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【三人閑談】
キャンパスの植栽

2020/05/25

樹木の寿命

岩淵 イチョウ並木は日本中にたくさんありますね。植え替えをしているところはありますか。

細野 昔植えた街路樹が大きくなり過ぎて困っている自治体は多いと思います。

イチョウの場合はまだ剪定に強いので、大きく切り詰めて縮小しても耐えてくれますが、ケヤキなんかだと扇形に開いている樹形なので、一次枝という幹から直接出ている太い枝を切り詰めてしまうと、もう一気に枝が枯れ、樹形も崩壊してしまい、樹木の元気がなくなってしまう。根っこも駄目になって倒木の危険が出ます。

日吉のイチョウ並木は皆さんから大事にされている。1本1本を大事にしたいのか、それともあのイチョウの並木を大事にしたいのかと言えば、それはやはり並木なのだと思います。日吉駅から記念館へと向かうあの景観を大事にするために、並木をどうやって維持していくかですね。

例えば、丁寧にやっている並木としては、宮崎のワシントンヤシの並木があります。あれは何十年計画で端から少しずつ植え替えていくという計画ですが、でも、日吉の場合、並木全体の更新を考えなければならないほど傷んでいないですよね。

澤藤 そうですね。私は専門家ではないのですが、いわゆる成長率が止まっている感があります。根が張れる環境がもうあまりないので頭打ちになったのか、それとも成長する元気がなくなって止まってしまったのか、この10年くらいは、幹回りはほとんど成長が見られない状態になっているようなのです。

細野 ただ、私は一昨年に見た感じだと、まだ大丈夫だと思います。空洞率が高くて危ないと言われているものも3本くらいということですし。

この並木は植えられて何年くらい経っていましたか。

澤藤 1935(昭和10)年、日吉キャンパスができた翌年に植えられたんです。

岩淵 イチョウは、ものによっては1000年くらい超えて残っているものもあると聞きます。

細野 はい。鶴岡八幡宮のイチョウなどは、数年前に倒れましたが、鎌倉時代からあったものですね。

澤藤 源実朝を暗殺した時、公暁が隠れたと言われる……。

細野 それもおそらくあとの人が、言い伝えとして作った可能性は高いですが、それくらい生きてもおかしくない。

先ほど桜の話もありましたが、「ソメイヨシノ60年寿命説」も、そんなことはないと思います。

岩淵 そうなんですね。それはもう、環境によるということでしょうか?

細野 環境にもよりますし、管理にもよります。樹木ってもともと人間よりよほど長生きなのです。60年って誰が言い出したのか知りませんが、やはりソメイヨシノの場合、人がたくさん集まるところに植えるので、環境圧がすごくかかりやすい。人がどんどん踏みしめて土を固めてしまうからです。

砧公園にソメイヨシノの自然樹形がありますが、放っておくと本当にお椀をかぶせたような、下枝がウワーッと横に伸びていく木なのです。でも、そうすると、通行する車両にぶつかったり、見通しが悪くなったりするので、ある段階で太くなった枝を下ろしてしまう管理をしていることが多い。

太い枝を切ってしまうと、当然、相当大きな断面積が残ってしまいます。樹木は樹皮により、外部からの細菌や虫などに耐えられるような防御機構を持っているわけですが、むき出しになってしまうと、もうそこから腐っていってしまう。

よく、桜は腐りやすいと言われますが、親指くらいの太さの枝をバンバン切っても全く腐りません。太くなった枝を下ろすからいけないのです。そういう意味から、剪定の頻度は多くしたいですね。

澤藤 なるほど、そうなんですね。

細野 手を入れるほど樹勢、樹木の元気さはコントロールできるのです。要は枝葉を摘むと、光合成産物の全体量が減りますので、樹木の成長量は抑えられます。丁寧に手を入れてあげればあげるほど、だんだん手がかからなくなってくる。

放っておくと枝がたくさんついてきて樹木がどんどん肥大成長する。つまり太り方が早くなる。それを放置しておいて、ある時、バサッバサッと太い枝を切るから状態がまた一気に悪くなるんです。

植樹された頃のイチョウ並木。背後は第二校舎(慶應義塾福澤研究センター蔵)

三田の桜

岩淵 三田キャンパスには、ソメイヨシノは35本ありましたが、大雨や強風で5本倒れてしまい、最近の調査では「問題あり」が13本と診断されています。

幻の門の近くの崖に立っていた桜が、根元から崖の下のほうへ倒れてしまったこともありました。これも、寿命というわけではないのですね。

細野 寿命というよりは、根株の腐朽が進んでいるということだと思います。

岩淵 崖地にあった弱っているソメイヨシノは思いきって切りました。崖地の向こう側は近隣の方の敷地なので危ないですから。

残っているソメイヨシノのうち、「問題あり」と診断された木は、安全を第1に考え小さくしました。一方で、5年くらい前までの桜はとてもきれいで、皆が写真を撮っていました。今はもうぱらぱらとしか花が見られなくなったことが残念です。

今後の桜の管理のあり方を考えるべき時期にあると思います。

細野 桜は成長が早いですから、今、傷んでいる樹木をそのまま残しておくよりは、早めに植え替えてしまったほうがよいと思います。10年経てば花がきれいに咲きますから。

岩淵 植え替えする時の桜は、ソメイヨシノを選択しないほうがいいのでしょうか。

細野 ソメイヨシノは、てんぐ巣病という病気になりやすいんですね。てんぐ巣病というのは糸状菌(カビ)が原因で、枝がモシャモシャッとした状態になって、花も咲かなくなってしまう。それが天狗の巣にたとえられるのです。いずれは枯れていってしまうという病気です。

桜の名所づくりなどで有名な(公財)日本花の会も、これまで行っていたソメイヨシノの頒布をやめてしまいました。現在はジンダイアケボノという種類を代わりに頒布するようになったようです。ちょうど咲く時期が近く雰囲気も似ている。ソメイヨシノほど枝が広がらないので、最近はこれが注目されていますね。

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