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【三人閑談】
"ゾンビ"がやってきた!

2020/03/25

多様化するゾンビ映画

山下 『バイオハザード』が完結して、王道を全部攻めたじゃないですか。テレビドラマ『ウォーキング・デッド』(2010年〜、米)も今までの要素を全部詰め込んだような感じもあり、映画としては王道が難しくなっている感じがあるのでしょうか。

岡本 そうですね。最近は一捻り二捻りされているものが多いです。『アナと世界の終わり』(2017年、英)というミュージカルのゾンビ映画があります。田舎町で鬱屈して、外へ出たいと思っている女子高生の話にゾンビが出てきて、最後は生き残って、外へ出て行くという話です。それが全編ミュージカルで、すごく面白い。日本では『屍人荘の殺人』(2019年)。ゾンビが発生して、立て籠もった洋館で殺人事件が起こる。何もそんな緊急事態にやらなくていいだろうという話ですが(笑)、ゾンビに囲まれたときだからこそ可能なトリックが使われたりします。

『ゼット・インク(Z Inc.)』(2017年、米)というゾンビウイルスが流行った後の世界の話もあります。パニックの収束後、誰かが会社のビルの一角の水にウイルスを混入し、その会社だけがゾンビウイルスに侵されてしまう。そのゾンビウイルスは怒りを解放するウイルスで、意識はちゃんとあるのに、理性がなくなってしまい、部下が上司を殺しに行くという話です(笑)。

山下 確かに今は、テンプレすぎるとつまらないというのもあるのでしょうね。

宿輪 確かにゾンビ映画は全部出切ったようなところがある。最後は木になっていくというものがありましたね。

岡本 『ディストピア パンドラの少女』(2016年、英)という作品です。あれも斬新なゾンビですよね。

この映画はウイルスではなく菌類という設定なのです。タイワンアリタケという、実在するキノコ類ですが、寄生してアリを操作する。これは本当にこの世の中にあるもので、アリの体の中に入って行動を操ることで増えていきます。それが人間に寄生するようになったという設定です。だから最後は木になるんです。生態系みたいなものを考えていて、すごく面白い。

ジャンルから要素へ

岡本 最近は、ゾンビに変異するのがムチャクチャ速いんですよ。まれたら10数秒とかでなってしまう。

宿輪 昔はまれて死んでから、「起き上がったら撃て」だった。

山下 牧歌的ですよね。今から考えると。

岡本 『バイオハザード』は、「あまりうまく調整できていない生物兵器」という設定でゾンビが出てきてしまったので、シリーズが進んでいくごとに調整されて、だんだんゾンビっぽくなくなっていきますね。

山下 空を飛んだり、何か普通の化け物みたい(笑)。ゲームのためにいろいろなバリエーションを作っていったのでしょうね。それが映画に移植されることで、いろいろなバリエーションのゾンビが出てきたのでしょう。

宿輪 ゲーム特有のステージというのが意識されていません? ここを突破すれば次のステージに行けると。

岡本 そうですね。ゾンビはたぶん、いろいろなものと合体しやすい。とりあえず何でもくっ付けられるという緩さがあります。

山下 1つのジャンルが拡散していく時に、ジャンルではなくて要素になっていくというのは、いろいろなところで起こる現象ですね。かつてのSF映画は「SF映画とはこういうもの」というコアな形があったのに、一般に受け入れられるに従って、SFはただの要素になって、様々なバリエーションが出てきた。それとおそらく同じ現象です。だから、ゾンビで恋愛とか、ゾンビで歴史物とか、何でもできる。

岡本 確かにそうですね。個々の作品がまずあって、それで集合的なイメージが皆の中に何となく成熟してくると、「じゃあ、これはもう要素として扱って大丈夫だよね」という段階が出てくるということですね。

山下 かつてだったら「ゾンビってこういうもの」と説明しながら話が進んでいったのが、もう皆わかっているんですね。こういう前提で作られるコンテンツがすごく増えている。

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