【三人閑談】
キャンパスの植栽
2020/05/25
「こまめな散髪」がよい
澤藤 景観もそうですが、イチョウは清掃との戦いもあります。あれだけのイチョウ並木になると100リットル袋が1日で60袋とか出ていくわけです。樹木医さんは、切った葉っぱとかも木の根元のところに置いておけば木も守られるし、水も保てると言うのですが、風が舞った瞬間にブワッと道路に散ってしまって(笑)。
細野 そうですね。イチョウは油分が多いので、坂道だと滑ったりするので放置するのはちょっとおすすめできないですね。
ただ、これは言っておきたいのですが、落葉を減らすために強い剪定をかけることがよくありますが、強く切り詰めると、葉っぱが減るように思っても、実は枝を丁寧に抜いた場合と比べて、次の年に出てくる葉っぱの総重量は変わらないのです。
枝葉が少なくなってくると樹木は光合成産物、エネルギーが少なくなるので一生懸命葉っぱを出そうとします。強い剪定をかけた年は、外から見るとすごく葉っぱが大きくなったように見えますが、実は細かい葉っぱもたくさん出てきています。合わせて乾燥重量を量ると枝を抜く剪定と有意差がない。
それであれば、丁寧に枝を抜くような形で樹勢をコントロールするのがよいでしょう。樹木を人間の持つ技術でコントロールするような管理ができるんです。
澤藤 こまめな散髪をしなさいということですよね。
細野 そうです。また、忘れてはいけないのは、「そもそも何で植えたのか」を考えることです。やはり人間の側からここに樹木があるといいよね、という理由があって植えているわけで、それを大事にしたい。
植栽の効用としては、まずは「緑陰」です。これだけ夏が暑くなってきている都市の環境の中で、枝葉を広げて緑陰を落としてくれるのはすごく大きな機能ですよね。しかも、樹木は中には水が通っているから涼しいのです。
次に「防災、減災」。まとまった樹木があるということで火災を防げる。焼け止まりです。
また、植物の緑を見ることで、心理的、あるいは生理的な部分でストレスが軽減されるという結果が実験で出ています。大学では、いろいろなストレスを受けながら皆さん勉強しているわけですから、それを緩和できるような空間は絶対に必要です。
あと並木で言えば、先ほどから言っているビスタ(見通し景観)ですね。日吉のキャンパスの風格や威厳といったものを訪れる人に強く印象付ける役割は大きなものがあります。三田で言えば、大イチョウもそうでしょう。
あとは、年代も様々な人たちが、緑を中心にして集まるというコミュニティ形成機能があります。大学には、環境のことに興味のある学生さんもいますし、一緒に連携しながらキャンパスの中の樹木の管理や、新しい設計などをやれると思うのです。
植え替えをどうするか
澤藤 日吉は風致地区に指定されているので、木を切ったら植えなければいけないんですね。奥にはとても豊かな自然があるので、そこで、これはちょっと倒木の危険があるので伐採をしましょうとなると、では、伐採した後に何を植えていくか、ということになります。
ヒマラヤスギやメタセコイアもあるのですが、あれらの木々はどんどん上に伸びていくわけです。最初のうちは見た目もいいとメタセコイアの並木を植えても、そのうち樹高が伸びると切るのが手に負えなくなってくる。
いつも何をどういう方針を持って植えていくか、ということがなかなか決まらない。日吉の生物の先生方からは生物多様性の観点からご意見をいただきます。
細野 エリアを分けて全体的な計画を立てておくべきだと思います。森の中であれば、生物多様性に資するような樹種を植えたらいいと思います。しかし、従来そこになかったものを植えるのはかえって攪乱することになるので、そこをしっかり考えられる人がいないといけない。
また、道路に面していたり、街路樹的な植栽のされ方をするような樹木であれば、世の中にたくさん街路樹として植わっている樹種がいいでしょう。そういった樹木は管理しやすかったり、都市環境に強いからという理由で明治時代以降選ばれているわけですから。
澤藤 下田地区という日吉駅の反対側に体育会の野球部のグラウンドなどがある場所があるのですが、ここが一切手を付けられていなかったんですね。住まわれている方にもいろいろ意見があって、自然のままにしておいてほしいという方と、防犯の面からもきれいさっぱり切ってくれという方がいて意見が合わない。
でも、今年、倒木の危険があるものはいっせいに伐採したんです。特に桜はもう花も咲かなくなってきたくらい弱っていたので。では、代わりに何を植えるかと、これまたいろいろなご意見があり……。何か皆がハッピーになるテーマで植えられたらいいなと思っているのですが。
細野 そういうことならワークショップができるといいですね。それは大学の強みだと思いますので。
澤藤 そうか。先生、今度よろしくお願いします(笑)。
下田は桜が有名だったのですが、本当に弱ってしまって。一斉に駄目になってしまったなと。
岩淵 桜はなかなか切りにくいですよね。将来的にはそのほうがいいのでしょうけれども、その後に植えられるのが今よりずっと小さいものになるだろうと思うと……。
細野 桜の伐採は大変です。いろいろな人が見ている木ですから。特に街路樹であれば、そこをいつも通っている人がいる。その中で、特に春の時期は、入学式、卒業式があり、その人の思い出と強く結び付いてしまっている。
これを切るとなると半身をもぎ取られたように感じる人も当然います。その思いを汲み取りながらやっていくのが大事なことですね。やはり桜はお葬式を上げなくてはいけないと思います。
岩淵 大学には桜以外にも関係者の思い入れが強くあるものが多くあります。寄贈いただいた樹木や記念樹もある。
南校舎の建て替え時には、旧校舎の前にあった大きなタイサンボクとオリーブの木、そしてタブノキの一部を南館の前に移植しました。いずれも記念樹で、タイサンボクは特に大きな木なので、中庭のアスファルトを傷めないように厚い鉄板を敷いて、トレーラーのトラックで構内を運ぶということをしました。
また、大きなタイサンボクを切るために2年がかりで準備をして、「根回し」をしました。この「根回し」は、われわれがよく使う「根回し」の語源だと言われますが、根の部分を2年ほど前に切って、3本全部根回しをした上で一番生命力の強い木を1つだけ最終的に移動しました。寄贈者やそれに関係する方々に喜んでいただくことができました。
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