【三人閑談】
"道草"を食いたい
2023/08/25
根っこから掘る愉しみ
犀川 私の祖父はよくヤマイモ掘りもしていて、お隣の家の敷地でもよく掘っていました(笑)。お隣さんも文句を言わずに掘らせてくれる人で、祖父はいつも自然薯を1メートルくらいの完全な状態で掘り出すのに一生懸命になっていました。大きいのが採れたぞと言ってはうれしそうに見せてくれたものです。
田村 実際に栽培しているところでは、パイプを埋めてその中に伸びていくようにすることで掘りやすくする工夫をしていますよね。
犀川 そうですね。祖父はヤマイモが採れる場所もよく知っていて、雑木林の中でもここにあるぞと言っては私たちに掘らせてくれました。ここ掘れわんわん状態ですね(笑)。
相場 幼稚舎では海浜学校で館山にも行くのですが、以前は宿舎の周りにハマボウフウがたくさん生えていました。ハマボウフウの根はとても長いので、やはり誰が一番長いものを掘れるか競い合っていたのですが、採りすぎてしまったらしく、ほとんどなくなってしまいました。それ以来中止になりましたが、最近はまた少し増えているようです。
犀川 タンポポもハマボウフウも、掘らないと根っこは採れないのですか? 引っこ抜けない?
相場 掘らないとダメなんです。引っこ抜くと大抵切れてしまいます。一応記録も残してありまして、ハマボウフウは1メートル近くのものが採れたことがありました。
木の実を美味しく食べるには
相場 野草ではありませんが、木の実はどうですか。私は子どものころ、田舎でしょっちゅうアケビを採って食べていました。
犀川 アケビは私も食べていました。
相場 それから、サルナシやツノハシバミもすごく美味しい。昔は皆、どこに生(な)るかわかっていたので、秋になるとたくさん採りに行きました。
犀川 アケビを採る時に、長い竹の先を少し割った道具を使っていました。先端でツルをひねると簡単に採れたのですね。
相場 そうそう。高いところに生るので、私たちも木の枝を折ったもので道具をつくっていました。
犀川 実が少し紫になると食べ頃。
田村 いかに食べ頃を食べられないうちに採るか、獣との戦いでもありますね。
犀川 そう。獣が食べた跡があったりしました。
相場 アケビは開く前に米びつの中に入れておくのがコツです。だんだん熟して甘くなる。土の中に埋めておいてもいい。
犀川 へー、それは知りませんでした。それなら早めに採って埋めておけば獣に食べられる心配もありませんね。
相場 それからヤマブドウも立科山荘の周りにはいっぱいあります。これを児童に採らせるのですが、食べたことがないととても酸っぱく感じる。それでも子どもたちは喜んで食べます。もちろんアケビも採れるのでそれも食べさせると、皆甘いと言って驚きますね。種が多いのは少し食べにくいようですが。
田村 アケビを初めて見た児童はイモムシのように見えるでしょうね。
犀川 中身もどこかおどろおどろしいですしね。私はキイチゴもよく食べたな。クコやグミも、見つけるとちょこちょこ食べていました。
田村 あとはクワノミかな。
相場 ああ、そうですね。
犀川 クワノミは黒くなった頃合いのものが甘くて美味しいですよね。それも虫や鳥との戦いですけど。
毒だけど美味しいかも問答
相場 木の実にも毒をもったものがあるので注意はしています。ヒョウタンボクなんていかにも美味しそうに見えますし、真っ赤なマムシグサの実も一見食べられそうに見える。
田村 木の実もキノコも同じような色をしているのに、危ないかどうかで微妙な色の違いがありますよね。
相場 そうですね。毒があるものは、そういうオーラを放っている。
犀川 毒々しいものほど色が鮮やかで、それは警告しているのか、誘っているのか……(笑)。
相場 毒の有無も、この赤は違うなという感じで直感的にわかるものもありますよね。猛毒のベニテングダケと美味しいタマゴタケはそっくりですが、ベニテングダケの方はなぜかどう見ても美味しそうに見えない。
田村 その違いがわかるのは、後天的な学習と本能的なものとが合わさった人間ならではでしょうね。そういう知恵が蓄積されるまでは数限りない人が死んだ歴史がある。
相場 以前、中間テストの問題について面白いことを言った児童がいました。私はこういう問題を出したんですね。「ヤマトリカブトはとても美味しい。だから食べてもよい。〇か×かで答えよ」と。もちろん答えは×ですが、ある児童から、ヤマトリカブトを食べたことがないのでわかりません、もしかしたら毒でも美味しかったらこの問題はどうなるんですか? と質問がきた。
犀川 たしかに美味しいかもしれない(笑)。美味しいのと毒があることはまた別の問題ですね。
相場 そうなんです。人間は進化の過程で毒があるものは苦いという感覚を身に付けてきたので、一般的には美味しくないとは言えるのですが、なかなか鋭いと思いました。
犀川 苦さには何となく特別な感じがありますよね。生薬や漢方、スパイスはともすれば危ないと思うようなものでもある。トウガラシも最初に食べた人はきっと、うわー辛っ!となったはずですが、今ではスパイスとして美味しいことになっているし、保存にもいい。それもすべて長い歴史の中で上手な使い方の知恵が蓄積されたからこそですよね。ワサビだって最初に食べた人のことを思うと……。
相場 初めて食べた人はよく口にしましたよね。
犀川 長野県に自生のワサビはありますか。
田村 ありますよ。さすがに根っこから掘ってしまうと絶えてしまうのでしませんが、ワサビ菜を摘んで食べたりします。
相場 立科山荘にも天然のワサビがあるんですよ。誰にも教えていない秘密の場所に自生しています。水がきれいなところに行くとありそうだなと感じます。
犀川 幼稚舎生はワサビ菜も食べられるのですか?
相場 私が葉っぱを少しだけ採ってお試しで天ぷらを出すことはあります。ほら、ワサビだよと。
犀川 ワサビ感は残りますか?
相場 残りますね。天ぷらでもやっぱりそれらしい風味があります。
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