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【特集:自由貿易のゆくえ】
トランプ時代におけるEUの通商政策

2018/08/06

対米報復で一枚岩

圧倒的な力を持ち、周辺国の財政・経済政策にあれこれ注文をつけるドイツは、欧州でも煙たがられている。メルケル独首相が持ち込んだ難民危機は、欧州政治を混迷させた。だが、貿易摩擦に限っては、域内でトランプ政権のドイツ批判に便乗する動きはほとんどなく、EUの政策執行機関である欧州委員会もドイツを徹底的に擁護する。

米国がアルミニウムと鉄鋼に輸入制限を発動すると、EUは世界貿易機関(WTO)に提訴したうえでハーレーダビッドソンのオートバイなどに報復関税を課した。米共和党議員の地元選挙区を狙い撃ちにした対抗措置にほかならない。意に介さないトランプ大統領が自動車輸入に20%の関税を課すことをにじませると、欧州も一歩も引かず、再び実力行使に踏み切る構えを見せている。こうしたEUの動きを、今のところ全加盟国が支持する。

もはや米国は信頼できない――。そんな思いがドイツだけでなく欧州全域に広がり、いつもは百家争鳴のEUが一枚岩になった。

要となるフランスはドイツに寄り添う。「G6が米国と対峙するのを排除すべきではない」。カナダでの主要7カ国(G7)首脳会議を控えた6月、米国を孤立させるべきだと語ったのはマクロン仏大統領であった。ルメール仏経済・財務相も7月、「自動車に関税を課すようなことがあれば報復する」と牽制した。欧州統合の旗を振るマクロン政権は、対独関係を何よりも大切にする。「欧州から抜ければいいのに」。トランプ氏がジョークを飛ばしたと米紙『ワシントン・ポスト』は報じるが、マクロン氏が素通りしたのは言うまでもない。

ナショナリズムに傾き、難民政策ではEUに盾突く中・東欧も保護主義に傾く米国を快く思っていない。今や東欧はモノづくりの心臓部だ。ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)の試算によると、対米輸出に占める自動車関連産業の割合は自動車王国のイタリアで1割、ドイツで3割なのに、スロバキアでは6割に達する。米国が輸入制限に踏み切れば、打撃は計り知れない。

世界を巻き込む貿易戦争による欧州経済への影響は、無視できない。欧州から米国への輸出が滞るだけでなく、米中の摩擦で米国の生産拠点から中国に出荷しているBMWなども販売価格の引き上げを余儀なくされる。販売台数が減れば、企業業績に響く。ドイツ経済が下振れすれば、ドイツへの輸出で潤う中・東欧や北イタリアも余波を受ける。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は「増大する保護主義」が景気の「主なリスク」だと警告する。

EUが米国からの輸入車に課す10%の関税を引き下げ、報復合戦になるのを避ける構想が取り沙汰されるが、まとまるかどうかは見えていない。

広がる「自由貿易支持」

もっとも、昔から欧州が自由貿易に熱心だったわけではない。保守政党はおおむね推進派だが、環境・左派政党の多くは農業が競争にさらされるうえ、食の安全が守れなくなるなどと訴えてきた。2016年にカナダと包括的経済貿易協定(CETA)を交渉した際は、ベルギーの地域政府が頑強に抵抗。オーストリアでは、協定に反対する署名が50万人も集まった。

だが、今「反グローバル」を唱えればトランプ陣営に与することになってしまう。これは左派陣営にとっては好ましくないから、反対運動の機運がしぼんだ。

期せずして「自由貿易支持」に傾いた欧州だが、気がかりなことがある。左派系のポピュリズム政党「5つ星運動」が与党になったイタリアは、2017年から暫定適用中のCETAを今さら覆そうとしている。農村票を意識した政治パフォーマンスだが、火ダネはくすぶる。

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