【三人閑談】
新・駅弁の愉しみ
2019/12/25
時代に合わせた変化
今井 今の釜めしは紙容器のものが出ているのですよね。
高見澤 パルプモールドというとても軽い容器です。なんでこれを作ったかというと、特に女性の方の意見で、陶器が重い、持ち運びが嫌だ、という意見が多かった。
群馬や長野で売る分には問題ないんですが、イベント出店のときに持って帰るのが嫌だから「釜めし」を買いたくない、というお客さまの声や、バス旅行の方から、バスの中で召し上がった方が陶器を捨てづらいという意見あって、作ったんですね。
「もはや釜めしじゃないだろう」というお叱りも受けるんですけど、お客さまの声を元に「釜めし」が作られたのだから、やはりそのような声があれば、と作ったのです。
素材は単なる紙ではなく、竹の皮やサトウキビの搾りかすなんかの産業廃棄物を再利用して環境に配慮していて、2013年にグッドデザイン賞も受賞しました。
野並 陶器のものもまだ売っているんですよね。
高見澤 はい、売っています。ですが、都内は圧倒的にパルプモールド容器のほうが売れますね。これはお客さまの層によって、全然、選ばれ方が違う。男性は圧倒的に陶器ですが、女性は紙容器なんですよね。
今井 私もこっち(紙)がいいと思っちゃいます。
高見澤 やっぱり実用的な感覚なんでしょうね。
私自身は陶器のほうがおいしく感じますね。多分、食べることに対して五感で感じているんでしょうね。中身は全く変えていないのですが。
野並 でも数としては紙のほうが出ているんですね。
高見澤 いや、全体としてはまだ陶器のほうが多いです。
野並 うちは経木という木の部分は変えていませんが、上のパッケージに書いてある横浜の風景は、時代に合わせて少しずつ変わってきています。
経木という、木の容器を使い続けるのは、やはりおいしさへのこだわりといったところです。冷めてもおいしい状態を作るには、そういった投資も必要だと思っています。
シウマイ弁当の中身も実は、長い年月ではちょっと変わってきているところもあるんです。一時期、アンズの代わりにサクランボという時代もありました。鶏のから揚げがエビフライだったり。ただ、やはり今の形が、一番、親しまれていると思いますので、そこは変えずにやっていこうと思っています。
高見澤 「釜めし」を正式に販売開始してから変わったのが、実はうずらの卵とグリンピースなんです。
うずらの卵以前は色合い的に錦糸卵を入れていたんですね。でも、卵は時間が経つと菌の繁殖が出てくるので、駅弁大会などに出店する際に問題があって、うずらの卵に変わったんです。
グリンピースは昔はサヤエンドウを使っていたんですけど、こちらも色合いとして使っていたのですが、使い勝手のよいグリンピースに変えました。他は食材の産地は変わっていますが、基本的には味付けとか中身自体は変わっていませんね。
バリエーションや派生商品
野並 「いかめし」の中身は変えたりしないんですか。
今井 今、「何を変えた」ってうらやましい、と思って聞いていました(笑)。
高見澤 バリエーションとかもないんですか。
今井 京王百貨店でやるときに、中にホタテの貝柱を入れた「ホタテいかめし、限定50個」とかやりますが、そのぐらいです。
スペース的な問題もあって、基本、何も変わらないんですね。
野並 そうすると、「いかめし」とは、違う商品を派生させていく感じですね。
今井 今、「いかめしコロッケ」というのをやっていて、それが結構人気です。「いかめし」より人気かもしれない(笑)。
男爵いもの中にイカもご飯も入っていて、味付けがいかめしのタレを使っているので、ソースもいらずに、食べたらそのままいかめしをコロッケで味わえる。海外でもそっちのほうが人気なんです。代々木公園のフェスでも行列ができます。
高見澤 「いかめし」自体を揚げるわけではないんですね。
今井 そうなんです。男爵いもの普通のコロッケの味付けが「いかめし風」で、お米もちょっと入っていて、イカが中にゴロゴロ入っている。
高見澤 「いかめし」に衣をつけて揚げてもおいしそうですけどね。
今井 よく「いかめしが揚がっているんですか」って聞かれるんですよ。新商品は、もっと私の時代で作りたいとは思っています。
高見澤 弊社も、「釜めしは変えちゃいけない」いうことでやっていたのですが、私の代になってから、実はいろいろなバリエーションを作り始めたんです。
例えば秋のシーズン、一番高いのがGINZA SIXで提供している6660円の松茸釜めしです。これは国産松茸が1.5から2本入っていますから、実はお得なんですよ。
野並 それはすごいですね。
高見澤 1個、2個、予約で売っている感じです。あとは特別の釜にしたりとか、多少バージョンの違うものも出しています。
野並 最近は、「コト消費」だ、みたいな感じで、何かの出来事に合わせて商品を作っていますね。
例えば、2017年にラグビーの日本代表堀江翔太選手が崎陽軒が好きで、もっとたくさん食べたいとおっしゃったので、1.5倍にした「メガシウマイ弁当」というものを作って売り出しました。これをこのラグビーワールドカップの開催期間限定で販売しています
シウマイ弁当の中身だけは変えるなと言っています。パッケージについても、シウマイ弁当の掛け紙を変えたいというお申し出があるのですが変えていません。他のお弁当で、この弁当だったらそういう遊びができますよと、いうものを提案するような形ですね。
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