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【三人閑談】
あつあつおでんだね

2026/01/26

練りもの今昔

柏原 紀文では今、どれほどの品目数の練りものを扱っておられますか?

 大きく分けると大体120種類。お正月などに売り出す季節限定商品も含めると200品目にはなります。ただ、アイテム数は以前に比べて少なくなっています。

鵜飼 それはなぜですか?

 1つには共働きのご家庭が増えたからです。専業主婦の方が台所に立っていた時代は鍋で煮込むのが主流で、私たちもさまざまなアイテムを商品化しました。さつま揚げ一つとっても、ゴボウ巻きやイカ巻きなど、ラインナップが豊富でした。

その後、平日の夜などに調理の時間が短くなるにつれて電子レンジで温めるケースが増え、購入されるアイテムも限られていきました。

柏原 それは少し寂しいですね。

 かつては彩りや形にもバリエーションがあり、見て楽しむ味わい方がありました。

柏原 さつま揚げにイカが入っていたりすると食卓は楽しいですね。おでん種の売れ筋は昔に比べて変わっていますか? 練りもの製品にも栄枯盛衰があるのでしょうか。

 昔は種ものが一つひとつ大きいのが特徴でした。最近は次第に小さくなっています。

鵜飼 それは家族の人数が減っているからですか?

 というよりも、食卓に並ぶお皿の数が多くなったからかもしれません。

柏原 真ん中にどんと置いて「今日はおでん!」という食べ方ではなくなっているのですね。

 いろいろな種類の種をたくさん食べたいニーズもあると思います。

柏原 なるほど。手づくりをするご家庭で、大根やジャガイモ、ロールキャベツくらいまではつくる気がしますが、練りものをつくるご家庭はまだあるのでしょうか。

 つみれや肉団子はつくるかもしれませんが、昔に比べて減っているでしょうね。

柏原 すると、家庭ごとにお好みの練りものやメーカーがあったりするのですかね。

 日本中で獲れる魚が違うので、好まれる練りものも地域ごとにさまざまです。じゃこが獲れる地域はじゃこ天が人気ですし、イワシならつみれ、愛知県でも豊橋のほうはちくわで、青森ならぼたんちくわという具合です。だしの味も当地の醤油屋さんや味噌屋さん、酒屋さんがありますから、地域の食材や調味料を使ったおでんが食べられています。

柏原 練りものの中でも、かまぼこにはさまざまな種類がありますよね。1種類の魚しか使わないとか、添加物を使っていないといったようにバリエーションが実に豊富です。

 そうですね。当社でも消費者の皆さんのニーズに応えて、塩分控えめの種ものを売り出しています。おっしゃるとおり、最も差別化が進んでいるのはかまぼこです。

鵜飼 紀文のおでん種は新機軸みたいなものも模索していますか?

 魚と何かを掛け合わせる、といったことはずっとやっています。40年前に発売した商品ですが、すり身に豆腐を混ぜた「魚河岸あげⓇ」という商品は、すり身だけでつくった商品をしのいで売上げナンバーワンの練りものに成長しました。今は何かと食感ブームでもあるので、歯ごたえの良い食材を混ぜたりといったことにも挑戦しています。

ただ、おでん自体が昔からあるベーシックな料理ですので、劇的な変革はなかなか起こらない側面もあります。

ご当地おでんは拡がる

鵜飼 紀文が地域色を打ち出したおでん種の中では、どのエリアが一番売れるのでしょう。

 これまでに青森や静岡、姫路、高松、鹿児島などでご当地おでんを売り出してきましたが、一番は名古屋の味噌おでんですね。

鵜飼 なんと! やっぱり地元でよく食べられているのですか?

 いえ、名古屋の方々だけが買っているわけではないので、全国的に人気なんだと思います。

鵜飼 全国で買えるのですね。

 そうです。今年はご当地おでんシリーズの新作として「東京下町風おでん」を出しました。さらに、名店監修シリーズとして名古屋の「赤からおでん」や博多の「一風堂とんこつおでん」といった新機軸も展開しています。

柏原 「一風堂とんこつおでん」は一風堂のスープでおでんを食べるのですか?

 そうです。一風堂さんの監修を受けてラーメンのイメージに合うスープを再現しました。「赤から」もそうですが、だし感にこだわって開発した商品です。

柏原 名店とおでんでコラボするというのは初めてでしょうか。

 そうですね。これまでは具材や食べ方の特徴に着目して地域色を打ち出してきましたが、だしを前面に打ち出したのは初めてです。流通網が拡がったことで、1カ所の工場から各地の味を全国にお届けできるようになったのが大きいと思います。それで美味しいと思ってもらえたら、ぜひ現地に足を運んで実際に召し上がっていただけると嬉しいです。

鵜飼 商品化する基準みたいなものはあるのですか?

 例えば、名古屋の味噌おでんは味の想像がつきそうですが、皆さんは「青森おでん」と聞いて同じようにイメージできるでしょうか。もちろん青森おでんもメジャーなのですが、企画の段階で、最大の特徴である生姜味噌ダレの味を全国の人たちに届けたいとなれるかが一番重要です。青森おでんは、連絡船を待っている間に身体が温まるものをということでよく食べられたそうです。

鵜飼 それで生姜なのですね。(『おでん学!』をめくりながら)沖縄のおでんには豚足も入っているのですね。食べてみたいです。

 沖縄のおでんは鍋料理というより煮物の延長なのでしょう。暖かい地域でぐつぐつの鍋を囲むよりも、一度煮込んだ種を食べると考えるのが自然です。煮物と捉えると種ものも変わってくるのでしょうね。

『おでん学!』でも取り上げているように、当社の担当者が各地の名店を回りましたが、これほどまでに多様であるということは、おでんが地域の食文化を表している証ですし、まだまだ隠れた美味しさが溢れているのも魅力の1つですよね。

おでんが表す地域色

 今、おでんを選ぶ楽しさを担っているのはコンビニエンスストアですね。

柏原 そうですね。コンビニのおでんにも店や地域ごとに味が違うといった変化はあるのでしょうか。

 コンビニも地域ごとに種ものやだしを変えています。大きく分けると東日本と西日本で違いますし、関東と東北、関西と九州でも味付けが違います。九州のおでんは甘いんですよ。

鵜飼 それは知りませんでした。地域ごとに味は随分変わるのでしょうか?

 東京と大阪でもまず、かつおだしと昆布だしの違いがあります。実は、おでんという料理はそれぞれの地域のだしをベースに拡がった歴史があるので、そもそもバリエーションが豊富なんです。そういう背景があるので、チェーン展開している専門店の「おでん屋たけし」のようにあごだしと鶏だしを両方提供する店が登場する。個性を出すために独自にメニューを開発するお店は多いと思います。

鵜飼 各地で味やつくり方が違うのですね。お雑煮と似ています。

 そうですね。お雑煮もおでんも"家庭の味"がベースにあります。

鵜飼 煮干しだし(いりこだし)でおでんをつくる地域もあります。その土地ごとに好まれる味があります。

 最近は鍋のポーションも品揃えが豊富で、食べたい味が選べるようにもなっていますね。

鵜飼 たしかに。スーパーに行くとポーションがずらりと並んでいます。

柏原 だしのとり方も日本中で細かく分かれるものですか?

鵜飼 慣れ親しんだだしに対する地域ごとの好みは根強くあると思います。九州や四国は煮干系のいりこだしのほうが多く、椎茸の栽培が盛んな大分では干ししいたけを使った風味が好まれます。

最近はあごだしがブームですが、もとになるトビウオは福岡でよく獲れる魚です。東京には日本中の味が揃いますが、それでも江戸の味と言えば、やはりかつおだしでしょう。

荒節にカビ付けをした枯かれ節ぶしは今、高級品ですが、もともと関東のおそば屋さんでよく使われていました。かたや関西や名古屋ではカビ付けではないかつお節が使われます。同じかつお節でも好みは大きく分かれ、飲食業界ではとくに顕著です。

 おでんのだしを昆布でとるのは京都ですか?

鵜飼 どうでしょう。名古屋あたりはかつお節系のだしで、昆布巻きもおでん種として食べます。

 昆布巻きを多く食べる地域とあまり食べない地域も日本の中で分かれるところです。

柏原 そうなんですか。

 東日本では昆布巻きが食べられていますが、西日本では昆布はだしをとるもので、おでん種として食べる例はあまり見受けられないそうです。

柏原 面白いですね。私の祖母は九州出身で、わが家のすき焼きは醤油と砂糖と日本酒を入れて鍋の中で調理する方式でした。東京のすき焼きは割り下を使うのが一般的ですよね。割り下の存在を知ったのは、中学の修学旅行で東北に行った時です。夕食のお鍋に割り下がジャブジャブと注がれるのを見て「これは何だ」と思いました(笑)。そこでわが家のすき焼きが九州の食べ方だと知るわけです。

お雑煮も同様です。私の妻は東京出身ですが、彼女の両親が福岡出身なのでお雑煮と言えばブリの醤油だしです。東京出身の私にとってお雑煮のつゆは鶏肉のおすまし系だったのですが、完全に押し切られてしまいました。

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