【三人閑談】
間取りという小宇宙
2023/02/24
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佐藤 和歌子(さとう わかこ)
文筆家、間取り収集家。2003年慶應義塾大学環境情報学部卒業。義塾在学中から「間取り通信」を発行。著書『間取りの手帖』(2003年)『間取り相談室』(2005年)が話題となる。 -
浅尾 千夏子(あさお ちかこ)
慶應義塾大学理工学メディアセンターパブリックサービス担当主任。図書館司書を務めるかたわら、個人的な趣味として2002年に風水鑑定士の資格を取得。1992年慶應義塾入職。
三田キャンパス図書館旧館の方位
浅尾 20年ほど前に、風水の鑑定士の資格を取ってみたことがありました。きっかけは引っ越しを考えていた時期に鑑定士の資格を持っていた知人から勉強してみたら? と奨められたことです。住宅選びの参考になればと勉強してみました。
佐藤 風水にはさまざまな要素が関係してくると思いますが、その中でも特に重要な要素は何でしょうか。
浅尾 風水は間取りにも関係するのですが、もう少し大きなスケールで見るものです。例えば、土地の気運や地形、建物の立地などです。
三田キャンパスの図書館旧館はキャンパスの北東に位置し、これは勉強や研究といった探究心を満足させる方角にあたります。また新館は東にあり情報や通信、発展性を意味する方位にあります。
佐藤 図書館に最適ですね。
浅尾 そうですね。佐藤さんが卒業された環境情報学部のある湘南藤沢キャンパス(SFC)のメディアセンター(図書館)は比較的キャンパスの中心に近く、ネットワークのハブ的な意味があるのですが、集中して勉強するというよりも自己表現を学ぶのに適した位置と言えます。
佐藤 たしかにそんな感じでした。説得力あるなあ。
竹内 鑑定士をお仕事にしようとは思われなかったのでしょうか。
浅尾 今のところ個人的な趣味に留まっています。というのも鑑定する際には方角の善し悪しだけでなく、住人の生年月日と建物が建った年との相性も関係し、それも数十年に一度、気運が変化したりします。それらを組み合わせなければいけないので、かなり面倒な作業で時間と労力が必要になるんです(笑)。
佐藤 風水と言えば、有名なのは、Dr.コパさんですね。
浅尾 そうですね。彼は西側に金色や黄色のものを置くとよいと言っていましたが、あれは中国由来の風水というよりも日本の家相学に重きを置いたもののようです。鬼門や裏鬼門という概念も日本独特のものです。風水の中の地形の考え方を間取りにも用いたのが日本の家相学になるのかなという気がします。
『間取りの手帖』の反響
佐藤 私は昔から間取りを蒐集するのが趣味で、環境情報学部に在学していた頃に「間取り通信」というフリーペーパーをつくっていました。それが編集者の眼にとまり、2003年4月に『間取りの手帖』(リトル・モア)という本になりました。半年留年してぎりぎり学生だったことも関係したのか、これが予想外にヒットして、間取りに関するコラムの執筆依頼などを受けるようになりました。市民向けのカルチャーセンターでも何度か間取りの話をしましたが、間取りに興味をもつ方が予想以上に多く、当時はびっくりしたものです。
竹内 佐藤さんが面白いと感じたことがじつは皆にも面白かったのですね。
佐藤 「私も子どものころから間取り図を見るのが好きでした」とか「こんな間取りはどうですか」と読者カードでご意見を寄せてくださる方もいました。今ではさまざまな出版社から間取りの本が出ていますが、間取り図は人の想像力を刺激するところがあるのでしょうね。
浅尾 たしかに、どこかよその家庭の生活を想像させる何かがあります。この家に住んだらどんな生活になるだろうと。
佐藤 そうなんです。間取り図を見ていると住める気がしてきますよね。こんなところには住めないよ、なんて若干上から目線になれる楽しさもあります(笑)。
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竹内 孝治(たけうち こうじ)
愛知産業大学造形学部建築学科准教授。専門は住宅産業論、居住文化論。ハウスメーカーの営業職を経て研究者の道へ。住宅雑誌やパンフレットを収集し、戦後日本の居住文化を研究。