三田評論ONLINE

【三人閑談】
魔法少女に恋して

2026/02/25

厳しい時代を生き残るために

石井 新しい、子ども向けの魔法少女ものが出てこないそうですが、『プリキュア』シリーズでさえ、視聴率は相当減っているのでしょう。

鷲尾 残念ながらその通りです。単純に視聴率の数字だけでいうと、『おジャ魔女どれみ』の頃は世帯で13~14%を取っていたんです。それが『プリキュア』になって、10%ギリギリ取るか取らないか。今は世帯の数字でいうと、2から3%の間ぐらいです。そのため、今テレビ局は視聴率を指標にできなくなってしまっています。

杉山 そうすると、今は何を一番指標にされているのですか。

鷲尾 関連商品を含めたビジネスですね。つまり、きちんと計画数値なりの商品展開ができているかということが、大きな指標になっています。

かつて、『サザエさん』は視聴率を25%~30%取っていましたが、今はたぶん10%いっていない。その中で判断しなければいけないので、放送局は今、非常に難しい判断を迫られていると思います。アニメに限らず、スポンサーのお金を集めることに対しても厳しい評価をされる時代なのではないでしょうか。

杉山 人々の共通経験になるようなものが本当に今、少なくなっている実感があります。それこそ宗教も、神社仏閣を回るのが好きな人はいると思いますが、もう個人の趣味のような形になっている。宗教的なものに関心を持つ一部の人々という、限られたパイの取り合いのような、厳しい状況になってしまう。

しかも、他の宗教的な施設や団体にとどまらず、宗教ではない、別の何かと取り合っている。だからこそ、非常に難しいのかなと思います。

石井 日本だけでなく、世界的にそうだと思います。キリスト教でさえ、だいぶ弱くなってきていますからね。

海外における魔法少女

杉山 日本のテレビの視聴率が2000年代以降減っている一方、産業的に日本のアニメはずっと上り調子と言われています。海外での人気も高いようですが、『プリキュア』はいかがでしょうか。

鷲尾 どちらかというと、海外で人気が高いのは大人向けのアニメの話ですね。海外で、いわゆる子ども向けに作って子どもに受け入れられた魔法少女アニメは相当少ないです。

杉山 『セーラームーン』の人気はかなり高いと思いますが。

鷲尾 本当にあれくらいですね。アメリカは『セーラームーン』をものすごく受け入れたし、ヨーロッパ、特にフランスでの人気も高い。それ以外は『プリキュア』も含めて、ほぼ厳しい状況です。

女性が主人公ですべての物事を解決するという物語が、西洋文化のコンサバティブなところに受け入れられないところがあるようです。なぜ男性が出てこないのかとか、最後は男性が解決すべきではないのかと、昔は海外のファンからそういうコメントをもらったこともありました。

杉山 ジェンダー・ギャップ指数を考えると、むしろ意外な反応ですね。

鷲尾 もちろん今は、そうではなくなっているはずで、エンターテインメントの世界でも、意図的に女性を主体にお話を進めるというのは増えてきています。しかし、それでも子どもに対してのエンターテインメントは、親世代が自分の価値観ではねつける傾向がまだありますね。

その結果、欧米では子どものエンターテインメントで何が起きているかというと、全部、動物が主人公になるんです そうした問題を意識しなくていいので。

杉山 日本だとあまりその傾向はないですね。

石井 『どうぶつの森』というゲームは若い人たちに人気がありますが、あれも動物が主役というわけではないですしね。

鷲尾 やはり、ファンの方々の志向性が変わってきているのは強く感じます。『どうぶつの森』にしても、本来、子どもが楽しむものだったはずなのに、熱狂しているのは大人という現象が起きている。

子どもの世界ではやっているものは、昔からそうですが、大人はすごくキャッチしづらい。今は国内だけではなく、海外から入ってきているアニメーションも見られる時代です。『パウ・パトロール』という6匹の仔犬が主役のアニメや、YouTubeで配信されている『イタリアン・ブレイン・ロット』という作品も大人気です。子どもたちの間で何がブームになるのか、こればっかりは本当にわからない。

杉山 アニメの企画は放映する何年も前から動いていると思うので、子どもの世界をリサーチし、それで何がヒットするのかを読んで世に出す、ということは不可能に近いことのように思います。

鷲尾 子どものインタビューは何度かやっているんですよ。でも、小学生ぐらいの男の子たちのグループインタビューは、まあ5分もたないです。インタビューはそっちのけでお菓子ばかり食べてしまう(笑)。

女の子はおとなしいのですが、今度は親御さんが横について、これ好きだよね、という問いかけに対し「うん」と頷くだけになってしまって。マーケティングという概念が一番はまらない人たちなんです。だけど明確に志向性がある。

杉山 はまった時の爆発力はすごいですよね。過去の事例を思い返しても、『プリキュア』もそうですし、『妖怪ウォッチ』などもそうだったと思います。

鷲尾 そうです。何かがブームになると、それ一択になるんですよ。だからみんなそこを狙うのですが、なかなかはまらない。

杉山 その中でも比較的、魔法少女ものが続いているのは、きっとそのフォーマットが当たりやすいという経験則があるから、ということでしょうか?

鷲尾 それはあると思います。特に自我が芽生え始めた子どもにとって、自己認識とのギャップがあるじゃないですか。小さい子どもなのに、大人と一緒に生活していると自分も大人のつもりになる。それがたぶん、変身願望につながるんだと思います。

大人と同じ格好をする。もしくは自分が見ている憧れの大人と自分を同化するという作業。そこに変身願望がはまった時に、子どもたちが喜んで熱狂してくれることにつながると思っています。

石井 憧れとして見ていた大人に、自分たちもなれるということですね。

鷲尾 今、偶然アイドルというテーマでプリキュアをやっていますが、これを先にやったのは『アイカツ!』(2012年)という番組なんです。

これはいわゆるショッピングセンターなどにある筐体に、カードを差して遊ぶカードゲームと連動して始まった番組なんです。筐体にカードを差すと、画面の中にいる女の子が変身する仕組みになっています。

これが子どもたちに見事にはまった。華やかな衣装が描かれたカードを使って、好きなキャラクターをコーディネートしてゲーム上で遊べる。着せ替え人形と、変身願望を合わせたような形になっている。

杉山 ある種の伝統がある中で、あらためてプリキュアをアイドルにする、というのは思い切った決断だったと思います。でも、最新作の1話を見ると、しっかり肉弾戦をしていて、あ、やっぱり『プリキュア』なんだと思いました。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事