【三人閑談】
百人一首の奥義
2022/01/17
人生が変わる1枚
浜野 競技かるたは段位は十段まであり、九段と十段は功労段です。トップレベルのA級と呼ばれているのはA級四段からになります。大会で勝っていくと上がっていくシステムで僕はA級六段です。
佐々木 おお、すごい。
小泉 浜野さんは名人戦でも必ず勝ち進みますし、選抜選手権というトップクラスの選手だけが行く大会にも必ず出ているので、間違いなくトップクラスの選手です。
浜野 名人戦の予選が西と東であるのですが、まずそこに出るのに1年の成績などで選抜されなければいけません。2年前に東で代表になり、西の代表と戦いました。そこで勝てば名人戦に出られる試合、1勝1敗で迎えた3試合目で残り札が1対1。
小泉 出た!
浜野 1対1だと読まれたほうがほとんど勝ちです。それで、相手のほうが出てしまって、名人戦に行けなかったことがありました。
佐々木 それは悔しいよね。
浜野 1枚で人生が変わるんだなと。
佐々木 それだけでドラマになりそうですね。浜野さんが学生チャンピオンになった時、塾長奨励賞の推薦文を書かせていただいたので、非常に印象深いです。その後も頑張っておられるんですね。
小泉 東の代表になるというのは尋常じゃないですよ。
浜野 東の会場は文京区大塚のかるた記念大塚会館というところです。記念会館といっても本当に狭いんです。正直、畳の目も改修してほしいと思うのですが(笑)。西はもちろん近江神宮ですから。
佐々木 東にもそういうのがほしいよね。鶴岡八幡宮あたりにしたほうがいいのではないかな。そのうち海外の選手が強くなったりするのかもしれないですね。
浜野 A級選手はすでに何人かいます。
佐々木 だんだんそうなると思います。日本の古典研究でもどんどん優れた研究者が出ていますから。
千年残る歌
浜野 競技かるたは何歳から始めてもよくて、子供がやるから親世代も一緒になってやろうという人がかなりいるんですよ。親子で切磋琢磨して練習するとよく聞きます。
佐々木 ここのところずっと慶應が強いでしょう?
浜野 強いです。団体戦では2年前に大学選手権で初優勝しました。スポーツの世界と一緒で、強いところには強い人が集まってくるので、最近は強いです。
小泉 浜野さんは百人一首をやろうと思って慶應を選んだわけではないんですか。
浜野 そういうわけではないです。僕は大学では自分の練習は正直あまりしておらず、後輩の指導とか同級生に強くなってほしいという思いで、かるたをしていました。
教える側であるからこそ学べることがたくさんあって、福澤諭吉先生の教えである半学半教の精神に従っているところです。人のためにやってきたからこそ、ここまで強くなれたのかなというのはあります。
佐々木 いい話ですね。競技をしている方々に中身も理解していただけるよう、われわれも頑張らなければいけないですね。
浜野 ぜひ、よろしくお願いします。末次先生や小泉監督の『ちはやふる』が火付け役となってここまで広めてくださったので、何か恩返しをしないといけないと競技者皆が思っています。もちろん、よりかるたを広めることもそうですが、意味を知って、歌の解釈をして競技に臨まないといけないですね。
今回こういう機会をいただいたのでこれから勉強しようと本当に思いました。それが競技における自分の成長にもつながると思うので、いつかは名人になって、もうひと花咲かせたいと思います。
佐々木 楽しみにしています。
小泉 映画のせりふにも書いたのですが、千年前の歌が今も残っているのはすごいというのは、頭では理解できるのですが、実感としては持ちにくいと思うんです。
でも、脚本を書いていくうちに、千年前のものが今に残っているということは、今の僕らが作った何かも千年先に残る可能性があるということだと思った時、何か腑に落ちるものがありました。
だから、百人一首やかるたを考える時に、過去のことだけではなくて、千年先のことも併せて考えると、より千年前のことも想像できるのではと思うんです。千年先の自分と似たような人たちに対して何が残せるのか、を考えてみても面白いのかなと思いました。
佐々木 面白い話ですね。J─POPでそういうものを作ってもいいわけですよね。
今日は有り難うございました。
(2021年11月19日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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