【三人閑談】
魔法少女に恋して
2026/02/25
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鷲尾 天(わしお たかし)
東映アニメーション執行役員。
1989年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1998年東映動画(当時)に入社。『プリキュア』シリーズにプロデューサー、企画などで長年携わっている。
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杉山 怜美(すぎやま さとみ)
明星大学人文学部人間社会学科助教。
博士(社会学)。2025年慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化社会学等。著書に『アニメと場所の社会学:文化産業における共通文化の可能性』(共著)他。
魔法少女との出会い
石井 鷲尾さんは長年、『プリキュア』シリーズ(2004年~)に携わっておられますが、昔から魔法少女が出てくるアニメはお好きだったのですか?
鷲尾 子どもの時に見ていたのは『魔法使いサリー』(1966年)や『ひみつのアッコちゃん』(1969年)といった作品ですね。ただ、当時はあくまでアニメーションの1つとして見ていて、魔法少女ものとしては見ていなかったんです。そもそも「魔法少女」という括りも、東映に入社してから知りました。
でもこうした作品との出会いが、今の仕事に就くきっかけになったのは間違いないです。慶應を卒業してから、別の仕事をしていたのですが、やはり子どもの頃に見ていたような作品を自分でも作りたい! という思いもあって、東映動画(当時)に転職し、今に至ります。
石井 私は子どもの頃は漫画にもあまり触れてこなかったのですが、唯一見ていたのが『鉄腕アトム』でした。そんな人間が『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』(春秋社、2022年)という本を書くことになったのだから、不思議なものです。
杉山 魔法少女の研究をされるきっかけは、何かあったのですか。
石井 私は戦後の宗教の変動を研究しているのですが、その一環としてメディアと宗教をテーマにしようと思ったのです。
そうして見た時に、今の若者たちの間でメディア、特に漫画やアニメといったポップカルチャーの影響力というものは非常に大きい。「布教活動」といった宗教用語を漫画やアニメから学んでいる若者もいるくらいです。
そうした影響力の大きさを知るため、若者の間で人気の高い魔法少女ものを題材にしようと思ったことが、きっかけですね。
杉山 私は今、アニメのファンの研究などをしていますが、元々小さい頃からアニメが好きでした。父親が『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』が好きだったこともあって、幼少期からアニメを見ていました。
ただ、魔法少女に最初に触れたのは映像作品ではなく、歌でした。幼い頃、車の中で色々なアニメソングが収録されたカセットをよく聞いていて、その中に『サリー』や『アッコちゃん』の主題歌があったんです。
石井 作品よりも先に歌だったと。
杉山 はい。作品で最初に見た記憶があるのは『夢のクレヨン王国』(1997年)です。なぜか家にキャラクターが描かれた虫かごがあって。何で虫かごだったのかよくわからないですが(笑)。後は『おジャ魔女どれみ』(1999年)やリメイク版の『アッコちゃん』、それからNHKで放映していた『コレクター・ユイ』(1999年)といった作品も見ていました。
『プリキュア』は残念ながら世代ではなかったのですが、今回あらためて拝見して、小学生の頃に見ていたら絶対好きになっていただろうな、と思いました。
鷲尾 ありがとうございます。
日本における「魔法少女」
杉山 私は今、自分の研究の中で、『スレイヤーズ』という作品のファンにインタビューしています。この作品は、魔法を使う女の子が主人公の小説(ライトノベル)が原作で、アニメやゲームなど、様々な媒体で展開しています。
『スレイヤーズ』のように魔法が登場したり、魔法を使うキャラクターが出てきたりする作品というのは数多くあると思いますが、あらためて魔法少女、といった時、その境界はどこにあるとお考えですか?
鷲尾 難しいですね。おそらく明確な定義といったものはないのではないかと思います。
ただ、いわゆる初期の魔法少女もの、『サリー』や『アッコちゃん』は、主人公が日常の中に隠れた存在、という扱いだった。そんな女の子たちが魔法を使って秘密裡に活躍するのを、低年齢の女の子たちが好んで見ていた。そんな時代が長らく続いていたのではないかと思うんです。
石井 確かに、そうしたフォーマットの作品は多かったですね。
鷲尾 それを壊したのが『美少女戦士セーラームーン』(1992年)だと思います。いわゆる、「変身して戦う」魔法少女ものですね。当時、魔法少女ものとしては異例の存在で、おそらく対象も従来の幼稚園~小学校低学年よりもっと上の年齢層を想定していたと思います。
でもそこに小さな女の子たちも飛びついた。そこから業界的には拡散の時代が始まったんです。いわゆる昔ながらの魔法少女ものから、『スレイヤーズ』や『セーラームーン』といった、戦う女の子たち、といったように。多様な魔法少女が活躍する時代になった。
杉山 魔法少女の幅が広がったのですね。
鷲尾 そうですね。今ではむしろ、昔ながらの杖を使って魔法を使うようなものは、大人向けのファンタジーの方で主流になっているのではないかと思います。
カウンターとしての『プリキュア』
杉山 様々な魔法少女がいる中で、『プリキュア』は低年齢の女の子向けというスタイルをずっと守り続けていますよね。今では子どもに限らず、幅広い世代の人々に愛されるコンテンツになっているかと思います。
今、私が教えている学生たちは、小さい頃から『プリキュア』がある世代なので、『プリキュア』のことは当たり前にわかるし、『プリキュア』を題材にレポートを書いたことがある学生もいるくらいです。
石井 新作が発表された時の盛り上がりもすごいですよね。影響力の大きさをひしひしと感じます。
鷲尾 ただ、これを作った最初のきっかけは、魔法少女ものというジャンルに対してのカウンターになる作品にしたい、という思いからだったんです。
先ほど言った、陰ながら内助の功的な形で人知れず世の中を救う、というお話がずっと繰り返されていたのですが、どうせやるのだったら、男の子のヒーローものと同じでいいのではないか、そんな思いから始めたんですね。初代の『ふたりはプリキュア』では、主人公たちは変身のためのアイテムは持っているのですが、それが携帯電話なんです。
杉山 当時の女の子たちが憧れる、最先端のメディアを変身アイテムにしたわけですね。
鷲尾 ええ。当時、玩具開発担当者に話を聞くと、彼らも現状に対して疑問を抱えていたらしい。それで杖などではなく、携帯電話を変身アイテムにして、それにカードをつけることにしたのです。
当時、玩具業界では女の子に液晶玩具ははやらないし、カード集めもしないと言われていたんです。それに対して、カードのバーコードを読み取らせて液晶が動く玩具にしましょう、という提案があって、やってみようということで始まったんです。
石井 当時からすると、かなり大胆な試みですよね。
鷲尾 大人たちには「そんなものがうけるはずない」と言われていたのですが、なぜか、子どもたちが受け入れてくれたんです。
もちろん今は色々と変わってきています。キャラクターは色々なアイテムを持っていますし、変身する時もにこやかに変身する。今やメイクもしていますからね。お子さんがメイクをするという概念も当時はなかったのですが、そういう新しい要素をどんどん取り入れている。
ただそれでも子ども向けであるということをずっと守り続けて作っていくことだけは、今後も変わらないと思います。
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石井 研士(いしい けんじ)
國學院大學神道文化学部名誉教授。
専門は宗教学・宗教社会学。研究テーマは「現代社会と宗教」。著書に『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』がある。