【三人閑談】
ジャパニーズウイスキーの時間
2025/11/25
クセの強さがやみつきになる
山田 笹川さんたちが造ろうとしているウイスキーには、完成形のイメージがあるのですか?
笹川 あります。僕はスコットランドのスペイサイド地方で造られる〈グレンファークラス〉という銘柄が一番好きで、これを目指しています。〈グレンファークラス〉は直火で蒸溜しており、シェリーカスクで熟成させるのですが、ハチミツや果実味を思わせる重厚で甘みのある味わいが特徴です。
土居 山田さんがお好きなウイスキーは何ですか?
山田 飲み続けているのはアイラの〈アードベッグ〉ですね。ピートの香りが好きで10年間、毎日飲んでいました。最近は少し飽きてしまい、実は1年前からテキーラを飲んでいるんです。
〈ブランコ〉という3カ月熟成以下のボトルは青々しさがあって美味しいのです。テキーラと言っても若者みたいにショットで飲むわけではないですよ。少し良いものをロックでチビチビ飲む感じです。
笹川 テキーラも今ブームですね。
山田 ウイスキーが高騰しすぎている影響もあるのでしょうね。
笹川 テキーラもかつては人を酔わせるためにあるお酒の代名詞でしたが、今はいろいろな種類が手に入るようになりました。風味もそれぞれで面白いですよね。
土居 私は〈ラフロイグ〉を初めて飲んだときは衝撃的でした。
山田 〈ラフロイグ〉を最初から美味しいと感じる人は少ないですよね。2度、3度と飲むうちにはまるようになるタイプのお酒です。
土居 自分は結局スモーキーなタイプが好きだということが、〈ラフロイグ〉にはまったことでわかりました。クセが強いので「正露丸みたいな香り」と言う人もいますけど。
山田 僕はアイラ島のウイスキーの中でもピート香が強い〈アードベッグ〉が好きで、うちのバーでも20種類揃えています。限定品が1年で2本くらい発売されるので、オープン以来それを10年間買い続けて20本になりました。
笹川 〈アードベッグ〉も素晴らしいお酒ですよね。ウイスキーラバーは違う味を求め続けるので、好みが次第に両極に振れていく傾向があります。最終的には大体ピーテッドにいき、それに飽きてフルーティーなほうに戻ったりする。
山田 僕は今、その間をさまよっています(笑)。ジャパニーズウイスキーでは〈白州〉です。〈山崎〉は少し甘く感じるんですよね。
笹川 以前、サントリーの方に「〈山崎〉と〈白州〉で味が随分違うのはなぜですか」と聞いたことがあります。
山田 製法が違うんじゃないの?
笹川 〈白州〉はピーテッドの麦芽とノンピーテッドの麦芽を混ぜているんだそうです。普通はどちらか一方ですが、これらを混ぜると柑橘系のさわやかなフレーバーになるそう。なぜそうなるかはわかりませんが。
こだわりのある蒸溜所
土居 大手のメーカー以外にこれぞという蒸溜所はありますか?
山田 試飲して美味しいなと感じたのは大分県にある久住(くじゅう)蒸溜所です。シングルモルトのファーストボトル(ウイスキーに初めて使われた樽で熟成したお酒)だから年数表記がないのですが、骨格がしっかりしていて、ジャパニーズというよりスコッチ、とくにスコットランドのスペイサイドに近い味わいです。テイスティングなのでストレートで水を加えながら飲みましたが美味しかったですよ。
土居 実は私のゼミの卒業生である加藤喬大さんは、水戸の明利酒類という造り酒屋が実家で、今、ウイスキー造りにチャレンジしています。
ウイスキーに挑戦すると聞いたのは卒業後ですが、彼の祖父が60年ほど前にウイスキー造りにチャレンジしていたらしいのです。ところが工場が火災に遭って断念した経緯があり、彼が免許をとってその夢を受け継ぐことを決めたそうです。高藏(たかぞう)蒸留所という屋号で、2022年から取り組んでいます。まだ造り始めたばかりの時期に、私も蒸留所を見学させてもらいました。
笹川 もう商品化されていますか?
土居 はい。ようやく初めて樽に仕込んだという段階の蒸溜したての1年ものを、試しに飲ませてもらいました。この時は普通のウイスキーとして飲めはしませんでした。長期間熟成させるのは相当時間が必要なようですが、まだ若い原酒を発売してファンを作る取り組みをしているようです。
笹川 ジャパニーズウイスキーの定義としては、最低3年間は熟成させなければいけないのですが、平均気温の高い地域は同じ3年でもより熟成されたものを造ることができ、3年を経なくとも美味しいウイスキーを出荷している蒸溜所もあります。
土居 私が飲ませてもらった1年貯蔵の溶液はパイナップルとまでは言わないけれど、甘みがあり、上手に熟成するともっと美味しくなりそうな感じがしました。その後、ウイスキーとして飲ませてもらい、やはり美味しかったです。
笹川 私がお薦めしたいのは、慶應の先輩でもある堅展(けんてん)実業の樋田恵一さんが造っている北海道の厚岸ウイスキーです。と言ってもとても人気で、なかなか買えないのですが。樋田さんがなぜ厚岸に蒸溜所をつくったかというと、アイラ島と環境が似ているからだそうです。アイラ島と厚岸はともに牡蠣の産地で、アイラ島では生牡蠣にアイラモルトを垂らして食べる食文化があります。
樋田さんの厚岸蒸溜所でも、「厚岸の牡蠣とウイスキーは同じ潮騒を子守唄として成熟を重ねている」という思いで、〈牡蠣の子守唄〉と名付けたボトルを発売しました。
土居 美味しいウイスキーは背景となるストーリーも魅力的ですよね。
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