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【特集:日本の住環境、再考】
安藤真太朗:コミュニティと住まいを健康から考える

2021/12/06

住まいからのゼロ次予防

病気の予防においては3つのフェーズがあるとされる。まず、1次予防がある。これは生活習慣等の改善により発病を未然に防ごうとするものである。続いて2次予防は、健康診断の受診等によって病気の早期発見と早期治療を目指し、3次予防は、発病後の悪化や後遺症の防止を目的とするものである。健康日本21においてはとくに一次予防が熱心に取り組まれてきたが、《ゼロ次予防》の対策がより重視されてきている。ゼロという言葉どおり、1次予防の前段階の予防を指し、「望ましくない生活習慣の原因となる社会経済的、環境的、行動条件の発生を予防すること」を目的に、個人の努力に依存せずとも、知らず知らずに健康へと結びつけようとする取り組みを指す。

前段において、コミュニティからのゼロ次予防について述べたが、住まいからも同様にゼロ次予防を図ることができると考えられる。国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業では、日本の住宅内で推奨値の18℃どころか10℃を下回る寒さに曝される実態と、寒冷曝露に伴う健康被害に関するエビデンスが集積されている*2。例えば、起床時に寒冷であることが血圧上昇を招くこと、寝る前の居間が寒冷であることが夜間頻尿や睡眠の質の悪化を招くこと、コタツを使用する人は座っている時間が長くなり身体活動量も減少してしまうことなどである。以上のように望ましくない採暖行動や寒冷曝露といった条件を排することは、知らず知らずに居住者を健康長寿に導くゼロ次予防となると考えられる。

住環境の気づきを得る学習の必要性

以上のように、住まいやコミュニティにおいては、人々の健康寿命延伸に寄与する要因が多く潜んでおり、これらを上手くコントロールすることでゼロ次予防につなげられる可能性がある。しかしながら、その促進を妨げるバリアがあることもわかってきた。ある中山間地域で室温調査を実施した際、夜間に5℃を下回る環境で過ごしているにもかかわらず、「夜間に寒いと感じることは全くない」という回答者がいた。ヒアリングをしてみると「ずっとこの家なので、これが普通」という話であった。同様の回答は多数存在しており、問題の根深さを目の当たりにした。

この社会課題への対応策を検討しようと、高知県梼原町(ゆすはらちょうにおいて、「健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造(研究代表・伊香賀俊治)」という事業が展開された*3。ここでは、町内の高齢者に高断熱高気密のモデル住宅と自宅の違いを、肌で体験してもらう宿泊体験学習を実施した。自宅とモデル住宅の双方で温湿度の測定や熱画像の撮影、さらには家庭血圧や睡眠の質等についても測定しており、目でも体感できるプログラムとした。参加者からは「モデル住宅は廊下でも寒くなかった」、「自宅がいかに寒いか実感した」、「寒い日は朝の血圧が高いことがわかった」などの反応があり、住民の気づきにつながった。また、知人同士で参加してもらったことにより、モデル住宅と自宅の室温比較に留まらず、知人の家との比較までも行われており、とくに寒い人が問題意識をもつことにも寄与していた(図1)。

住まいは長く滞在する空間にもかかわらず、適切な冷暖房の使い方や換気方法、断熱性能等についてはよく知られていない。ゼロ次予防を推進する上では、自宅の現状を知り、課題を認識することが不可欠である。宿泊体験プログラムはその典型例ではあるが、まずはこの冬、自宅の朝晩の室温と家庭血圧を記録してみてはどうだろうか。集団で取り組むとなおよいかもしれない。

図1 高知県梼原町における宿泊体験プログラムの様子

〈注〉

*1 高野陽太郎(2008)『「集団主義」という錯覚──日本人論の思い違いとその由来』(新陽社)

*2 伊香賀俊治(2021)『暖かな住まいと健康──血圧、睡眠、疾病などで研究成果相次ぐ』(ハウジング・トリビューン)20巻629号、8─10頁

*3 伊香賀俊治ほか(2017)『すこやかに住まう すこやかに生きるゆすはら健康長寿の里づくりプロジェクト』(慶應義塾大学出版会)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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