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【三人閑談】
魅惑のチョコレート

2021/02/25

健康志向の高まりで大人気

野秋 今の日本では、まさに、カカオポリフェノールの抗酸化作用やチョコレートの健康機能に着目した商品がすごく出回っていますよね。

昔みたいな「楽しさいっぱい、お子様元気」というチョコレートより、健康にいいという謳い方をしているものがスーパーの棚を専有している。

本谷 その動きはいつごろからですか。

野秋 1995年にテレビ番組でココアの効能を謳う特集が組まれた時に、売り場からココアが一斉に消えたことがあるんです。2010年以降は健康志向の高まりとともに、各社が「カロリー過多、砂糖過多」のイメージを払拭するために健康に特化した商品を増やし始めたのではないかと思います。

山下 「カカオ○○%」と明記された商品がとりわけ目立ちますよね。

僕たちもカカオの含有率をパッケージに表示していますが、「健康に良い」というのは売りにしていないんです。やはりカカオ本来の味わいをダイレクトに引き出すことが面白くてやっているので、そこに特化したいという思いがあるからです。

コーヒーの世界でも最近サードウェーブコーヒーやスペシャルティコーヒーと呼ばれるように、苦いという今までの評価に対して、酸味を軸にした文化が受け入れられるようになっています。

本谷 価値観の変化には、ゆっくりと丁寧につくられ、身体に良いものを口にしたいというスローライフの影響もあるのでしょうね。私の両親も「体に良いから1日に2枚は食べなきゃ」と、森永の「カレ・ド・ショコラ」を食べています(笑)。

山下 「カレ・ド・ショコラ」は大人気ですよね。

野秋 私も今では毎朝食べていますが、10~20年前だと高カカオのチョコレートはあまり好まれませんでした。それが今や皆がおいしいと感じられることに隔世の感がありますミニマルのチョコレートにはカカオがどれくらい入っていますか?

山下 一番低いもので65%ですね。平均すると70~75%。高いものでは80%~90%です。

野秋 明治さんの「ザ・チョコレート」も70%ですよね。好んで食べる人が増えるようになったのは味覚的な変化のせいなのか、技術的な革新のせいなのか。

山下 技術が進んだ部分は確実にあると思います。大量生産が始まった当時は殻に付着した菌を殺すために大量の豆を高温で焼き、一部の豆を焦がしていました。

焦げは苦みや雑味のもとですから、カカオ本来の風味を引き出すことは難しい。ところが、昨今は、焼きの工程で繊細にコントロールして焦げないように調える技術が確立され、きめ細かく丁寧に風味の追求ができるようになったのだと思います。

カカオ豆をフェアトレードで

山下 ミニマルは健康志向を狙っているわけでないのですが、苦味を減らした発酵の仕方を工夫しているので、70~80%でもとても食べやすいものになっています。ところが高齢の方に試食していただくと「苦くないから物足りない」と言われたり。

野秋 「良薬口に苦し」と思う世代なのかな(笑)。

山下 最近、産地への関心も高まり始めましたね。例えば、「シングルオリジン」と呼ばれる1つの産地や農園で採れるカカオ原料に統一し、香りを生かす動きもこの5年ほどで注目されるようになってきました。

本谷 私の周りにも「ベネズエラ産がいいんだよね」と言い出す人が現れています(笑)。本当にワインのようですよね。

野秋 今はわかりませんが、昔は世界的にカカオ豆の生産量はそれほど多くはなく、価格変動が激しかった。単一の豆で製品をつくるには原料コストが不安定なので、ブレンドすることで安定的な供給体制をつくっていったんだと思うんですね。山下さんのように豆にこだわると、価格が変動した場合、大変ではないですか。

山下 私達は独自基準で100%フェアトレードで市場価格より高く買うので市場価格には左右されません。カカオの価格にはICCO(International Cocoa Organization)が設ける基準があり、ロンドンやニューヨークのマーケットなどでは、1トンあたり2000~3000ドルくらいになります。僕らのロットで言うと1キロあたり2ドルから3ドルぐらいが大体の相場でしょうか。

ミニマルでは基本的に生産地や製法、品質をきちんと評価をした上で、キロ当たり市場価格プラス1ドルを最低価格として品質に応じて、時に市場の数倍の価格で豆を仕入れています。

その分どうしても単価が上がり、板チョコ1枚1500円ぐらいになります。もちろんの価値があると自信を持って商品をつくっていますが、それが適当か判断するのはお客様です。

本谷 ミニマルが6周年を迎えたのも高級なチョコレートを志向するお客さんが一定数いる証拠ですよね。

山下 そうですね。作り手の数も増えていて、スペシャルティチョコレートのメーカーも今は全国で60~100社ほどあるそうです。

小規模のところが多いのですが、私が立ち上げた当時は片手で足りるほどの軒数でしたので、この6年でずいぶん増えました。今年はコロナ禍で開催できなかったのですが、毎年、私が発起人となって「Craft Chocolate Festival」というイベントを主催していて盛況です。

本谷 私はそういうお話を聞くたびに「フィールドワーカーとして実際に確かめなければ」と言いながら出かけていきます(笑)。

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