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【特集:再生医療の未来】
再生医療ベンチャーへの投資とその可能性

2019/06/05

慶應義塾関連の再生医療ベンチャー

慶應義塾では医学部を中心に、ここ数年でベンチャーを育成する動きが活発になっている。大学の研究成果を実用化し、社会に貢献するというミッションのもと、2016年度から開始した医学部主催の健康医療ベンチャー大賞は2018年度の第3回には100組を超える慶應内外のベンチャーが応募する一大ベンチャーコンテストになった。また、2018年11月には産学連携を加速するためにイノベーション推進本部を設置し、事業の柱の1つにベンチャー育成を掲げている。

慶應関連のベンチャーの中でも再生医療は注目されており、2019年3月現在、6社の再生医療ベンチャーが設立されている(表2)。

特にiPS細胞を使った再生医療は慶應義塾大学医学部が世界的にリードしている分野であり、ベンチャーの活躍も期待されている。ケイファーマはiPS細胞を使った脊髄損傷治療の臨床研究に取り組む医学部の岡野栄之教授と中村雅也教授の研究成果を実用化するために設立されたベンチャー企業だ。神経再生技術の実用化、および神経難病に有効な創薬開発に取り組んでいる。セルージョンは医学部眼科学教室の坪田一男教授、榛村重人准教授、羽藤晋特任講師の研究成果をもとにiPS細胞を使った角膜の再生医療に取り組んでいる。Heartseedは医学部循環器内科の福田恵一教授が取り組んできた心臓の再生医療の研究成果を実用化するために設立されたベンチャー企業だ。iPS細胞を用いて心筋梗塞等の虚血性心疾患や拡張型心筋症への治療法を開発している。

iPS細胞以外の再生医療に取り組むベンチャーもある。AdipoSeedsは、元医学部長の池田康夫名誉教授と医学部臨床研究推進センターの松原由美子特任准教授の研究成果をもとに、脂肪細胞由来の間葉系幹細胞から分化誘導したASCL−PLCの医療応用を目指している。メトセラは先端生命科学研究所の岩宮貴紘元特任助教(現在は非常勤の所員)の線維芽細胞を用いた心臓疾患の治療方法の研究成果の実用化に取り組んでいる。レストアビジョンは、医学部眼科学教室の坪田教授、栗原俊英特任准教授、堅田侑作特任助教が設立したベンチャーで、視覚再生遺伝子治療薬を開発している。

筆者が社長を務める慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)は慶應の研究成果を活用したベンチャーの育成をミッションとしており、AdipoSeedsとセルージョンに投資をしている。慶應はもちろん、日本のアカデミアには魅力的な再生医療のシーズが多く、研究者の起業マインドも高まっており、投資対象としての魅力を感じている。一方で、ハードルが下がったとはいえ、再生医療ベンチャーの成功には、高い経営能力を持った人材が不可欠だ。今後より多くの経営人材が再生医療ベンチャーに参入してくれることを期待している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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