【三人閑談】
キャンパスの植栽
2020/05/25
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澤藤 正哉(さわふじ まさや)
慶應義塾日吉キャンパス事務センター運営サービス担当(用度)課長。1997年慶應義塾大学環境情報学部卒業。99年同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同年慶應義塾入職。
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岩淵 聡(いわぶち さとし)
慶應義塾管財部職員。2001年青山学院大学経営学部卒業。同年、大日本印刷株式会社入社(出版印刷事業部営業)。2005年慶應義塾入職。学生部を経て、13年より管財部へ配属。樹木管理等を担当。
「倒木」の責任とは?
澤藤 慶應の三田・日吉のキャンパスは歴史もあり、古い樹木が多くあります。日吉には何といってもキャンパスの「顔」であるイチョウ並木があり、またその奥の蝮谷には森が広がっている。三田は中庭の大イチョウが有名です。
これらの樹木はキャンパスの景観に欠かせないものであり、卒業生にとっても思い出深いものだと思いますが、一方で倒木などの管理の問題もあります。今日は、塾出身の樹木医、細野さんを交え、話していきたいと思います。
細野 私は変わった経歴ですが、塾の法学部法律学科を出てから千葉大へ行き、樹木医になりました。理由を話すと長くなりますが、簡単に言うと、樹木が好きだったからというのが一番の理由です。
澤藤 シンプルですね。
細野 実は司法試験受験生だったんですが、進路を考えた時に、「そんなに法律好きじゃないな」と気付いてしまいまして(笑)。
もともと祖父が園芸が好きでした。私も家の庭で合間、合間にいろいろな植物を育てているうちに、専門的に樹木を育ててみたいという気持ちが大きくなり、剪定や管理技術、造園などを研究している千葉大の大学院に行きました。
ある時、研究室の教授から、「今までやってきたことを生かせば」という助言を受けて、樹木と法律的な社会問題などを組み合わせて研究することにしたんです。
よく「木が倒れた」という報道がありますよね。一つ間違えば大変な事故が起きます。当然所有者だったり管理者がいるので、その人たちの責任はどうなのか、ということがある。そこを専門にしている人は全然いなかったんです。
事故が起きたら必ず責任を負わなければいけないということではなく、その管理者が事故を予見できたかどうかが重要になってくる。つまり、日頃管理者がどういう管理をしていたかが重要なのですね。
澤藤 まさに、去年、台風19号、21号で、日吉キャンパスの樹木が、慶應が土地を貸している横浜市の認可保育園のフェンスと屋根を傷つける事故が起きました。その時も責任の問題が浮上しましたが、樹木の定期的な剪定を行っている管理記録をきちんと取っていたので、相手方は「これじゃあお金は取れませんよね」となりました。
私が日吉のこの部署に来た時は、樹木管理にあまり予算措置をしていませんでした。何かトラブルが起きたら切るくらいで、イチョウ並木にもなかなかお金をかけられずにいました。
また、桜に寿命が来ているタイミングなのか、倒木騒ぎがよくありました。そのためキャンパス内の危険箇所についてはここ2、3年、予算を多く付けて樹木管理に力を入れています。もし倒木で通行人や学生にケガをさせてしまったら、それこそ多大なコストになる。そこで、東急グリーンシステムという会社と組んで日々の巡回や、緊急時対応の体制をようやく整えたところです。
細野 日々の巡回というのはどのくらいの頻度ですか。
澤藤 東急グリーンシステムの人が常駐して毎日やってくれていますが、日吉の管理範囲は下田も含めると相当広くて全部を1日で回りきれません。エリアを分けて、危険度の高いところを重点的に見ながら、すべての場所について、最低でも月に1度は点検するようにしています。
日吉キャンパスは丘になっていて斜面地が多いので、湧き水がないかなど、防災面でのチェックも同時に行っています。
岩淵 私は、現在三田の管財部で、業務の1つとして樹木管理を担当するようになりました。
三田キャンパスの敷地は狭いとはいえ、樹木の数は相当な本数あります。なかなか1年で全ての樹木を剪定することはできませんが、部分的にでも切って、整えてあげるとキャンパスに光が差し込みとても明るくなり、外から見える景色も美しくなります。そこに通い、過ごす学生も心地良く感じてくれていると思うことがあります。
また、日吉ほど広くありませんが、三田も丘で、崖地があって危険な箇所もあります。
イチョウ並木を守る
澤藤 日吉のイチョウ並木は、近年調査と整備を積極的に進めています。私が来た時には、6、7年くらい枝を切っていないという状況でした。下のほうの枝は日が当たらないのでちょっと元気がなく、風が強い日は折れてしまうことがありました。上のほうの枝は隣の木の枝と干渉し合っていたりもした。そこでまず樹木医に見てもらったんですね。
樹勢調査をすると、剪定をした後の状態が一気に悪くなり、3、4年かけて何とか復活するということを繰り返していたようです。また胴枯(どうがれ)病もあったようで、樹皮が何かしらおかしいものと、空洞率が高くなってしまっている木がありました。
やはり切り方の影響が大きいようでしたので、東急グリーンシステムの中で棟梁の中の棟梁と言われている人に切ってもらうことにしました。わざわざ、見本剪定といって、1本木を決めて先に切って、1年おいて、影響がないことを確認した上で他の木を切っていくことにしました。
細野 1年、見本剪定を見るわけですか。相当丁寧なことをしましたね。
澤藤 そうですね。イチョウ並木はキャンパスの顔なので、これは大事にしていくべきだということと、やはり倒れた時の影響が相当大きい。また、シンボルなので円錐形にきれいに切るのはなかなか難しいみたいですね。
細野 イチョウはもともと、自然な樹形は円錐形ではないのです。三田のイチョウの樹形は違いますよね。おおらかな丸い形が本来のイチョウの樹形なのです。でも、神宮外苑の絵画館前のイチョウが有名になり、イチョウはああいうものだと皆、思ってしまっている。
ただ、日吉のイチョウ並木は記念館へのビスタ(見通し景観)をつくるという意味もありますから、円錐形がいいと思います。
澤藤 日吉のイチョウは、調べてみると、117本中3本くらい空洞率が高いものがありました。これらの木はワイヤーを張って倒れないようにしているのですが、このまま空洞率が高くなるようであれば、いよいよどこかで植え替えが必要なのかなと思っています。
植え替えについてはまだノープランで、とても難しいと思っているんです。117本のイチョウをいっぺんに替えるのは無理で、もちろん、並木がまったくなくなる状態はつくれない。
かといって、半分ずつ替えるのも難しいだろうと。そうすると間引きで替えていくのかとか、今後考えないといけないなと思っています。
細野 危ない木は、どのあたりにあるのですか。
澤藤 1本は入口のところにある木で、これは一番気にしています。昔は小さかったので幹の周りの土の部分も小さくて済んでいたのが、どんどん大きくなって結局アスファルトのほうに根が行ってしまって、そこを人が踏んで菌が入ったり、いろいろな理由で空洞化が起きているのだと思います。
細野 たぶん、入口の近くとか向かって右手側は保健管理センターや道路もあって、いろいろいじっている部分だろうと思うのですね。おそらくそれで根を傷つけて、下から菌が入っているのではないかと思います。
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細野 哲央(ほその てつお)
一般社団法人地域緑花技術普及協会代表理事。樹木医。博士(農学)。2000年慶應義塾大学法学部卒業。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。同大学院園芸学研究科特任助教等を経て現職。千葉大学客員研究員。