【三人閑談】
間取りという小宇宙
2023/02/24
技術革新が変形間取りを生んだ?
竹内 家相的にはいかがですか。
浅尾 まず真四角なのがびっくりしました。神社などで見られる形ですが、一戸建てではあまりないので。
竹内 そうですね。
浅尾 1階に水場が多いですよね。水場は凶方位に付けた方がよいのですが、どの方位にも水場がある。
佐藤 私は1980年2月生まれですが、その場合、凶方位というのはどちらになりますか?
浅尾 おそらく北と南と南東と東がいい方位なので寝る場所は変えた方がいいかもしれません。
家だけでなく佐藤さんご自身にも方位の相性があるので、おうちと自分のいい方位が合っていると、すごくつくりやすいのです。でもおうちと生年月日のタイプが違う場合、いろいろな調整が必要になります。
佐藤 調整の際に、玄関の向きや通りがどこに面しているかが重要になってくるわけですね。
浅尾 そうですね。
佐藤 水回りも風水において重要な要素だと聞きます。しかし住宅メーカーとしても、水回りについて好き勝手言われると困るのでは?
竹内 昔に比べるといかようにもできるようにはなっています。もちろん、1階と2階で水回りの位置をそろえた方が合理的ですが、そうでなくともそれほど建設コストは上がらないんじゃないかと。
よく言われるのは、昔トイレに換気扇を付ける慣習がなかったころは、アパートやマンションのトイレは必ず外に接していなければなりませんでした。換気扇が付けられるようになったことで、トイレの位置が自由に決められるようになります。設備機器の発達で間取りの自由度が上がり、『間取りの手帖』に出てくるような自由を謳歌した間取りが増えていきました。
佐藤 個性的な間取りが生まれた背景にはそういう技術革新があったわけですね。
浅尾 もうバブル期のような変な間取りは出てこないのですかね。
竹内 建設コストが上がる要因になるので間取りで差別化することは少なくなりました。今は間取りも屋根形状も外観デザインもシンプルにして価格を抑える家が多いです。
佐藤 住宅業界の方から「もう間取り図はなくなる」という話を聞いたことがあります。住み方を3次元で考えるようになると、平面の図面は意味がなくなると。
竹内 そうですね。住宅展示場などもVR体験できるサービスがあります。ですが、一般の人にはやはり使いづらいようで、何だかんだ言ってまだ間取りが一番わかりやすい表現方法のようです。
佐藤 私も図面派です。Google Earthのようなものでさえ操作が苦手。身体の感覚や想像力が刺激されるところがないですね。
浅尾 私も立体で見ると現実に近づきすぎるようで、あまりわくわくしないのです。リアルに体感できてしまうと夢が広がらなくなってしまうのが難点です。
大衆化する風水
竹内 風水は今でも根強い人気があるのですか。
浅尾 人気があると思います。今もいろいろな流派から出版物が出ており、簡略化したものも出版されています。
佐藤 今だったら私のような素人にも理解できるでしょうか。
浅尾 簡略化したものが流行るのは、やってみたい人が増えているからだと思います。今回、改めて買い直してみた本は家や間取りも占えるようになっています(図3)。仕事場の机の位置も占えるようですよ。
佐藤 私も始めてみようかな。先ほど仰っていた気運というものはどのように変わっていくのですか?
浅尾 例えば、私が買った風水鑑定本のうち玄空飛星派(フライングスター)と呼ばれる風水術の流派では180年を1サイクルとし、20年ごとに気運が変わるとしています。2024年2月にまた気運が変わるそうで、これを「三元九運」と呼び、第1から第9の運が順繰り巡っていく中で2004年から2023年が第8運に当たります。2024年2月に第九運という新しい運になると吉方位ががらりと変わるそうです。すると、同じ家でも吉凶が大きく変化し、もう1度調整しなければならなくなります。
佐藤 気運はそれほど大きなものなのですか。例えばそれまでは玄関に黄色いものを置いたけれど、今度は青いものを置かなければいけないといったことになるのでしょうか。
浅尾 そうですね。玄関の位置は変えられないので、できる範囲で皆対処するのだと思います。
佐藤 では2023年は第8運の締めくくりになる年なのでしょうか。
浅尾 気運は少しずつ変わっていくので移行の年になると言えるかもしれません。この本の著者は1つの流派にこだわらず、いいとこどりをせよと書いているところがいいのですが、竹内さんが仰ったとおり、環境を変えるために自分の都合のいいように使えばいいのだと思います。きっちりやろうと思ったら家探しも難航してしまいますから。
間取り図は見ているうちが楽しい
佐藤 一生のうちに5回くらい注文住宅を建てれば、理想の間取りにたどり着ける気がするんですよね。作家の吉屋信子がその生涯でいくつか家を建てていて、興味本位で図面を取り寄せて見たところ、やはり最後に建てた家がいいんです。
竹内 数寄屋建築の名手と言われた吉田五十八の設計ですよね。
佐藤 はい。中を見学させてもらったところ、お庭がとても広々して、北向きの書斎の窓の外には藤棚があって気持ち良い。お客さんが大勢来てもお庭を眺めながら宴会できて、本もたくさん収納できる。仕事量が多く、交友範囲も広かった作家にとってとても理想的で、何軒か試行錯誤した結果の完成形、という印象を受けました。実際に終の住処になったそうです。
竹内 自分に最も必要なものが何か判断するのはそれほどに難しいということですよね。
佐藤 一般庶民にはとてもたどり着けない境地ですよね。私は実家を出て以来、万年賃貸暮らしです。昨年、引越しをしましたが、海の近くに住んだら毎日海を見ながらビールを飲めるなと思って、その他の条件はかなり妥協しました(笑)。
浅尾 素敵ですね。
佐藤 賃貸の件数が少なくて競争率が高いエリアなので、手の届く物件が見つかり次第勢いで決めました。結果的に、間取りで選ぶ余地はほとんどなくて……。
竹内 でも注文住宅であっても、じつは検討の余地が多いわけではないんです。敷地の面積や形状、予算が決まっていれば、ある程度共通した型にならうことになります。それよりも海を見ながらビールを飲みたいというテーマが決まっていることのほうが大事でしょう。
佐藤 そうかもしれませんね。使いづらそうなところがあればまた引っ越せばいい。そう考えると、実際に住むという場合には間取りよりもその外の条件の方が大きな動機になるのかもしれませんね。
浅尾 今流行っている新しい風水に「金鎖玉関(きんさぎょくせき)」と呼ばれているものがありますが、それによると南側が低くて、北側が高い土地はいい条件のようです。
佐藤 そうなんですか!? 住んでいるところがまさにそんな地形です。私も風水を始めてみようかな……。
浅尾 楽しいですよ。ぜひ。
竹内 佐藤さんが仰るとおり、間取りに惚れて住まいを決めることってじつはあまりないですよね。むしろ、どうやって過ごしたいかを考えることのほうがたぶん自分に嘘がない。
浅尾 Instagramで素敵な暮らし方をしている人を見つけたのですが、その方が仰るには、家はハコを1つつくってもらえればいいと。ハコがあれば中はどうにでもすると仰っていました。
佐藤 わかります、私もそう思う。理想の間取り図を描いておいて言うのもなんですが、それは一応お仕事だったからということで(笑)。
竹内 あの間取りは理想ではなかったと(笑)。
佐藤 やはり住んでみなければわからないことが多いので、窓と玄関さえあれば、あとは住みながらあれこれ変えていったほうが理想に近づけるような気がして。
浅尾 そこがおもしろいですよね。間取りだけ見ると夢が膨らむのですが、住んでみてあれ? となる。
佐藤 間取り図は見て楽しんでいるうちが花なのかもしれませんね。
2022年12月19日、三田キャンパスにて収録
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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