【三人閑談】
魔法少女に恋して
2026/02/25
最終回に向けての葛藤
杉山 魔法少女もの、というジャンルで欠かせないキーワードが「変身」なのではないかと思います。例えば『スレイヤーズ』の主人公は魔法を使いますが、変身はしない。そのため、厳密には魔法少女ものには分類されないのではないかと。
石井 変身は1つ、重要なキーワードかもしれませんね。というのも基本、魔法少女は変身しないと魔法が使えない。だから本来、変身能力を失うということは物語上、大きな意味があると思います。
例えば『アッコちゃん』の場合、最後に魔法を捨てるんですよね。
鷲尾 ああ、そうでしたね。
石井 魔法を捨てて元の人間に戻るというのがテーマで、意外とそれがきちんと描かれているのが見ていて面白かったんですよ。最近の作品では、必ずしもそういった点が描かれていないような気がします。
鷲尾 難しいですね。毎年、『プリキュア』でもそれを悩むんですよ。最終回をどうするか。
杉山 魔法を授けてくれた、かわいらしいマスコットキャラクターたちと別れるのか否か。
鷲尾 そうなんです。別れると変身できないという前提のお話なので、最後に別れて、悲しく終わっていいのか。子どもたちの夢がいったん途切れるというふうにしていいのかと、毎年そこは悩みます。
『アッコちゃん』も当時、衝撃だったのではないですかね。魔法を返すというのは。
杉山 ハッピーエンドで終わりたいけれど、魔法を持ったままでいいのか、というのは難しい問題ですね。今まで担当された中ではどちらを選択されたのですか。
鷲尾 どちらもありました。お別れで終わったものや、何年後の世界という風に時間が経過して、大人になって終わったシリーズもあります。色々なやり方に挑戦していますね。
正直、終わらせ方については正解がないと思うんです。当時、見ていた子どもたちが大人になったところで聞いてみて、ようやくどのように受け取られていたかがわかるのかなと。
世代を超えて愛される作品に
鷲尾 劇場版が公開されると、我々も休日に映画館に見に行くんですよ。お客さんの反応を見るために。
『プリキュアオールスターズ』といって、歴代のプリキュアが勢揃いする作品だと顕著なのは、小学生ぐらいのお子さんを連れた、親子連れのお客さんが増えるんです。
ある時、『オールスターズ』の映画を見ながら、ふと隣を見ると、色々なキャラクターが出てくるシーンで、お子さんが「昔見ていたのが出ている!」と言っているその横でお母さんが泣いているんですよ。
石井 お子さんではなくお母さんが。
鷲尾 ええ。きっと、昔のキャラクターが出てきたのを見て、当時お子さんとそのキャラクターが主役の作品を見ていたことを思い出したのだと思います。
子どもが大きく成長して、今こうして昔のキャラクターを一緒に見ていることを感慨深く思ってくれているのだと思います。あのような光景を見ると、長く続けることの意味やありがたさを実感できます。
杉山 私はライフコースとファンのつながりを研究していますが、当然のことながら、進学や就職、結婚などのライフステージの変化に応じて、ファンとしての経験もまた変化しています。
その女性は『プリキュア』のファンではないかもしれませんが、子育てや色々な苦労をされた経験と作品の経験を一緒に記憶されていたのでしょうね。
石井 通年で放映している『プリキュア』シリーズだからこそ、親御さんも余計印象に残っているのかもしれませんね。特に2000年以降、1年単位で放映している作品は減る一方ですから。
杉山 だいたい子ども向け以外は放映期間が短くなっていますよね。
鷲尾 そうなってしまいましたね。アニメ業界全体でも、1年間通して50話やるアニメーションは本当に減りました。『ドラえもん』、『名探偵コナン』、『クレヨンしんちゃん』、『サザエさん』など、歴史の長い作品ばかりです。
杉山 少子化の影響もあるかと思いますが、子ども向けのアニメが減少している中、『プリキュア』のようにしっかり続いて、見せられる作品があるのは大事なのではないかと思います。
石井 本当にそうですね。
鷲尾 業界全体や社内でも、新しい子ども向け作品の企画は通りづらくなっています。おっしゃるとおり少子化で、ビジネスが成立しないからです。儲けなければいけないとなった時に、新規に子ども向け作品を始めて、そこできちんと採算がとれるのかというのはなかなか難しくて。
そうした状況の中、幸いにして『プリキュア』シリーズはテレビ局、代理店、スポンサーの皆さんがずっと支えてくれているので、何とかやっていけている状態です。
杉山 そういう意味では子どもだけではなく、大人のファンもいるというのは強みですね。
鷲尾 そうですね。東映アニメーションでいうと『ワンピース』と『ドラゴンボール』という2作品が会社の収益のかなり大きな部分を占めています。実は私は『ワンピース』の立ち上げの時に関わっていたのですが、立ち上げから10年ぐらいは、ビジネス的に非常に厳しかったんです。
石井 そうなんですか。
鷲尾 10年目ぐらいに映画で大ヒットを記録して、同時にテレビシリーズも大きな盛り上がりがきた。そこからゲームアプリや商品展開などが軌道に乗って、今に至ります。
杉山 やはり、ファンが育つにはそれだけの時間が必要ということですね。
ただ、それだけ続けられたのは原作の連載が続いていたからこそでしょうし、続けていくこと自体も非常に大変だと思います。なかなか全ての作品でまねできることではないですね。
鷲尾 難しいですよね。そういう意味ではオリジナル、つまり原作のないお話で20年以上続けられているというのは非常に稀有な例だし、幸せなことではあるかと思います。
大人が見る魔法少女とは
石井 『プリキュア』が子ども向けの魔法少女であるのに対し、いわゆる大人向けの魔法少女の作品も数多く作られていますよね。バラエティ豊かで人気が高い作品もありますが、こうした作品たちの中に、何か共通項はあるのでしょうか。
杉山 全ての作品に該当するわけではありませんが、「魔法を得たことの代償」という点について、描かれていることが多いように思います。子ども向けだと、その点はそこまでフォーカスされない気がしますね。
例えば『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)では、魔法少女になることの良さ以上に、ネガティブな側面に焦点が当てられていました。物語のリアリティを考えた時、いきなり無力だった人間が強くなることの理由付けとして、ダーティな要素を結び付けるやり方は、今では広く受け入れられているように思います。
石井 魔法の力を得たことに苦悩する描写が入ることで、物語の深みが増すのかもしれませんね。
あと、西洋の魔女のイメージがあるのかもしれません。ヨーロッパでは長らく、魔女が魔法を使えるのは悪魔と契約して特別な力を得たからだ、という概念がありました。そういったイメージが反映されているのかもしれない。
鷲尾 そうですね。それでいうと、実は最近、色々な作品に魔法男子もたくさんいるんです。
ただ魔法男子は、大人向けの作品でも、その力を手に入れたことについて、あまり苦悩しないんですよね。魔法の力を使って頂点に上ることばかり考える。だけど魔法少女は、おっしゃるとおり、ものすごく苦悩するんですよ。そこは大きな差かなと思います。やっぱり男の子のほうが単純なのかな(笑)。
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