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【三人閑談】
女子プロレスの時代

2025/04/25

「ファンは細かく見ていない」

 長野に拠点を置く信州プロレスは、ローカルアイドルのパラレルドリームとのタイアップからスタートし、選手もローカルCMに出演するなど少しずつ地元での知名度を高めていった団体です。彼らはごっこ・・・と割り切っていますが、4人のお客さんにゴム紐を持ってコーナー代わりに立ってもらう「ゴム紐マッチ」のような参加型の活動が人気です。

三田 素晴らしいアイデアですね。

 信州プロレスは活動的で、コロナ直前の2020年1月には東京スカイツリーの広場で出張試合をしていました。それも1月4日です。

三田 つまり新日本の東京ドームでの大型興行の裏ですね。

 そうです。その試合に出た選手は終了後、「今から"一・四"に行ってくる」と言い残して、その足で東京ドームに向かいました。ローカルの団体や選手はそうやって人に響くユニークなアイデアを行動に移しています。

そうしていろいろと趣向を凝らすのですが、一周回った結論としては「ファンはそんなに細かく見ていない」ということです(笑)。楽しかった、激しかった、大きかった、次頑張れよ、もうそれに尽きると思います。

三田 そうですよね。パッと見で「わあ、面白い、強い、大きい、速い」と言ってもらえるだけでもうれしい。

 そうです。身体が大きいだけでもお客さんは驚いてくれます。東京スカイツリーでの試合なんて、場外乱闘で近所の交番にまで流れ込んでいきましたから(笑)。皆、サービス精神旺盛なんです。

でも、若いレスラーに言いたいのは、そういう選手たちも相当な鍛錬を積み重ねているということです。選手はそれを忘れてはいけないと思うんですね。個性に走るのもいいけれど、肝心なことが疎かになってしまうのはマズいです。

柳澤 僕の娘は以前、彼氏の影響で学生プロレスのリングアナウンサーをやっていました。そうしたら今度は、新根室プロレスのリングアナを務めるという。これはちゃんとさせないとマズいと思い、全女の故今井良晴さんとJWPの山本雅俊さんに頼んで指導をお願いしました。

新根室プロレスは地元でおもちゃ屋さんをやっている兄弟が始めたアマチュアプロレス団体で、2017年に"アンドレザ・ジャイアントパンダ"という大きな着ぐるみが大当たりしました。それがきっかけとなって大日本プロレスの興行に参戦することになったんです。

そういう人気の団体なので、リングアナとはどんな仕事なのかということを、娘はカラオケボックスで今井さんと山本さんから教わりました。だから、うちの娘は今井さんの最後の弟子なんですよ。

三田 アンドレザさん、本当に大きいですよね。身長3メートルという。しかもかわいい。

柳澤 根室のアマチュアプロレス団体が巨大な着ぐるみを作ったことによって、いきなり『週プロ』に取り上げられる時代ですからね。その中で『極悪女王』のように1985年のコンテンツがいきなり見直されることもある。今はプロレス全体に自由な空気が流れていてとても良いなと思います。

プロレスに人生を乗せて

 全日本プロレスは、信州プロレスとの提供試合がよく入ります。松本にある中華料理屋さんが全日を応援しているからですが。

三田 今は新日でも全日でも、大きい団体が地方で興行を打つ時は、ローカルの団体が協力して提供試合をやるということがあります。

柳澤 最近はそんなふうになっているんですね。アマチュアとプロの境目はほとんどなくなっていますが、選手を目の当たりにすると「やっぱり本物のプロレスラーはすごい!」と思います。

三田 女子プロレスは身体の大きさで人目をひくわけではないので、選手の個性や技術をどう磨いていくかが大事になってきます。180センチ100キロある男子プロレスとは違い、女の子がやっているということがやっぱり特別なんだと思います。

柳澤 そうですね。

 でも、中西百重選手にサインをもらった時、握手してもらった手があまりに分厚く、「この人、人間じゃねえ!」と思いました(笑)。握手一つですごさが伝わってくるのがプロレスラーでもあります。

柳澤 広田さんに握手してもらった時は華奢だなと感じましたから人によるのでしょうね。プロレスが宝塚と違うとすれば、選手たちは自分の役で出ることですよね。演劇では俳優が自分自身をステージで見せることはないですから。

プロレスラーはマスクを被ってキャラクターを演じるけれど、そのマスクは半透明なんだ、という文章を僕は以前、書いたことがあります。そこにいるのは100%の自分ではないけれど、ヒールだろうが、ベビーフェイスだろうが、自分自身が本当に出てしまう、出ていないとつまらないというのが、プロレスの面白いところです。

 以前、TAJIRIさんに呼んでいただいてSMASHの試合に出た時の、最後にアクトされたTAJIRIさんの言葉が印象的でした。彼は「精度の高いプロレスを見たければ、ロボットにでもやらせておけばいいんだ」と言う。「プロレスは人間がやるからそこに人生が反映されるんだ」というわけです。この言葉は今も忘れないですね。

柳澤 いい言葉ですね。

三田 プロレスには喜怒哀楽がすべて乗っけられるわけですからね。

柳澤 まさにそのとおり。

三田 憎しみを昇華できる仕事はプロレス以外にないと言った女子選手もいました。選手は喜びも怒りも憎しみも全部込めて、自分の身体一つで相手にぶつかっていく。見る側は自分の悔しさや生きづらさをリング上のレスラーに託すことができる。選手も見る側も共に人生をすべて乗せられるプロレスはつくづく懐が深いですよね。

(2025年1月30日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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