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【特集:防災を考える】
人口減少時代の自然災害に生態系減災で備える

2018/03/01

人口減少時代の生態系減災実装

東日本大震災の直前の2011年2月末に、国土審議会政策部会長期展望委員会の「国土の長期展望」中間とりまとめが公表された。筆者もこの委員会のメンバーであったが、2005年時点で人口が分布している地域のうち2050年までに約2割の地域が無住化するなど、衝撃的な日本の将来像が公開された。東日本大震災により、一時的に人口減少・超高齢化への関心は相対的に下がったが、その後のいわゆる増田レポートで再び国民的に注目を集めるようになった。

東海、東南海、南海地震(いわゆる南海トラフ巨大地震)は、東日本大震災での津波被害に鑑み、その想定が三地域連動型、マグニチュード9・1と引き上げられた。政府の試算では最大32万人もの死者、最も高い地点での津波は30m以上とされている。巨大津波に襲われると予想された地域の多くからは、もう諦めたというような声も聞かれるようになった。

しかし、地震の強度と津波の高さは、あくまで想定される最も大きいものである。南海トラフ地震は歴史上様々なパターンで発生しており、また地質学的な研究から推定される過去の津波高も10数m程度であるという。東日本大震災からの復興においても防潮堤の高さを決めるために、L1、L2という津波の高さのレベルが盛んに議論されたが、その想定にはかなりの不確実性を含む。

一方で、人口減少は防災と自然環境の視点からはポジティブな面が大きい。先に気仙沼の例を挙げたように人口増加局面において必然的に災害リスクの高い土地における集約的な利用がなされてきた。人口減少は自然環境に対する負荷の総量も減少させる。災害直後は、防災が大きく注目を浴びるが、人々は災害から身を守るためだけに生活しているわけではない。中小の地方都市が2040年までに約40%もの人口減少を迎えるとされている今、生態系減災の活用は必然である。

しかし、どのようにそれを実現するのかが大きな課題となっている。高知市は2017年3月に立地適正化計画を策定した。立地適正化計画とは、人口減少時代に対応して、都市をコンパクトにして行くための計画である。高知市では南海トラフ巨大地震に備えるために2015年に高知市強靱化計画を策定し、これが最上位の計画として位置付けられ、その下に総合計画や都市マスタープラン、立地適正化計画が位置付けられている。

立地適正化計画では人口減少と災害リスクの低減のために居住誘導区域を現在の市街化区域に対して8%縮減させることが明記された。ただし、津波対策はインフラの整備・拡充が中心で、生態系減災のような対策は組み込まれていない。高知市の人口は現在の約33.3万人から2040年には26万人強に減少することが予想されていて、それは1970年代の人口に相当する。湾岸部の土地が限られているのも事実であるが、今後生態系減災を導入する可能性はあり得るだろう。

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