重しあいながら、同じ場所、時間を分かち合える状態です(『コンヴィヴィアル・テクノロジー』緒方壽人 BNN)。
私は、「コンヴィヴィアリティ」の創造こそが、未病医療の基盤となると考えおり、未病医療の実現には、人間ひとりひとりに対する広角の理解とリスペクトが必要になると思います。
(2023年8月28日、三田キャンパスにて一部オンラインを交えて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2023年11月号
【特集:予防医療の未来】
カテゴリ | |
---|---|
三田評論のコーナー |