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【三人閑談】
魅惑のチョコレート

2021/02/25

チョコレートでできる社会貢献

本谷 最近、環境問題や社会貢献活動に関心をもつ学生がとても多いのです。

カカオの生産地では児童労働が問題になっていて、とくに深刻なのがアフリカ諸国です。そうした中で、森永製菓さんは日本のメーカーで初めて、2008年から、カカオ生産国の子どもたちの教育支援を行う「1チョコ for 1スマイル」という取り組みをされていると聞きました。チョコレートを1つ買うと、1円、寄付されるのだそうですね。

野秋 この仕組みは森永製菓が直接生産地に寄付するのではなく、途上国で支援活動を行っている公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン様、認定NPO法人ACE様をパートナーとして売上げの一部をお預けし、その活動をサポートする形なんです。

会社としての取り組みですが、そこには開発や販売の担当者の思いが響いている部分が大きいと思います。社内で議論を重ねる中で、ある担当がNGO・NPOと組むというスキームを発案し、それを会社として積極的に受け入れ継続しています。

本谷 フェアトレードの流れを生むきっかけとなったのは2001年に米国の議員とチョコレート製造業者協会が締結したハーキン・エンゲル議定書ですね。

野秋 以前、森永製菓で「フェアトレード認証チョコレート」を製造販売しましたが、やはり継続していくのは難しい。その上で「カレ・ド・ショコラ」などの商品を通じて、「1チョコ for 1スマイル」という形で社会貢献をしているということなんです。

森永製菓では2020年度より、チョコレート商品の一部において、社会課題を解決し持続可能な調達に貢献する認証カカオ豆(バリーカレボー社より提供される「ココアホライズン認証カカオ」)の使用を開始し、2025年度までに国内の商品に使用するカカオ豆を100%持続可能な原料に切り替えることを目指しています。

本谷 フェアトレードでカカオ豆を仕入れていらっしゃる山下さんは、どのようにお考えですか。

山下 野秋さんが言うように、チョコレート全体で考えると、なかなか難しい現実もありますよね。カカオの生産量の6~7割は、コートジボワールやガーナ、といった西アフリカ諸国に集中しています。

あるレビューによれば、西アフリカで12歳から15歳までの222万人以上の児童が労働を強いられているそうです。カカオの7割が彼ら彼女らによってつくられているとすると、普段食べているものも何らかの関わりがあるかもしれない。それを白か黒かの二者択一で捉えてしまうと、チョコレートを口にできなくなってしまうと僕は思っています。

だから、そうではなく色々な選択肢の中でチョコレートに親しんでほしいなと思うんです。一般向けの手軽なチョコレートも、フェアトレードで高値で仕入れるチョコレートもある。消費者の選択肢が増えることが、フェアトレードが増えていったり、少なくとも児童労働のような問題が少しずつ解決に向かっていくことにつながるんじゃないかと期待しているんです。

今、ICTが発達しているので、消費者の方の情報感度も飛躍的に発達していますし。

野秋 まさしく、選択肢が多くあることが大切ですね。

山下 クラフトチョコをやっている僕でも当然、森永さんのチョコレートは食べたいし、おいしいだけじゃなく、その自由な選択の中でも社会貢献できる仕組みがあるわけですから。

野秋 お客様の選択肢が広がるのは素晴らしいことで、だからこそ、品質アップしないと市場競争では負けていく側面もあります。

バレンタインの起源は?

本谷 日本で2月14日にチョコレートをあげるというイベントは森永さんが最初に始められたのですか。

野秋 歴史的に言うと、戦前にモロゾフさんが新聞広告を出したのがどうも一番古そうです。戦後は様々なメーカーがそれに追従したので、何を始まりと定めるかはすごく難しいですね。ただ、僕が史料室にいた時には森永製菓はバレンタインを広めた企業だったと言われていました。

1960年頃、「森永チョコレート ゴールド」という新商品を売り出す時に、新聞やテレビでバレンタインを前面に押し出す広告を出したんです。

本谷 やっぱり色々な面で先駆けなんですね。

山下 ヨーロッパではバレンタインには男性が女性に対して花を贈るんですよね。

本谷 スペイン語圏では、Dia del Amor(ディア・デル・アモール)と言って、恋人同士でプレゼントを交換する習慣があるんです。日本では女の子が好きな男の子にチョコレートをあげて告白するのよと教えると、向こうの男性は皆、日本に生まれればよかったと言いますね(笑)。

野秋 2月は日本でキャンペーンに最適なんです。商売の世界では売り上げが伸びにくい2月と8月は28(にっぱち)と呼ばれ、当時の広告部の人間もそこに着目したんです。

山下 バレンタインはいまや1千億円を超える市場規模ですものね。

本谷 バレンタインも今は色々と変わってきていて、「友チョコ」と呼んで友達同士で交換したりとか。

山下 本命チョコみたいなのは少なくなっていますよね。義理チョコから友チョコに移り変わっていって。

野秋 自分へのご褒美とかね。

本谷 普段口にしない高価なチョコレートはまさにご褒美チョコでしょうか。

山下 ご褒美チョコとしてお求めになるお客さんは多いですね。うちのバイトの子たちも、お父さんにあげるのは自分が食べたいチョコだと話していました。お母さんと一緒に選びに行って、一旦はお父さんにあげるんだけど、お父さん経由で自分に戻ってくると(笑)。だから自分の食べたいチョコを選ぶんだそうです。

野秋 ちゃんと自分に戻ってくることを計算して選ぶんですね。

本谷 賢い(笑)。まだまだ語りつくせませんが、とても楽しかったです。今日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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