三田評論ONLINE

【三人閑談】
キャンパスの植栽

2020/05/25

カラスのねぐらはなぜできる?

岩淵 三田キャンパスの桜は、ソメイヨシノに次いでカンザクラが多く植えられています。カンザクラのほうが倒れる件数は少ないですね。

細野 カンザクラはそれほど大きくならないのではないですか。だから、倒れたとしても特に大きな被害にはならないということだと思います。

岩淵 そういうことですね。卒業、入学の季節と桜が満開になる季節は重なりますが、そのころに桜が少ないのはとても寂しいです。施設管理者としてはどうにかしたいという思いがあります。

一方で、桜は虫が付きやすく管理が難しいという面もあります。

細野 ただ、自然のものですからね。木のほうは虫が付いてもどうということもないんです(笑)。

これは完全に人間側の問題で、樹木自体がそれで弱るということは普通はないですし、葉っぱが食べられるだけなのでまた出してくれます。モンクロシャチホコという赤黒くてちょっと気持ち悪いのが夏の終わりくらいにワーッと付いたりするんですね。

岩淵 また、日吉も同じ状況と思いますが、春先になるとカラスが樹木に巣をつくり通行人を襲うことがあり困っています。

澤藤 カラスは、日吉は大変な集合場所になっているようです。記念館の屋根だったり、日吉の森だったり。4時半くらいに一斉にそれぞれのねぐらに帰って行くんです。だから、園芸業者の方たちは、「カラスも解散したから、我々もそろそろ帰るか」ってなるみたいです。

細野 ちょうど教えてくれる(笑)。カラスは樹木への害はないですが、子育て中にかなり気が立っていて、人が突つかれたりすることがあるので、樹木の管理者の方は気にされていることが多いです。やはり枝がモサモサになってくるとカラスやムクドリも集まりやすい状況になるので、枝を抜いてあげることが大事になってきます。

5、6年経ってからバツッと切り詰めてしまうのが一番まずいやり方で、これをやると切ったあとに箒状に大量に枝が出てしまう。あれは当然樹木の形としても乱れるし、鳥からすると、すごく安全なねぐらができた状態になってしまうんです。

そうではなくて、枝を分岐のところで抜いてあげる。日本の伝統の透かし剪定という方法が庭木でありますので、それをしっかり気を付けながらやってあげるとずいぶん違います。

歴史を刻む大イチョウ

岩淵 三田の大イチョウの形は、ドスンと太い幹があって、相当な高さまで枝が広がらずに伸びていて、そこから一気に広がっていくような形をしています。この特徴的な形はイチョウの形としてよい形なのでしょうか。

細野 先ほど見てきたのですが、どこかの段階で太い枝を落として下枝を上げた状態ではないです。昔からああいう形で整えていたのだと思います。

下枝というのは、一番下から出ている太い枝ですが、その下枝をもう少し残してあげたほうがよかったですね。少しプロポーションが崩れている。あれだったら、もう少し樹高を上げたいなとは思います。ただ、歴史は感じさせますよね。

岩淵 はい。特に南校舎から階段を上がってきた時に見える大イチョウの姿は、とても雄大で絵になります。

細野 やはりあれがないと、三田のキャンパスではないですね。もちろん古い建物もたくさんあるのですが、やはり樹木が長い間生きてきた、その成長を刻んでいるということがキャンパスの風格を出していると思うのです。三田の建物で言うと、やはり敷地全体が狭いこともあって、かなりぎゅうぎゅうな状態で、寄木のように新しい建物をつくっている印象があります。通路に対して建物がかなり大きいので、何か見上げる感じになってしまいますね。1個1個の建物としては素晴らしいのですが、それを全体の空間で見た時にてんでんばらばらという感じがして、そこが残念です。

やはり植栽を大事に使っていただくと面白い見せ方ができると思います。植栽は空間と空間をつなげられるんです。大きい樹木を植えると、建物を隠して覆ってまた次の空間に入るというような構成が考えられるのですね。

日本庭園の回遊式庭園はそういう構成です。三田のキャンパスももともと江戸の大名屋敷で、当然庭もあったでしょうから、そういうところから植栽を新たに植えたり設計してみたりということも考えてみてもいいのではないかと思います。

岩淵 とても参考になります。確かに三田は日吉に比べるとキャンパスの敷地は狭く、教室も不足しがちなため、建物を限界まで建てざるを得ない事情があります。

南校舎を建て替えた時には、学生たちからも意見をずいぶん聞いたそうです。例えば法政大学や明治大学は30何階というタワー型の校舎を建てましたが、同じことをすれば、お金はかかりますが、建物の数を減らして、多くの教室もできます。その一方で、高い建物が圧迫感を与えてしまいます。中庭が日陰になってしまうことは嫌だ、という声が多くの学生から寄せられ、そのこともあって建物の高層化はしていません。

細野 私が卒業した時は幻の門のところの建物(東館)もなかったので、だんだん何か要塞みたいになっていくなあと。中に入ると割と、まだ中心の広場がありますけど。

岩淵 周りの建物が防音壁になって、三田キャンパスの中庭というのは実は驚くほど静かです。

細野 福澤公園や南館の前の庭園みたいなところが、残念な植栽空間になってしまっているようですね……。

岩淵 福澤公園は、南校舎を建て替える時に屋外に学生たちのいる場所をつくるために整備しました。

その時、林業三田会さんから、落葉広葉樹を残すと、それが夏は天然の屋根になって直射日光を防ぎ、冬は葉が落ちて温もりを与える、とアドバイスをいただきました。福澤公園は透水性のタイルを敷いて、少し明かりが入るように雑木を切って、それで落葉広葉樹の屋根につくりかえました。

三田キャンパスは都心のキャンパスのため、わずかな敷地を有効活用して、学生がベンチで座って集うような場にもしたかったのです。その後、成長した根が伸びて、通行人が通るところまで届いたものもあります。根の保護を優先するのか、別の用途を優先するのかは難しい問題です。三田キャンパスをどのように使っていきたいかの考えは様々です。その中で植物にとってベストな環境を確保し続けることの難しさがあります。

細野  そうですね。樹木第一ではなく、やはり人間側から一番心地いい使い方をするためにはどうしたらいいかということだと思います。

ただ、樹木を傷めると結果的にその空間も劣化してしまいますから、そこをしっかり考えましょうということですね。その時に、植物の専門家が入るだけでかなり変わってくると思います。

三田の大イチョウ
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