【三人閑談】
魔法少女に恋して
2026/02/25
子どもに向けた作品を作るために
鷲尾 『プリキュア』は途中、大変なこともありました。2016年に『魔法つかいプリキュア!』という作品を放映したのですが、実はシリーズが始まった頃、プリキュアは魔法を使っているのではないと私はインタビューで言い切っているんですよ。それなのに「魔法つかい」でいいのかと。
石井 ファンからは、矛盾しているように感じられたのでしょうね。
鷲尾 でも、周囲の色々な関係者から、ぜひ魔法つかいでやってほしいと言われたので、何とかやりましょうと。図書館に行き、中世の魔女の概念を学術書を読んで学んだんです。
するとその中に、中世の時代の為政者にとって都合の悪い、いわゆる民衆の尊敬を得られる職種の人たちを、魔女と称して排除した歴史があったという記述があって。
杉山 なるほど。
鷲尾 それだ、と思って。魔法を使えるということで排除された世界と、人間の世界が分かれて存在している中で、この別々の世界にいる2人が偶然手をつないだら、そこに奇跡が起きる。それがプリキュアです、という言い方をすればいいのではないかと。そうして『魔法つかいプリキュア!』というお話がスタートしたんです。
石井 中世の魔女の概念を作品に取り入れたわけですね。
鷲尾 アニメーションを作る時、アニメーションを参考にしてはいけないと思っているんです。そうではなく、別のところから概念を取り入れるため、様々なアプローチをする。今は現場のプロデューサーが毎年苦労して考えています。
杉山 友情や絆のような『プリキュア』のコアをどこに見るかという点については、これまで何度も問い直されながら構築されてきているのだと思います。
でもそうして製作者の方々が格闘して出てきたアイデアが毎年すごく面白い。二番煎じにならないよう、苦労されているのではないかと、強く感じます。
鷲尾 2024年に放映していた『わんだふるぷりきゅあ!』は、ペットの犬と猫が変身するのですが、あの発想の元になったのは「元犬」という落語なんです。
神社の境内に住んでいる野良犬が人間になりたいと思っていて、人間がお百度参りするのを見て、自分がやってみて、人間になりたいと祈ったらなってしまった。
つまり動物が人間になって、プリキュアになる。自分を飼ってくれている飼い主との絆を、自分の中で一番表現したい方法がそれだったという形をとったわけです。
杉山 その結果、初めて動物が変身するプリキュアが生まれたわけですね。おそらくファンの方々も「今年はどんなプリキュアなんだろう?」という期待があるのだろうと思います。
多様化するファン
石井 魔法少女ではありませんが、アニメ『鬼滅の刃』は映画も大ヒットするなど、とても人気がありますよね。やはり女性のファンは多いのでしょうか。
杉山 多いと思います。分類としては少年漫画なので、一応のメインターゲットは男の子だと思うのですが、女性のファンで、『鬼滅の刃』の二次創作漫画を描いている方はすごく多いです。
石井 今はそうした男女の区分はもはやないに等しい、ということですかね。少年漫画だからといって女性が読まないわけではない。
鷲尾 今はないですね。『鬼滅の刃』は、明らかに昔の王道の少年漫画の成長ストーリーです。修行して、どんどん技術が高まっていく中で、仲間が集まり、最後にラスボスを倒す。
そのフォーマットの作品で、女性のファンが付くという流れが最初にできたのが、『聖闘士星矢(せいんとせいや)』(1986年)ではないかと思っています。あれをアニメーション化する時に、キャラクターデザイナーを荒木伸吾さんという、ものすごくきれいな絵を描くことに長けていた方がやられたんです。それが放映されたら、女性のファンがものすごく付いた。
5人の男の子が主人公なのですが、対戦する相手も、どんどんイケメンになっていく。それがものすごくうけて、男の子向けに作ったであろう商品を女の子が買っていくということが起きたんです。
そこから男の子たちのグループが切磋琢磨して成長していくという男の子向けの漫画・アニメーションを、女の子、もしくは少し上の女性が受け入れる文化ができた。それが進化して今に至るのではないかと。
その流れの中に『鬼滅の刃』がある。実は『ワンピース』もそうなんですよ。女性のファンがとても多い。
杉山 男同士の絆を楽しんでいる女性は本当にたくさんいますし、おそらく男性も男性なりに楽しんでいるのではないかと思います。という意味では、『プリキュア』のようにストレートに女の子に向けた作品というのはむしろ貴重なのではないかと。
鷲尾 その点でいうと、今、魔法少女ものというジャンルが小さい女の子たちにちゃんと受け入れられているのか、少しだけ危惧しています。
今は比較的、大人の男性のファンがこのジャンルを愛でている傾向が強い。ありがたいことではあるのですが、その状況の中で、魔法少女もののアニメが大人の趣味に限定されてしまうと、この先、子どもたちに向けた魔法少女ものが出てこなくなってしまうのではないかと。
石井 それは強く感じますね。一方で、若い人たちが実際の宗教ではなく、メディア、それこそアニメーションなどの媒体に宗教性を見出しているという現象も起こっています。
杉山 本来なら宗教こそが信仰の対象だったのに、そちらではなく、フィクションにいってしまうわけですね。
| カテゴリ | |
|---|---|
| 三田評論のコーナー |
