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【特集:防災を考える】
人口減少時代の自然災害に生態系減災で備える

2018/03/01

海岸林が持つ生態系減災機能

(上) 高知県土佐清水市大岐海岸と海岸林
(中) 大岐海岸の海岸林のタブノキ
(下) 仙台空港近隣のクロマツ植林の様子

筆者と共同研究者は2017年10月からニッセイ財団の助成を受け「南海トラフ巨大地震による津波を想定した生態系減災(Eco– DRR)手法の開発」と題した研究を開始した。本特集の座談会に登場している環境情報学部大木聖子准教授もそのメンバーの1人である。研究対象地として、高知県と徳島県を取り上げ、高知県においては30m以上もの津波に襲われると予測されている土佐清水市を選定した。土佐清水市は、高知県の最南端に位置し、数多くの台風が上陸してきた足摺岬を持つことで有名である。急速な人口減少と高齢化に対応することが求められているが、一方で海岸線のほとんどが足摺宇和海国立公園に指定されており、風光明媚な景勝地として知られている。土佐清水市役所からも協力を得ながらいくつかの研究を進めているところであるが、中でも私たちは大岐海岸の海岸林に注目している(写真上)。

大岐海岸はかつては日本各地の海岸林と同様に人為的に植林されたクロマツ林であった。現在でも地域の方は大岐松原と呼んでいる。戦後以降の松枯れで多くのクロマツが枯れたことと、国立公園に指定されたこともあり、地域の人々に積極的に利用されなくなったことから、今では常緑広葉樹のタブノキを中心とする立派な海岸林へと遷移している(写真中)。

東日本大震災では、多くのマツの海岸林が津波によってなぎ倒され、押し流された倒木が被害を拡大したとも指摘された。マツの海岸林は、自然のものではなく、人間によって植林され、管理されてきた人工林である。東日本大震災で被害を受けた海岸線には、その後膨大な数のマツの植林がなされているが(写真下)、松枯れの被害が北日本に拡大していることもあり、本来の自然の海岸林を再生させることの重要性が早くから指摘されていた。

しかし、日本の砂浜の海岸線はほとんどマツ林に変えられており、自然の植生はわずかにしか残されていない。加えて、そのような自然の植生を大規模に再生させる技術の蓄積もなく、東日本大震災からの復興に際しては、一部試験的な取り組みはあるものの単調なマツの植林を選択せざる得なかった。技術が確立していないと言われる一方で、土佐清水市の大岐海岸では数10年の時を経て、まさに自然と見事な海岸林が成立していたのである。どのような要因が自然に近い海岸林の発達を促したのか。常緑広葉樹の海岸林が津波の力をどれだけ軽減できるのか。今後の日本の海岸における津波防災の一つの鍵になる事例と捉え、研究に取り組んでいる。


※※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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