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【三人閑談】
"ゾンビ"がやってきた!

2020/03/25

  • 岡本 健(おかもと たけし)

    近畿大学総合社会学部社会・マスメディア系専攻准教授。専門は観光学、コンテンツツーリズム学。2012年北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士後期課程修了。著書に『ゾンビ学』『巡礼ビジネス』等。

  • 宿輪 純一(しゅくわ じゅんいち)

    帝京大学経済学部教授。博士(経済学)。映画評論家、宿輪ゼミ代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱UFJ銀行を経て現職。専門は経済・金融・映画評論。著書に『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』等。

  • 山下 一夫(やました かずお)

    慶應義塾大学理工学部准教授[外国語・総合教育教室]。1999年慶應義塾大学大学院文学研究科中国文学専攻単位取得退学。専門は中国文学、中国宗教、中国現代文化。訳書に『全訳封神演義』(共訳)等。

B級からハリウッドへ

岡本 私がゾンビを研究し始めたのは大学の学部時代です。中国文学の先生の教養科目で香港武侠映画の授業があって、そのレポート課題が作品を見て分析せよ、というものでした。レンタルビデオショップに行き、B級アクション映画の棚を見ていますと、隣の棚がホラーのコーナーで、視界の端にちらつくわけです、ゾンビの顔が(笑)。

実は今でもそうですけど、私はあまり怖い映画は得意ではなくて。

宿輪 そうなんですか(笑)。

岡本 だから、当時はゾンビ映画は見たことがなく、死体が蘇って人を喰ってワー! キャー! みたいな話が何でこんなに数があるのか、と不思議に思ったんです。試しに1つ借りて見たら、まあ、低予算でひどい映画でした(笑)。でも逆に謎が深まったのです。何でこんなものがこれほどたくさん撮られ、誰が見ているのだろうかと。

いろいろ見始めますと、結構、質のいいゾンビ映画もあって、社会問題を考えたようなものにも出合うようになり、宝探し的に楽しんでいました。まさか研究書を書くようになるとは思いませんでしたが(笑)。

宿輪 私は映画評論家ですが、1979年ぐらいから映画を大量に見始めたのです。ちょうどそのころ『ハロウィン』(1978年、米)とか、ダサいホラー映画が出始めた時期で、その中の1つとしてゾンビ物もあった。ジョージ・A・ロメロ監督の3部作(『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』『死霊のえじき』)が有名ですが、その後、おっしゃられた通り、B級映画が続くわけです。

そうしたらマイケル・ジャクソンの「スリラー」(1982年)のミュージックビデオにゾンビが登場して話題になった。その後、香港で『霊幻道士』(1985年)をサモ・ハン・キンポーが出し、2000年代になると『28日後…』(2002年、英)という、走るゾンビというなかなか衝撃的なものが出る。

山下 走りましたよね。

宿輪 このへんから変わってきましたね。映画『バイオハザード』の最初の作品も同じ年に出た。これはゲームソフトから派生したもので、ハリウッドが莫大な予算で制作し、一気にメジャーになった感がありました。

『バイオハザード』(2002~2016年)は6作出ました。そのあと『アイ・アム・レジェンド』(2007年、米)で、ウィル・スミスが主演でした。『ゾンビランド』(2009年、米)はホラーコメディーっぽくて、『ワールド・ウォーZ』(2013年、米)ではブラッド・ピットも主演するなど続々とゾンビ映画が公開されました。日本でも『カメラを止めるな!』(2018年)は基本はゾンビの話です。

『バイオハザード』という転換

山下 2000年代からのゾンビ映画を語る上では『バイオハザード』はやはり大きかったですよね。

宿輪 あれはゲームから出てきて、ソニー・ピクチャーズ(コロンビア)がドーンと予算を付けてミラ・ジョヴォヴィッチが主演のハリウッドの王道的なつくりでした。

岡本 ゲームは1996年でしたね。やはりそれがヒットしたというのが大きい。いったん日本を迂回して、ゾンビブームがまたアメリカに帰っていったという感じですよね。

山下 ゲームはアメリカでもよく売れたらしいです。やはり「死体だから殺しても大丈夫」ということがあったようです。

また、いわゆる不気味の谷というか、描画能力が上がってリアルになり、人間そっくりにはできないけどゾンビだったらいける、という技術的な制約があったのではないかと思うんです。

岡本 ぎこちない動きですね。最近のゲームだと、たくさんのゾンビがワーッと出てくるオープンワールド式のゲームが多いです。ネットワークでつながって4、5人のプレイヤーが一緒に戦うという、まさにゾンビ映画の世界を体感できるようなゲームもあります。

宿輪 映画『バイオハザード』は、アメリカ映画の枠組みにゾンビを入れたという感じですよね。大体悪いことをするのは製薬会社で、国家的な陰謀と結び付いている(笑)。

山下 こういう時間割りで映画を撮ると一般受けするというハリウッド文法が90年代の終わりから2010年代の頭にかなり進化し、それを反映したのが『バイオハザード』なのかなと思うんです。

宿輪 最近、私は作るほうに回っていて、ドラマの監修や脚本をやっているんですが、アメリカの脚本というのは決まっているんです。最初の15分で登場人物を皆出して、次の15分で事件が起こり、30分でそれが悪化し、次で皆、悩んで、最後の10分で終わって皆、幸せと。

山下 いわゆるハリウッド文法ですね。

宿輪 だから、これを外れるタランティーノなんかは型破りということになるわけですよね。その型にはまった普通のハリウッドの映画のパターンで、だいたい主人公は生き延び、親しい友人が悲惨な死を遂げる。

なぜか主人公はほとんど無傷なんです。『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチだって、ほぼ裸で走っていてなんで傷が付かないんだみたいな。その辺はまあご都合で、まさにゾンビもご都合で作れるから、それにはまりやすいですよね。

山下 あとはやはりCG技術の進化ですね。おそらく、CGですごい映像を見せるという技術とハリウッド文法の進化が合流したところで、ちょうど『バイオハザード』が出てきたのではないでしょうか。

宿輪 90年代から脚本が足りなくて、リメイクばかりになってしまっていた。とにかく新しいネタをどんどん入れろと2000年代はいろいろな種類の映画が出てきましたが、ゾンビ物もその1つでしょうね。

岡本 CGで言うと、『ワールド・ウォーZ』がすごかったです。波みたいにゾンビがワーッと襲ってくるという。

山下 あれは鳥肌が立ちましたね。

岡本 CGだからこその動きの違和感。映像表現とゾンビの存在がうまく合っていた感じがありました。

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