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【三人閑談】
新・駅弁の愉しみ

2019/12/25

激変する環境に対応

高見澤 弊社の場合、何といっても、平成9(1997)年、長野新幹線(現北陸新幹線)の開業により、信越本線の横川・軽井沢間が廃止されたことが大きなことでした。これによって駅の売り上げは99.9%がなくなったんです。

弊社はそれ以前からドライブイン営業などをやっていて、車で旅をする方たちに提供していたので、何とか生き残ることができた。ですから、今は駅弁というよりは、旅を楽しむためのお弁当という捉え方をしています。

当初は主に群馬、長野を中心に展開していたのですが、最近は都内でも販売箇所を設けたり、駅弁大会で販売させていただいたり、日常と非日常の間にどう存在するかということを常に考えています。

日常の生活の中でもたまに違うものが食べたい、という旅行に行くような特別な感覚が得られるようなものを提供して、駅弁を楽しんでいただければと思うのです。

野並 うちも、危機感という点では似ています。昔は駅の構内営業という形で国鉄から権利をもらってやっていたのですが、昭和9(1934)年に、国鉄さんが駅の構内で販売する子会社をつくりました。そこで、「どうしよう」ということで、その後、駅に付随した、百貨店やショッピングセンターに店を出させてもらったのですね。

構内営業という改札の中の商売から改札の外に飛び出して行ったんです。危機を、うまくチャンスに変えられたというところがあります。

今井 うちは、東京駅の「駅弁屋 祭」というスポットには出しているんですが、やはり百貨店さんの物産展での販売がメインになっています。実際、今では森駅では1日に10個でも売れているのかなというところです。でも、毎日出さないと商標が取られてしまうので(笑)。

そのぐらい駅で買うことがなくなってしまった時代です。20代の友達とかはほとんど駅弁かどうかなど気にしていないと思います。私は小さいときから遊び感覚で駅弁を売っていたんですけど。

野並 いくつくらいからですか?

今井 8歳くらいです。そのとき、駅で、1分くらいの停車のあいだに大勢の人が降りてきて、買える人だけ買うという光景が今でも印象に残っています。それが今は、夏だけ高校生のアルバイトを使ってやっていて、年中見られた昔の光景はもうなくなっているんです。

百貨店に来る方は年配の方が多いので、そういう方はよく立ち止まって、森駅の昔話をしてくれるんですが、私は聞いても全然分からない(笑)。

高見澤 確かに百貨店で、「昔、横川でああだった、こうだった」という話を本当に楽しくお話をされる方がいらっしゃいますね。

弊社もやはり信越線の横川・軽井沢間がなくなった後の世代への浸透度が非常に低い。これをどうにかしなくてはいけないと、今、いろいろやっていますが、その代表がローソンさんとの提携です。おにぎり弁当などで、「峠のかまめし本舗 おぎのや監修」という形で、名前を知っていただいています。

2017年からはGINZA SIXに出させていただいています。外国の方にも目につくような、駅弁文化として、こういった旅の楽しみが存在するということを積極的にアピールしているところです。外国の方は、あの釜が面白いのか必ず持って帰られますね。

野並 うちの商圏は一都四県、南関東首都圏一帯といったところで、「横浜」と言い続けられそうな範囲でやっています。

外国の方は、「冷めてもおいしい」ことに価値をおいてないんですよね。爆買いされる方々がブワーッとバスでお店に来て、ペタペタ触るわけです。「これ、温かいのかな」みたいな。「なんだ、温かくないのか」という感じで次のお店に行く(笑)。

そのときは、温かくしておいしいものを売らなければいけないのかな、と思ったんです。でも、お寿司だって「生魚を食うなんて大丈夫なのか」と言われていたものが、世界中で文化として今は広がっている。

そう考えると、これだけ多くの外国の方がいらしているので、「冷めてもおいしい弁当」というのが日本文化なんだ、と理解していただければ、きっと広まっていくのではないかと思っています。

普及のための様々な工夫

今井 最近、シンガポールに行ったのですが、やはり東南アジアの人のほうが、「いかめし」の味付けには少し親しみがあるようですね。

私はヨーロッパに行こうよ、と言っているんですが、やはりイカとかタコを毛嫌いして、それこそ揚げたカラマリ(イカフライ)とかじゃないと食べないようです。「いかめし」は、海外の人からすると、イカそのままの形なのでグロテスクと思われるらしい(笑)。

「釜めし」みたいに「うわー、ジャパニーズだ」ってならないんですよね。お弁当らしさもないですし。だから、日本に昔からある駅弁として海外の人に広めていくのとは、またちょっと違う作戦でやらなければと私は思っています。

野並 どのようなことを考えられているんですか。

今井 やっぱり若い世代には、SNSが一番影響力があるんです。それと、私自身、テレビ、雑誌とメディアに出られるものは拒まず出ています。

やっぱりメディアの力は大きいと思うので、そこをもっとSNSを通して発信していきたい。それこそ海外の方も見ています。そこは私の使命だと思っています。

野並 うちはコマーシャルの、「おいしいシウマイ 崎陽軒」というメロディを知っていただいているのは大きいなと思っています。

基本的には広告費を使うのではなく、いろいろなメディアに取り上げられるようにする、というスタンスです。最近、一番、話題性があったのは「シウマイ弁当の食べ方の順番をこだわる」というもの。あと直営のレストランで大きなシウマイをカットする、「ジャンボシウマイカット」というのをやっているのですが、これらが、メディアに取り上げていただいていますね。

高見澤 弊社も昔から、広告宣伝に使う金があったら衛生環境構築のためにお金を使えということで、積極的な広告宣伝は打っていません。

ただ、やはり今の時代、取り上げてもらわないと忘れられてしまう。圧倒的な情報量の中で存在感を示していくために、いろいろなものとのコラボレーションを進めています。

話題になったのは、『頭文字(イニシャル)D』という、群馬県を舞台にした、しげの秀一さんの峠を走る車の漫画とのコラボです。いわゆる走り屋の話ですが、実名で弊社が出てくるんですよ。作者の方が非常に弊社の「釜めし」を気に入ってくれているということで、「釜めし」の掛け紙を『頭文字D』の漫画にした特別バージョンを作ったんです。

そうするとやはりファンの方はそれを求めて来られる。それが話題になって、釜めしは今、1080円ですが、この掛け紙1つが3000円、4000円でネット上で取引されている。完全に鉄道から離れていますが(笑)。

今井 そうですね。

高見澤 一方、鉄道関連では、今年、横川・軽井沢間が廃止されてできた「碓氷峠鉄道文化むら」が開園20周年を迎えたことを記念して、碓氷峠を舞台としたライトノベル作品「碓氷と彼女とロクサンの。」のキャラクターを起用したオリジナルデザイン掛け紙が販売されました。これも、一部のマニアの方が求めて来られるんですね。

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