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【三人閑談】
"道草"を食いたい

2023/08/25

野趣あふれる味覚の世界

相場 野草を天ぷらにする時に、イタドリは酸味がするとか、ワラビはヌルっとした食感が特徴だよと教えると、それを感じられる児童もいます。皆、身近な草花が食べられるとは思っていなかったらしく、苦いと思っていたら美味しかったというのは、やはり貴重な経験ではないかと思います。

犀川 幼稚舎生は大事に育てられている印象があるので、皆繊細な舌を持っているように思いますが。

相場 でも、子どもたちは結構ワイルドで、最初は箸を使いますが、油断すると手づかみで食べてしまう児童も出てきます。そして、揚げたそばからすごい勢いでたいらげます。

犀川 たしかに野草や山菜を採るところから始めて、調理して食べるところまでを実際にやるのは教育的にもいいですね。それを味わうことはもちろん、ここで生きていたものをいただくという意味でも。

田村 野草から少し話がずれますが、長野県に住み始めて、野菜の味がとても濃かったのは印象的でした。味のインパクトは野菜と山菜でもまた違うように思います。

犀川 そうですね。よくも悪くも山菜の味はかなり強いですよね。

相場 近所に枝豆をつくっている農家があり、根っこが付いている状態で売ってくれるのですが、その根っこを切り落とし、枝ごと茹でて食べたら塩は要らないほどでした。

犀川 塩も要らないのですか?

相場 それほど甘いのです。以来、枝豆には一切、塩をかけなくなりました。むしろかけてはいけない。新鮮な野菜は思っている以上に美味しく、だまされていたと思うほどです。

田村 うちの村の小学校は自校給食なのですが、地元の野菜は味が濃すぎて生徒が食べたがらないそうで、北海道の野菜を仕入れていると。

犀川 そんな、もったいない。

田村 でしょう? 何のための食育だろうと思います。

犀川 家庭では地元の食材をあまり使わないのかしら。

田村 昔から住んでいる人がまだ多いので、親戚などが近くで作ってお裾分けされて食べていると思うのですが、味覚ができてくるまでは味が強いものやえぐ味や苦みが強いものは食べにくいのかもしれません。うちはそれも教育だと思うので食べさせるようにしています。子どももキュウリやトマトは大好きです。

犀川 キュウリやトマトは自分で育てることもできるし、新鮮なものは味の濃さがはっきりわかりますね。採れたてをガブッと口に含んだ時の美味しさは格別でしょうね。

田村 農薬や肥料での汚染もないわけではないですが、土や水が根本的に違うのでしょうね。

犀川 昔はお日さまに当たっているからだよと言われました。今は植物工場のようなところで、屋内で光を当てて無菌栽培のレタスなどを育てたりもしていますね。虫食いがないのは良いのですが、やはり少し味気ない気がします。

植相の移り変わり

相場 幼稚舎の敷地内にビオトープがあり、ちょっとした自然園になっているのですが、私が赴任した35年前と今とで野草の種類が変わっているのです。長野あたりではそうした変化を感じますか?

田村 僕は長野県に移住してからまだ10年ほどなので、そこまではわからないのですが、それは遷移が進んでいるということですか?

相場 遷移ではなく、外来種が入ってくることで草の種類が変わっているのです。幼稚舎では春にナガミヒナゲシ、ヒメツルソバ、アメリカフウロなどきれいな花がたくさん咲くのですが、それらはすべて外来種。私が赴任した頃はそれらはまったくなかった。そうした植物の変化がすごい勢いで進んでいます。

犀川 都心のほうが移り変わりは激しいのかもしれません。川崎もどんどん変わっていきました。タンポポもだいぶ減ったように思います。

相場 昔はタンポポと言えば、日本タンポポと西洋タンポポがあり、西洋タンポポは総苞が反り返っているのが特徴で、日本タンポポは弱いから少なくなっていると教えられました。今は逆に純粋な西洋タンポポを見なくなりました。

犀川 幼稚舎では今も日本タンポポは見られますか?

相場 雑種だらけだと思います。西洋タンポポと思いきや総苞の反り返り方がさまざまです。では日本タンポポかと言うと、どうもあやしい。

田村 日本タンポポは春に咲いて西洋タンポポは1年中咲いていると思うんですが、雑種はどうでしょう?

相場 雑種はわりと1年中咲いているような気がします。

犀川 1年中咲いているのに日本タンポポみたいな形なのですね。

相場 そう。日本タンポポに見えるのです。両方とも食べられるからいいんですけどね(笑)。

田村 まあ、食べるという意味では大きな問題ではないのかも(笑)。

相場 タンポポは児童にも人気で、花を天ぷらにすると、こんなに美味しかったなんて、と皆驚きますね。

田村 キク科はいろいろ食べられますしね。田舎でも都市化の進み具合によりますが、中心部は西洋タンポポが多く、奥に入った集落は在来のタンポポが残っている気がします。

犀川 私が一時期凝っていたスミレの花も移り変わりが激しい植物です。外来種のようなものもあれば、珍しい白い花も見られます。すごく濃い色のものもありさまざまです。

春になればあの場所にあの色のスミレが咲くはずと思っていても、街中ではどんどん変わっていき、わりとバリエーションが多いことに気づきます。川や海の近くや人通りが多い場所は移り変わりも激しいように思います。

タンポポでコーヒーを淹れる

相場 実は昆虫もそうです。都会でも見たことがないような南方系の種が温暖化の影響で増えています。

田村 外来種というと、外国から来るものだけを考えがちですが、日本から外国にいったものもありますよね。たとえばイタドリはシーボルトが観賞用としてヨーロッパに持ち出したものですが、イギリスを中心に大問題になっていると聞き、興味深いなと思いました。

犀川 葛(くず)も厄介で嫌がられていると聞きました。葛の繁殖力はすごいので、やはりたくましいと感じました。

相場 たしかに葛はすごいですよね。

犀川 よく外来のセイタカアワダチソウが増えすぎて困るという話を聞きますが、葛の繁殖力はそれ以上です。さまざまなものを飲み込んでいく強さがあります。

相場 葛も美味しいですよね。それこそ天ぷらに合う。

犀川 葛の芽は美味しいですね。

相場 葉っぱも美味しいですよ。実は葛の花ってファンタグレープの香りがするのです(笑)。

田村 それは知りませんでした。

相場 見つけると児童たちに嗅がせるんです。

相場 葛切りにする市販の商品は今、ほとんど葛から採っていないそうですね。別の植物のでんぷんを使っていると聞きます。

田村 葛だけと言えるのは本葛と呼ばれるものだけになっていますね。

犀川 葛と言えば、風邪薬の葛根湯がありますが、実際に葛の根を採ることはありますか?

田村 薬剤師の知り合いがやったことがあるらしく、大変だったみたいです。

相場 昔、タンポポの根を児童に掘らせたことがあります。タンポポの根は長いので、誰が一番長く抜けるか根っこ掘り大会をしました。その根っこを乾燥させて、タンポポコーヒーをつくったこともあります。

犀川 タンポポコーヒー⁉ それはコーヒーっぽくなるのですか?

相場 味は少し微妙ですが、一応それらしいものになりました。根っこも乾燥させたものを炒って粉にすると、お湯で出せるんです。見た目はコーヒーっぽくなります。

田村 黒くなるのはおそらく炒ってあるからでしょうね。

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