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【三人閑談】
新・駅弁の愉しみ

2019/12/25

人気の「ひょうちゃん」

野並 最近、いじくりまくっているのは、やはり「ひょうちゃん」です。あれは本当に偶然の賜物といいますか。単なるのっぺらぼうのしょう油入れだったのを、昭和30(1955)年、漫画家・横山隆一さんが「目鼻をつけてあげよう」ということで誕生したんです。

今井 たくさん種類がありますよね。

野並 サイズは大小2種類ですが、通常バージョンで、いろは四十八文字にちなんで48種類あります。

最近、やはりコラボで、あれをいじくりたいというオファーをいただくことが多いのです。直近では地元の横浜F・マリノスさんとやらせていただいたり、昨年は創立110周年だったので、110番ということで、神奈川県警とコラボして警察の制服を着せた「ポリスひょうちゃん」を作りました。

2015年に60歳を迎えたんです。そのとき、赤いちゃんちゃんこを着たひょうちゃんを作り、それだけだとつまらないから、金色のひょうちゃんも作りました。さすがにちょっとお金がかかるので、全部には入れられず、一番売れている売店でその日1日に入ってくるシウマイを全部買っても当たらないぐらいの割合で入れました。でも、お客さまの中には、当たるまで買って食い続けるぞという方がいたり。

今井 いかめしの掛け紙のデザインはずっと変えてないです。中身の大きさも変えていません。よく「小さくなったね」と言われるんですけど、あなたが成長しただけですよって(笑)。

「絶対に変えない」と父からもずっと言われています。見た目はお腹にたまらなさそうですけど、食べたらお腹がいっぱいになる、というのがうちの売りで、このサイズにぎっしり入っている。

サイズも、パッケージもこれからも変えるつもりはないです。古くさい見た目なんですが、でも逆にレトロでかわいい、と若い人たちには思われているようで。

今、私はバスケットボールのレポーターもやっているので、最近はバスケの会場で売らせてもらっています。そうすると、バスケを見に来ている何千人の方が一気に来てくれる。そういった今までやってこなかった場所で広めていきたいですね。

今回のラグビーが盛り上がっているみたいに、やっぱりスポーツって強いです。バスケ観戦といえば「いかめし」、というのが根付けばいいなと密かに願っています。

職人の微妙な味の違い

高見澤 「いかめし」を作っているのは森駅1カ所だけなんですか。

今井 全部、実演販売なんですよ。物産展でもその都度、職人が行って、その場で生のイカからお米を詰めて作っています。

その職人さんたちが将来いなくなるという問題もあるんです。今、20人ぐらい職人さんがいますが、その方たちが全国に出かけて作っています。半年ぐらい、家に帰れないんですよ。一番若くて40代で、60代が当たり前です。

みんな意地も根性もあるおばさんたちばかりです。その人たちがいなくなったらどうしようというのが今の一番の悩みです。

味付けもその場で職人がやっているので、今回は甘かったとか、しょっぱかったということもある。でも、「その人の味だよ」と、家庭料理みたいに、毎回、味が違うというところが、飽きがこなくていいのかなと思っているんです。「いかめし」ファンから、「あそこの人の味が好き」と言ってくれる人もいます。

高見澤 弊社も一応、レシピは確立されているんですけど、職人の人たちはレシピを見ずに自分たちの感覚で作っている。私も横川にいるときは、毎朝、試食をするんですが、人によってやっぱり味付けが微妙に違うんです。でもある程度、平均値に収まっていればオッケーとしています。

そういう変化に気付いてくれる方もたまにいらっしゃるんです。横川と諏訪店に工場があるんですが、「諏訪店は味が違うね」と言っていただくとドキッとしますが、逆にうれしい部分もありますね。

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