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【三人閑談】
タオル進化論

2025/05/26

大きいタオルが嬉しかった時代

金野 ここにもライフスタイルの変化が現れていますね。日本人にとって標準的なバスタオルの幅は、大体60センチですが、バブル経済終わり頃の1990年前後は70センチでした。少しでも大きいほうが贅沢で嬉しいという時代だったのですね。

大家族が多かったもっと昔は脱衣室が手狭だったため、風呂上がりに家の中で大きいバスタオルを巻いて過ごすことも普通でした。今はそんなことないでしょうけど。むしろ最近はタオルなんて拭ければいい、という価値観を反映してか、薄くて小ぶりの物が好まれるようになっています。

薄くて小ぶりなバスタオルは、原材料も少なくて済むので、SDGs的にも良いでしょうね。少量の水と洗剤で洗えて乾燥も速いという利点があります。泉佐野市のタオルは「泉州タオル」と呼ばれますが、私たちは昔から薄手のタオル作りが得意なので、とてもありがたい流れです。

内野 乾きやすいのは重要ですね。

金野 最近は外に干さない家庭も増えているでしょう?

内野 そうですね。

金野 部屋干しで速く乾く物はニーズが高いのです。薄手のバスタオルは金野タオルでも作っており、ネット通販でも根強い人気があります。

阿部 生地の耐久性はどうですか?

金野 分厚いほうが一般的に丈夫ですが、いずれにせよ洗濯で糸は傷むのであまり大きな違いではないと思います。

内野 一般的には、ふわふわなタオルほど耐久性が低いとされています。柔らかいほどダメージに弱く、多くのメーカーはこれを両立することに力点を置いていると思います。

柔軟剤は使ってはいけない?

内野 阿部さんはケアの仕方も発信されていますよね。表面のパイル部分が寝た状態で乾燥すると仕上がりがカピカピになってしまうとよく言われますが。

阿部 SDGs的な観点で言うと、買ったばかりの風合いが続くのが最も環境負荷が少ないと考えております。吸水性が悪くなったり、手ざわりが硬くなったり、黒ずんだり臭ったりするのは洗剤過多か"すすぎ不全"が原因で、そういう状態になるのは大抵、洗剤や柔軟剤を入れすぎるためです。

内野 わかります。そうですよね!

阿部 そういう正しいケアもお伝えするために、イケウチオーガニックでは商品がお客様の手元に渡ったところで終わりとせず、むしろそこを関係性のスタートと捉えています。この発想から、2022年にはメンテナンスサービスも始めました。

風合いが悪くなると一度リセットする必要がありますが、その方法はあまり知られていません。そのまま使い続けられてしまうと、全然もたないといったクレームにつながりますが、適切に扱えばタオルは長持ちするのです。

金野 私もそう思います。

阿部 パイル地(タオル特有の生地)は綿の糸と織り方の組み合わせからなるので、本当は大差はないはずです。産地や素材も大切ですが、耐久性を左右するのは設計の違いとされています。

洗剤や洗濯機のコマーシャル等でよく「時短」「節水」が謳われますよね。タオルの洗濯にはある程度水の量が必要ですし、すすぎも3回ぐらいは必要でしょう? "すすぎゼロ回"とか"少ない水量で洗える"というのは、タオルと肌着に関しては、ちょっと考えにくい。でも、それを標準にされてしまうと、目で見えない細かな不純物が残ってしまいます。それを落とせれば元の表情に戻り、長く使い続けられます。

内野 柔軟剤のコマーシャルで、効果を表現するためにタオルが使われますよね。あの組み合わせは誤解を招く可能性があります。「風合いが長持ちしない」のは、実は柔軟剤を入れすぎていることが多いので。

阿部 それは同感です。アウターのような衣類なら型崩れ防止になり、乾燥時間も短縮できるのでしょうが、肌着やタオルのように吸水性が命とも言える製品に柔軟剤を使われると機能が損なわれてしまう。

金野 洗剤を使いすぎてはいけないというのは、タオルに限らず衣料全般に言えますよね。洗剤メーカーの表示される使用量は大体最大量ですが、わりと皆、きれいになると思い洗剤を多めに入れる傾向があります。昔は水で洗っていたのだから、汚れていなければ洗剤は本来不要のはずなんです。

柔軟剤のような界面活性剤を使うと、確かに糸はふわっとします。ただ、柔軟剤は油と似たような性質を持っているので、吸水性を損ない、繊維同士の絡みが緩み、毛羽落ち(綿ぼこり)の原因になってしまう。それによって糸はやせ細り、タオルはガビガビになっていくという仕組みですね。

日本と対照的な欧米タオル事情

内野 ふわふわが好きという好みは、本当に根強いですね。タオルの吸水性は当たり前の性能になっていて、さらに柔らかさが求められる。日本ではふわふわが長い間、価値の上位に置かれ続けてきました。

ですが、欧米と日本ではタオルの価値観が大きく違い、向こうでは糸が切れない加工が主流です。肉厚なタオルが好まれ、糸の量が多いものほど良いとされています。繊細なものづくりが主流の日本とは対照的です。

阿部 確かに、欧米ではポピュラーな強撚糸(きょうねんし)は日本であまり使われません。軟水の日本では、撚りがゆるい"甘撚(よ)り"の糸が一般的です。ヨーロッパのように水が硬い地域で洗濯すると、甘撚りは風合いが変わったというご意見もいただきます。

内野 そうですね。水が硬いと、高温の乾燥機ではすぐにチリチリになってしまうので、日本のタオルには過酷な環境です。日本で繊細なタオルを長く使えるのは、水の性質も大きいと言えそうです。

金野 日本は柔らかめのタオルでも洗濯に気を使いますが、欧米は徹底的に洗いをかける文化です。

15、6年ほど前、ニューヨークのギフトショーに出展したことがありました。ジェトロ(日本貿易振興機構)の担当者からは、柔らかいガーゼのタオルやハンカチは出しても難しいと言われていたのですが、持っていってみると、柔らかいタオルは珍しかったと見えて、結構評判が良かったのです。

阿部 米国はハンカチを使う文化がないですからね。

金野 お手洗いでも紙で手を拭く使い捨ての文化ですね。最近は日本の飲食店でもタオルのおしぼりがなくなりつつあります。こうしたアイテムが市場から姿を消すのは残念ですが、使い捨てのほうが衛生的とする傾向の現れかなとも思います。

阿部 逆に最近は、ハンカチを記念に買って帰る外国人観光客も結構います。

内野 デザインの豊富さも受けているのでしょうか。ハンカチの便利さにも是非気づいてほしいです。

金野 米国のギフトショーに出品すると環境に良いという評価も聞こえてきますよ。弊社の商品はかわいいデザインも多いので、米国ではおもにベビー用品として動いているようです。

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