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【三人閑談】
キャンパスの植栽

2020/05/25

物語のある樹木管理を

澤藤 せっかく学塾にあるのだから、日吉の森は、何か物語(明確な方針)が欲しいなと思うんです。

管理をせずに自然のままにしたほうがよいという意見もある。一方、もともと日吉のキャンパスがあるところが台地で、縄文時代はその下はずっと海だったと言われます。だから貝塚が出てきたり、住居址もある。そうすると、日吉の森というのは、その時から人の手で切り開かれて管理されていたという面があると思います。そのようにある意味管理されてきた自然だとも言える。

そういった歴史を考えるところまで皆が話ができるようになり、「ああ、なるほど、だからこうした管理をしているのね」みたいな物語が欲しいなと。

職員はしょっちゅう人事異動で人が代わるので、そういう物語があると担当者が代わっても、大きなよりどころになって管理をしていくことができると思います。そうやって日吉の森を維持していけたらと思うんですね。

細野 おっしゃる通り、あのあたりは相当、貝塚が出てきますし、古くから人の営みがあった地域なので、おそらく二次林で、人が入らないような森ではなかったはずです。二次林というのは落葉樹中心の森になりますので、関東だと、おそらくクヌギ、コナラが中心だったでしょう。

何のためにそういう林になっていったかというと、薪炭林として薪にするためです。落葉樹なのですごく明るい空間になります。明るい林というのは学生たちが安心してキャンパスの中で生活していくということでもすごく大事な観点だと思います。やはり落葉樹を中心とした二次林として、今後も考えていくのがいいと思います。

後は、やはり管理の目標、計画、そして樹木の1本1本についての樹形の目標ですよね。「この木はこの場所に植わっているのであればこのくらいの大きさにしておきましょう」というものをしっかりつくっておいてほしいと思うのです。

今、アメリカなどの大都市だと、GIS(地理情報システム)で全部樹木の情報を紐づけてホームページで公開されているところが多い。地図をズームしていくと、その樹木の写真が出て、この樹種はどういうものだと全部出てくる。キャンパスでもそういう取り組みをしているところがあります。そうやって市民の皆さんに親しみを持ってもらうのですね。

岩淵 そのような取り組みもあるのですね。

細野 私は高校から日吉のイチョウ並木を見ていたのに、そんなにいいものだとは気付きませんでした。いろいろ勉強をしてあらためて来訪すると、すごいところに通っていたな、とあらためて感動しました。

知らないと見えないものはたくさんありますね。キャンパスの緑景観についての情報や知識を皆さんに知っていただけるような取り組みができれば、緑を介した交流や面白い活動も生まれてくるかもしれません。

澤藤 三田ももちろんそうですが、日吉は、もう街の人も普段からあのイチョウ並木のところを通っている。そういう意味では、日吉の並木というのは横浜市の街並み景観賞をもらうくらいで公共財という役割が非常に強い。日吉キャンパスの森も含めて非常に貴重なものなので、これからも大切にしていきたと思います。

今日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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