【三人閑談】
間取りという小宇宙
2023/02/24
風水を占うには
佐藤 風水はとても複雑な世界ですよね。『間取りの手帖』を出した後に「風水の本を書きませんか」と誘われて少しかじってみましたが、とても専門的で難しいと感じました。
浅尾 私は『間取りの手帖』を見て、方位を確定できないほど複雑な間取りに住んでいる人たちにぜひ感想を聞いてみたいなと思いました。
佐藤 案外「住めば都」だったりするのかも。間取り図だけで風水を鑑定することはできるものですか?
浅尾 できれば道路が面している向きや、その部屋が何階にあるかといった情報は欲しいですね。部屋の階数、築年数、住所……それを見た上で、さらに住人の生年月日がわかれば何かしら占えると思います。
佐藤 部屋の形はいかがでしょう。やはり四角い方がよいですか? 『間取りの手帖』で蒐集した間取りには三角形や円形のような変な部屋がずいぶんありましたけれど。
浅尾 変則的な間取りというのは、鑑定する上で足りない方角が出てしまうことが多く、その方位の運が欠けていると見る場合もあります。四角であることは結構大事ですね。
佐藤 同じ部屋でも住む人によって違うのではないかと思ったことも、私が風水に挫折した理由の1つです。
浅尾 おっしゃるとおりです。なので、運勢を占うのに住人の生年月日がわかるとより正確なのです。
竹内 浅尾さんのお話を伺っていると、風水というものは基本的に人を元気づける目的があるのかなと思いました。それに比べ、家相はどちらかというと、これはダメという場合が多いですよね。
浅尾 家相学も建築家の清家清先生のご著書で少し勉強したことがありますが、すごく条件が厳しいのです。こうするといい、こうするとダメというのがとても細かく決まっています。
佐藤 条件をすべて満たす100点満点のケースは見たことがありますか?
浅尾 いやあ、ないですね。
竹内 清家清先生の本は家相をネタに、じつは住宅計画学の話をしているんです。家相見の人が読んだら、違う意見をもつところもあるかもしれませんが、清家先生のすごいところは、家相の話題を取り入れることで専門的な話でも多くの読者に届けられるとわかっていたことです。もちろんきちんと家相を勉強しておられると思いますが、ケースバイケースだとわかってお書きになっている。
浅尾 たしかに、家相というものは風水と違い、それをどのように取り入れるかという取捨選択の手法なのかもしれません。
理想の間取りを描いてみた
佐藤 じつは今日、見てもらいたいと思って「私の理想の間取り図」をお持ちしました。ワークショップの講師を務めた際にサンプルとしてつくったものです(図2)。当時は34歳で、20年後に住む家という設定にしました。都内から電車で30分か1時間ぐらいの立地で2階建て。ポイントは坪庭があることです。坪庭を見ながらお風呂に入りたいとか、トイレを掃除する時に狭いのは嫌だから広くしようといったことを考えながら描きました。いかがでしょう、ぜひ添削してください!
浅尾 私もお風呂やトイレは大きいほうがいいな。
佐藤 賃貸のトイレは大抵狭いので自分で建てるなら広くしたいなと。あとは、本をたくさん収納したい。
竹内 意外に……というと怒られるかもしれませんが、よくできていますね(笑)。
浅尾 お仕事部屋からは緑が見えるようになっているのですね。
佐藤 はい。梅か柚子か柿の木を植えて、ベランダでビールを飲めるようにしました。だいたい食べることか飲むことしか考えていない(笑)。
竹内 お一人で住むのですよね。寝室はどこですか?
佐藤 2階です。上げ床式にした畳敷きの4畳半部分に布団を敷こうかなと。布団を仕舞うために床面の下を収納にしています。
竹内 玄関を開けるとLDKがあるのですね。
佐藤 そこにダイニングテーブルを置こうかなと思ったのですが……。
竹内 〈LDK+個室〉というのは、住宅を計画する際の典型なのですが、この間取りだとLDKは1階にありますね。ご飯を食べる時はテーブル? こたつでもいいですよね。
佐藤 なるほど、こたつを置くとしたら2階ですねえ。
竹内 佐藤さんは意識せずに洋室と和室を区別して〈LDK+プラス〇〇〉にしているでしょう? 玄関を開けてすぐに食事するスペースがあるので、例えばこたつでミカンを食べている時にもし誰かが入ってきたら、あ、みたいな感じになりますよね。設計の授業なら、本当にここで生活したい? と訊いてしまうかもしれません(笑)。
佐藤 難しいですね! LDKと言いつつけっこう狭いですし。
竹内 日本の住宅はLDKに代表される典型例が根強いので、本当に自分が暮らしたい家を自由に考えるのはとても難しいのです。私が営業マンだった頃に営業所で間取りを描き写していたのも、まさに典型例を覚え込む課題でした。
よくある失敗談に、リビングを10畳確保して、広々としたダイニングもある、4畳半のお茶の間でくつろぐこともできる、といった家をつくったとしても、実際に住んでみると広いリビングをもてあまし、結果、家族全員が小さなお茶の間に集合し ているなんてケースもあります。
佐藤 こたつがあると、どうしてもそこに人が集まりますね。
竹内 そういう典型的な間取りは展示場でよく見られます。そうした印象が強すぎると自分たちの暮らしもそれに縛られてしまいます。
佐藤 そう考えると、私の間取りはLDKの部分がわりといい加減だと認めざるを得ないです。坪庭が見えるお風呂とか、ビールが飲めるベランダを先に考えて、LDKは一番最後に適当に付けちゃった。
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