【三人閑談】
あつあつおでんだね
2026/01/26
おでんのシメに茶飯を食べたい
柏原 私は、日本酒などを呑みながら食べたい派なので、おでんをおかずにごはんを食べるのが苦手なんです。
堤 でも、おでん屋さんで茶飯を食べる文化がありますよね。
柏原 たしかにそうですね。呑喜でもシメに茶飯を食べるお客さんは大勢いました。老舗の「お多幸」も「とうめし」「とうちゃ」と言って、豆腐を茶飯に載せ、それを崩しながら食べるのが名物ですね。
堤 よく煮込まれた豆腐を温かいごはんに載せて食べるんですよね。
柏原 それらをかき混ぜて食べるので、決して上品ではないのですが(笑)、これがとても美味しい。
鵜飼 茶飯とおでんの組み合わせはポピュラーなのですか? 実は先日、奈良でほうじ茶で煮込むスタイルの茶飯を初めて食べました。おでんのつゆをごはんにかけて食べるのとは少し違いますが。
堤 茶飯はいろいろな店で食べられますよ。昔から続く有名店では、おでんと言えば茶飯ですから。
柏原 茶飯は何となくおでんのシメに食べたくなるものですよね。
おかずかつまみか
堤 柏原さんのようにつまみとして召し上がりたいという方も結構います。
鵜飼 そうなんですね。わが家では普通におかずとして食べていました。味噌がかかっているとごはんにも合うので。
柏原 なるほど。
堤 最近福岡から各地に出店している「資さんうどん」も、メニューにおでんを出していますよね。
鵜飼 うどん屋さんでおでん!?
堤 うどんとおでんは西日本では割とポピュラーな取り合わせなのです。九州だけでなく四国や広島でも、うどんとおでんを一緒に食べるスタイルが定着しているんですよ。
鵜飼 うどんとおでんを別々に食べるのですか?
堤 そう、うどんはうどんで出てきます。そういう食文化をもった地域もあるので、紀文は「おでんはおかずになる」と捉えています。『おでん学!』もこうした前提の上で書かれています。
柏原 なるほど。
堤 資さんうどんは、六つ切りの鍋から好きなおでんの串をセルフサービスで取り出せるタイプです。こうしたスタイルのお店が最近増えていて、先日出かけた梅田のチェーン居酒屋でも座席の目の前に六つ切りのおでん鍋が置いていました。この店は8種類のおでんが食べ放題なので若者にも人気です。
柏原 そのお店は知っています。「呼炉凪来(ころなぎらい)」ですよね。今、全国各地に20店舗ほど展開しています。
堤 以前、私と当社の開発担当者との間でこんなやりとりがありました。紀文で販売している袋詰めおでんの商品について、一緒に入っているだしの量が多すぎるのではないか、と投げかけたのです。お皿に出して食べるならだしは種に少し浸っているくらいがちょうどよいのに、パックには汁がなみなみと入っていたからです。
鵜飼 確かにおでんと言えば、薄く入っただしに種が浮いているようなイメージです。
堤 「こんなに入っていたらこぼしてしまうよ」と言うと、「いえ、そうじゃないんです」と。担当者によると、この種ものと汁はラーメンとスープ、ごはんと味噌汁の関係のようなものだと言う。つまり、種ものはメインだけれど、味噌汁やスープを飲むようにだしも飲んでもらい、それを1食分としてお腹を満たしていただく、というわけなんです。
柏原 なるほど。そう考えるとちくわぶは麺に相当するのかな(笑)。
堤 その理屈でいくと米飯は要らなくなるのですが(笑)、若い人にとっておでんは歴とした主食になっていると知りました。
とは言え、屋台の時代のおでんは、酒を飲ませるためのつまみでしたからね。それが次第に家庭の中に入り、自家製の味で食べられるようになった。ですから、おかずかつまみかと言われたら、「もともとはつまみだけど、今はおかずとして一人立ちしている」ということだと思うんです。
個食時代に輝くおでん
鵜飼 でもやっぱり家でおでんを食べる日は、食卓の真ん中にお鍋を置いて「今日はおでんの日!」みたいなイメージです。
堤 最近は、誕生日などでなければ、家族が揃って晩ごはんを食べるというシーンは減りつつありますよね。食卓で一緒に鍋をつつくスタイルから、台所の鍋から好きな種ものを取ってそれぞれの時間帯に食べるスタイルに変わってきています。おそらくそのほうが今、お母さんたちにとっても助かるのではないでしょうか。
鵜飼 たしかにそうですね。食事の時間がバラバラなのに一品一品つくるのは大変です。
堤 お鍋は基本的に、皆が集まって食べるものですよね。火にかけてすぐに食べるのが一番美味しい。その点、少し時間が経っても美味しく食べられるのはおでんの魅力の1つかなと思います。
鵜飼 麺と違って種ものがのびたりしませんし、冷めてしまっても温め直せば、また美味しく食べられますからね。
堤 今の生活スタイルには合っている料理だと思うんですよね。
柏原 みんなで鍋をつつくという話で思い出したのですが、私が昔、週刊文春の編集部で働いていた時に、ちょうど今上天皇のご成婚スクープ合戦が起こっていました。当時は皇太子殿下でしたが、殿下はほかの人と同じ鍋に箸を入れて食べることはなさらないと言われていたんですね。ところが、当時学習院大学の近くの目白にあった「太古八(たこはち)」というおでん屋さんだけは出入りされて、おでんを召し上がるのが大変お好きだったと聞きました。
おそらく一緒に鍋を囲むお相手が、学習院の学長などの出自が明らかな方々だったからなのでしょう。そういう点でも、皆で鍋をつつくのは、親しさの象徴なのだと思うんです。
堤 同じものを食べたという一体感が生まれますよね。
柏原 当時、殿下は福井の黒龍も太古八で知ったそうです。もちろん殿下から直接聞いたのではなく、大膳課の方に教えていただいたのですが。
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