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【特集:AI 社会と公共空間】
座談会:AIネットワーク化の中で、自由で公平な社会をどうつくるか

2019/02/05

自由な公共空間をどうデザインするか

山本 今、荒井さんから「設計」という話が出ました。自由を維持するためには、ある種の設計が必要になってくるのではないか。

自由というのはおそらく今までは放任的な、つまり政府の規制でも技術的な規制でも、他者からの干渉を排除するような消極的な自由概念が中心としてあった。でも、民主的な、開かれた社会、積極的な自由を維持するには、設計的な介入の要素が重要になってくるかもしれません。

日本が目指すべき道が中国的なものでないとすると、どういう「設計」ないし「仕掛け」が必要になるのでしょうか。

若目田 技術的な話の前に、インターネットやAIなど技術の利便性の一方で、それらが引き起こす新しい課題というのは、サステナビリティの観点からも企業の新たな社会的責任だと思います。過去を見れば、自動車の発明は公害や交通事故といった社会課題を招きましたが、ハイブリッドカーの開発など予想されるリスクに早く手を打てば、むしろ社会的な活動をしていると評価され、新事業として立ち上がることすらあります。

これをデジタル時代に置き換えれば、AIという人の内面の推知、個人の特定など、プライバシーに影響のある技術へ投資をするのであれば、一方では、プライバシーを守る技術にも投資することにより、生活者の信頼と、新たな事業のきっかけを得ることができます。言い換えれば、個人も、企業も、社会も皆、ハッピーとなるサービスをデザインすることになろうかと思います。

単純な例で言うと、人を高精度に見つけ出して判別するテクノロジーがあるのだったら、例えばスーパーなどの棚の商品の状態をセンシング、分析する目的であれば、人と判断したらそのデータを即時消去し、言わば人を認識しないセンサーにして棚の状態だけを分析する設計とするとか。

それはまさに、プライバシー・バイ・デザインの考え方の実践と言えます。さらに、プライバシーのみならず人権全体にまで視野に入れた「ヒューマンライツ・バイ・デザイン」というアプローチが提唱されていますが、特に経営層にこそ、それを理解し、実践してほしいと思います。

目先の経済価値にとどまらず、このような技術開発、サービス開発に先行投資する企業が国際的にも評価されることが理想です。

山本 私もまったく同感で、日本が今後、中国とも、アメリカやヨーロッパとも違う、「人間中心」を謳うときに、炎上リスクをどう回避するかではなく、「こういう技術でこういうインクルーシブな社会が実現されますよ」と積極的に打ち出すことが重要だと思います。

これまで以上にインクルーシブでダイバーシティの確保された社会を実現する技術はあるのでしょうか。

荒井 技術的には実現可能性は十分ありますが、社会が受容するかどうかも重要です。

山本 やっぱり企業が使わないということですか。

荒井 その可能性もあるかと思います。やはり売れないと企業は困ると思うので、ユーザーの要望も聞かないといけない。

意思決定をAIも調整はできますが、それとどう付き合っていくかというのは人間側の問題です。AIの判断の設計に関する議論をきっかけに、社会の側の対応をより発展させていけるといいのではないかと思います。

山本 結局は社会の成熟度にかかっていると。企業に対する社会的評価の基準を変えていくことも今後重要になってきますね。

ただ、現段階でそこまで社会が追いついていないとすると、法的なコントロールのあり方も問題になると思います。小林さん、そのあたりどうでしょうか。

小林 AIをどうするか以前に、今後の日本をどうするかを決める必要があります。

日本は今、3つの大きな変化に直面しています。1つは人口減少。2つ目は人生100年時代の到来。3つ目はテクノロジーの圧倒的な進展。これらは避けられない変化なので、どう受け入れてチャンスに変えていくのか、ということがとても大事だと思います。

これを前提に考えると、テクノロジーの進展の1つの象徴であるAIの活用については、実は日本にこそチャンスがあります。

「AIに雇用が奪われる」という話がよくあります。中国、インド、アメリカなどは大量の若年人口により、失業リスクを社会不安として抱えていますが、人口減少下にある日本はその心配がなく、むしろ社会的に導入を進めていくことが必須なのです。

ただし、日本にはまだ「お上」という言葉があるように、行政にルールを決めてもらわないと心理的に動きにくいところがありますね。

だからこそ、国内における規制のあり方については、テクノロジーの利活用を見据えて政治行政側から早急にルールを整備することが望ましい。法整備を待たず、ガイドラインや指針というソフトな手法でできるだけ早く手を打っていく。

同時に、世界が中国とGAFAだけが優位なデータ経済に支配されないよう、「人起点」のデータ利活用ルールを世界標準にする必要があります。そのためには世界のマルチステークホルダーを巻き込む必要があり非常に大変ですが、国際標準がない今だからこそチャンスです。

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