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【三人閑談】
ピストバイクで駆け抜ける

2023/03/24

近距離移動の手軽さ

ピスト 小川さんは普段、どんな自転車に乗っているのですか?

小川 クロスバイクを使っています。やっぱり高い自転車は盗難が心配です。街中で目を離す時のことを考えるとなるべく安い自転車がいいのです。

自分の自転車以外にも、最近はシェアサイクルの“LUUP(ループ)”を利用しています。下北沢~三軒茶屋間も利用エリアになっていますよ。5、6分の移動が150円くらいでできて電車に乗るよりもはるかに早くてお得です。

ピスト LUUPは試したことがありませんが便利そうですね。

中島 電動アシスト自転車と電動キックボードの2種類がありますよね。キックボードタイプはよく見かけるので興味はあるのですが、以前、飲酒運転の男性が転倒事故を起こしたニュースを見て、少しこわいなとも感じました。

小川 私も最初は電動キックボードを利用していました。今は法律で時速が上限15キロと定められているので安心ですよ。近距離移動に使い勝手がいいです。

中島 近距離の手軽さ、それこそが自転車の価値ですよね。

小川 ローカルな話になりますが、三軒茶屋と下北沢を結ぶ茶沢通りはバスも走っていますが、LUUPならバスを待つ必要もありません。

ピスト 小川さんは競輪場でピストバイクに乗ったと仰いましたが、街では乗ったことないですか?

小川 ないんです。乗ってみたいのですが。

ピスト 僕のまわりでピストバイクに乗っている女性ってほとんどいないんです。中島さんのまわりではいかがですか?

中島 そうですね。メッセンジャーをやっている人くらいかも。

ピスト でしょう? 僕はネットの情報もまだ乏しかったころ、雑誌を見てピストバイクを知った世代ですが、お金や手間をかけずにカスタムできる楽しさに触れたのも雑誌でした。色違いのハンドルやペダルに換えてみたりといった楽しみ方を女性にも知ってもらいたいんです。

小川 自転車の扱いが得意な女性は多くないですよね。私も自分でカスタムするのは苦手なんです。仰るとおり、乗っている仲間がまわりにいないと自分も、という気持ちにはなかなかならないかもしれません。

頑丈さの魅力

中島 僕は今、「FRAME」という自転車の情報を扱うウェブメディアをやっています。取り扱う記事はロードバイクが多く、例えばフレームの素材などの話題だとクロモリ(鉄にクロムとモリブデンを加えた合金鋼)などがメジャーなのですが、ピストバイクファンにとって素材はそれほど重要な要素ではないですよね。カーボン素材のピストバイクなんて聞きませんし、ファンの間でもたぶん需要はない。ハードなレースになるシクロクロス用バイクもフレームにクロモリを使ったものはありませんよね。

小川 ほとんどありませんね。ポピュラーなのはカーボンとかかな。

ピスト たしかにピストバイクのフレームは、軽さよりも頑丈さが肝ですね。皆、だいぶ乱暴に扱うから(笑)。

小川 ピストバイクはランドナー(フランス発祥のツーリング用自転車)に近いように思います。

ピスト 僕はそういう頑丈さもピストバイクの魅力の1つだと思うんです。生活スタイルによるところも大きいのでしょうが、僕は仕事でフリップと呼ばれる紙芝居方式のネタをやることがあるので、そういう時は小道具をケースに入れて運んでいます。バイクの前方にキャリア(荷台)を付けて、その上に括りつけている。とにかく使い勝手が良いんですよ。

中島 小川さんはご自分で競技用の自転車をメンテナンスしているのですか?

小川 いえ、自分ではまったくしていません。全部お店に預けてお任せしています。というのも、自分のメンテナンスが信じられなくて……。

ピスト ピストバイクはなじみの店ができるとカスタムが楽しくなります。かかりつけ医が見つかる感覚に近いかも。競技用の自転車は車体をどれだけ軽くできるかといったせめぎあいがあると思うのですが、生活の足として乗る分には自分さえ納得すればOKでしょう? カスタムの方法も仲間同士で情報を仕入れたりするのは楽しいですよ。

中島 たしかにそういう魅力がありますね。メッセンジャーの間では速さを競い合うカルチャーがあるのかもしれませんが、そうではないユーザーにとっては自由な感覚で乗れるものですね。

ピスト 僕はこの7年ほど、アルミ製のフレームを気に入って使い続けています。このフレームはタイヤの太さを変えられるのが魅力。タイヤ部分のフレーム幅に合わせて23ミリがいいか、30ミリがいいかと、ちまちま調整して楽しんでいます。

自分のギア比を見つける

中島 小川さんが学生時代にピストバイクで競輪場を走った時はどんな印象でしたか?

小川 その時はまずローラー台の上で試しに乗ってみて、いつもの感じでペダルを逆に回してしまい、吹っ飛びました(笑)。

ピスト ああ、やっぱりそうですか。

小川 こんなことになるとは……とびっくりしました(笑)。

ピスト 競輪場のバンクって、ものすごい傾斜ですよね。僕はもちろん体験したことがないのですが、こわくないのですか?

小川 慣れないとこわいです。

中島 それはトレーニングの一環で?

小川 そうです。学生時代は競輪場で走るトラック競技の大会にも出ていました。自転車競技部にはおもにロードレースとトラック競技の2種類があり、私は長い距離を競うほうが好きで、短い時間で競うトラック競技は得意ではありませんでした。

中島 そうか。当たり前ですが、自転車競技部も自転車の種類ごとにいろいろな大会に出ているのですね。

小川 そうです。とはいっても、大学の自転車競技部の活動はロードレースとトラックの2つが基本ですね。シクロクロスやマウンテンバイクの種目はありませんでした。

ピスト そんな小川さんにどうすれば、よりピストバイクの魅力が伝わるだろう。それなら乗ってみようかなと思ってもらえるセールスポイントを思わず考えてしまいます。

中島 僕の主観ではクロスバイクよりピストバイクのほうがかっこいいと思うのですが……。

ピスト ピストバイクには自転車が持つシンプルな美しさがあると思うんですよね。ギア変換のストレスがゼロなのも魅力です。シングルギアは乗る人に合ったギア比を予め設定するものなのですが、それを追求する愉しさもあります。

ちなみに僕はフロントのチェーンリングが46T(Tは歯車の数)、リアのコグを17Tにしていて、それでギア比は大体2.7くらいです。乗り方によっていろいろと変えられて、自分に合ったギア比が見つかると楽です。

小川 坂道はどうしていますか?

ピスト 2.7なら、僕はたいがいそのまま上ります。

小川 それはすごい。思ったよりもギア比の倍率が高くてびっくりしました。

中島 例えば、渋谷の道玄坂は結構急斜面ですがどうですか?

ピスト 道玄坂は余裕で行けます。ですが、東京は坂が多いのでギア比に応じてルートを少し変えたりもしています。僕がよく通るのは中目黒から恵比寿に向かう途中、代官山のほうに上がるエリアです。このあたりは目切坂などポイントによって傾斜がきつい所があります。

中島 山手通りが駒沢通りにぶつかる鎗ヶ崎の三叉路に上る坂もなかなかの傾斜ですね。

ピスト そういう場所は迂回するルートを通りますね。他にも、この道は一旦下った後でまた上らなければいけないからこっちを行こうなどと考えて走ります。ですが、僕の場合、大体の道なら2.7で行けてしまう。適性のギア比が見つかるとすごく楽です。

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