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【三人閑談】
海賊が世界をめぐる

2019/09/02

海賊が表象するもの

桃井 海は、21世紀には完全に管理されるものとなってしまいましたが、現代で言えばサイバー空間みたいなところが、海賊的なものが生まれやすいのかなと思います。

既存秩序に対して、ハッカ—などがサイバー空間で海賊的行為をしているのかなと。

伊藤 なるほど。『攻殻機動隊』の世界ですね。

桃井 もちろん、現代でも管理されていない海域では海賊が出現します。ソマリア海賊が有名ですが、ソマリアは、いわゆる破綻国家で、通常は国家が取り締まるべき海賊を取り締まれていない。

漁船に自動小銃や迫撃砲を積んでタンカーに迫り、停止したタンカーに乗り込んで船員を連れ去るんですね。主権国家体制の下で暴力が国家管理された近代では理論上は生まれ得ない海賊が、政治秩序の「ほころび」から生まれています。

太田 マラッカ海峡、フィリピン、インドネシア、マレーシア辺りの境界でもまだ出ます。

取り締まれないのは、地方ボスが海賊と絡んでいるからです。そして襲撃するのは本当に漁船なのですね。だから彼らはすぐに隠れてしまうこともできるし、漁船だと言い張ることもできる。

これだけ貧富の格差があって、貧しい漁民たちの前を豊かな積載物を積んでいく船がある以上は、なかなか完全に取り締まることは難しいのかなという気がします。

伊藤 そうですね。想像の世界の中では、海賊というものを美化し、イメージすることはいくらでもできる。人間の想像力というのはどこまでも広がるので、将来宇宙に人々が進出していけば、そこに海賊のようなものは生まれるのかなとも思います。

そうすると、地中海で何度も何度も海賊が生まれ、包摂されては排除されていったように、今後も、人間がどこか未知の領域に行くたびに、海賊というものはなくならないということでしょうか。

桃井 海賊にとっては、ここまで海がくまなく管理されてしまったのは歴史上初めてなので、今までとは違う状況なのは間違いないでしょうね。

伊藤 文学の世界で、海賊というものを悪漢として常に「魅力ある敵」であると描く1つの典型が、『ピーター・パン』に出てくるキャプテン・フック(フック船長)です。

あれはディズニー映画で有名になりましたが、子供たちが冒険をしたいといった島に海賊がいるということは、つまり、自分たちが倒すべき敵というものを想定しないと物語は面白くないということです。

でも、そういった存在がいれば、誘拐されたり被害を受ける。そういったものを常に人間は求めているということは、客観的かつ冷静に認めなければいけないのかなと。

それがある意味で、海賊というものが持っている本質に近いものかもしれないと思います。魅力はあるけれど、敵であることには変わりがないと。

桃井 そうですね。現実的な存在としての海賊は衰退しても、海賊の物語はわれわれを魅了し続けていくのだと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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