【三人閑談】
タオル進化論
2025/05/26
環境価値を我慢消費にしないために
金野 だからと言って、オーガニックの生産量を増やそうとしても、農薬も使わなければ害虫被害も多いので、それもなかなか難しいですよね。ヨーロッパはオーガニックの生産者に対する理解が進んでいますが、少ない綿の取り合いになり、コストだけが上がっていく状況が生まれています。日本でも生産者のことを考えてオーガニックコットンを選ぶ人が増えると良いですが、コストが上がるなら普通のコットンでいいという人がまだ主流でしょうね。
阿部 私たちも企業の方からオーガニックでタオルを作りたいと申し出をいただきますが、認識の齟齬がないように最初にしっかり説明します。それでもオーガニックで取り組まれますかとお尋ねすると、やはり実現する例は少ない。"際(きわ)のものづくり"をしているのだと実感します。
金野 企業の活動は予算がありますからね。
阿部 そう。普通のタオルとオーガニックタオルを比べる時に、「使用感で劣るが価格は高いオーガニック」を選ぶのは我慢消費になってしまうのです。それを我慢だと思うと一過性で終わってしまうので、限られた中でいかに気持ちよく長く使えるかに考え方を変える必要があるのです。
内野 なるほど。
阿部 我慢している自分が格好良いと思えているうちはまだいいのです。思えなくなる日が確実にきます。その時のために、これは本当に良いと思えないと、自分をだますことはできません。
お気に入りのタオルと暮らす幸せ
阿部 たとえ環境価値の高い商品であっても、触感が良いとか、安心できるといった数値化できない感覚的な部分に訴えていかないと、おそらくずっと使ってもらえないのではないかと思います。
金野 何に重きを置くか、ですね。環境配慮を打ち出したい企業は使用感よりもそれを第1に訴えるべきだし、ふわふわタオルが欲しい人に届けたい場合は、この柔らかさを追求した結果、糸は弱くなりやすいけれど感触は素晴らしいと言うことができます。すべてのニーズを満たす商品はないわけですから。
阿部 そのとおりです。
金野 だから、10人いたら10人が好みのタオルを見つけるために努力してくれるといいなと思うのです。気に入ったタオルがあれば、生活は豊かになるし楽しい。毎朝起きて顔を洗う時も、このタオルは気持ちいいと感じながら今日も頑張ろうと思ってもらえれば、生産者としてもこれほど嬉しいことはありませんから。
阿部 気持ちよいタオルを使う喜びはかけがえのないものですよね。
内野 本当に大きいと思います。
阿部 まだめぐり合っていない方には想像していただきたいのです。朝顔を洗いながらタオルの棚に手を伸ばしますよね。触った感じで「これ当たりだ」と感じたことがきっとあるはず。その当たりをずっと使い続けるのは本当に素晴らしいことなんですよ。
金野 繰り返し使い続けるのは結局、一番好きな物ですからね。
阿部 まさに。私たちはそれを見つけるお手伝いをしているだけで、何が当たりかを選ぶのは最終的にお客様ご自身なんですよね。
(2025年3月18日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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