三田評論ONLINE

【三人閑談】
慶應ラグビーを語る

2019/06/25

ワールドカップを前に

生島 いよいよワールドカップ日本大会が近づいてきましたね(9月20日開幕)。

廣瀬 もちろん、勝ってもらわないと。ベスト8に行ける可能性はあると思います。あとは、ここからいい準備ができるのかというところ。

正直、メンバーがもう少し固定されていてもいいかなというのはあるんですが、基本的には強くなっていると思いますし、サンウルブズで世界相手にずっと渡り合っている経験もあります。あとは、ホームをどう有利に使うのかというところかなと思います。

前回のイングランド大会では、物理的に遠いので、日本との連絡もあまり取れなかった。でも今回は日本なので、友達ともすぐに連絡を取ってしまえるのでチームメート同士のコミュニケーションが減ったりする。そこがどう転ぶのかなというのはありますね。

生島 情報の遮断ですね。面白いなあ。僕は9月20日までにどうやって応援を増やすかが重要だと思っています。僕はその国のラグビー力というのはファンの力も含んでいると思うからです。

2003年の準決勝で、ニュージーランドとオーストラリアが対戦した時、オールブラックス恒例の「ハカ」を打ち消すように、オーストラリアの人が皆、「ワルチング・マチルダ」を一生懸命に歌っていた。2011年のニュージーランド大会では、小学生が朝の通学路で、ドロップキックの練習をしていた。それを見てすごいな、これはかなわないなと思って。

そのようにラグビーが根づいている部分を見ると、皆で楽しんでジャパンを勝たせるような広報活動はものすごく大事だと思います。とにかくジャパンのファンを増やしていくことが大事です。

廣瀬 慶應からは山田章仁が出ますから。

金沢 前回大会と違い結果を出しているので、たぶん間違いなくどの国も日本をチェックしている。その中で力を発揮するのはすごく大変だと思うので、ぜひ頑張ってほしい。

廣瀬 僕がワールドカップでやっているプロジェクトの一つに「スクラムユニゾン」という、出場国の国歌を覚えよう、というものがあるんです。それを広めていきたいなと。

生島 それはいいですね。いい歌ばかりだからね。

廣瀬 そうなんです。外国では観衆の皆さんがスタンドやパブとかでもよく歌を歌いますし、日本人も歌えたらいいなと。日本はあまり歌を歌うという文化がないんですよね。

生島 イングランドやアイルランドでは、肝心な時に歌う歌もあるんですよね。

イングランドの応援歌は黒人霊歌の「スウィング・ロー」(Swing Low, Sweet Chariot)。日本でもラグビーの歌文化は定着させたいですね。

廣瀬 はい。そういう意味で、この機会に各国の国歌を覚えようというプロジェクトです。

金沢 やっぱりヨーロッパへ行くと違いますよね。スタジアムが震えるというのがこれなんだ、と感じますから。

慶應ラグビーの目指すもの

生島 今年は創部120年の年ですが、慶應にはやはり存在感を発揮してもらわないと困ります。環境は厳しいかもしれないけど、慶應は大学選手権で数年に一度は決勝に進出して、そして少なくとも10年に1、2回は優勝してほしい。これはとても早大OBらしからぬ発言ですが(笑)。

でも、勝つ準備を常にしていれば、チャンスは必ず巡ってきます。実は、去年はチャンスだったんですけどね。

金沢 いや、そうなんです。「来た」と思ったんですけどね。

生島 準決勝では、明治に対して慶應の方が分が良かったでしょうから。

ただ、優勝を狙える位置にいるということがすごく大事で、ちょっとした勝負のあやというのはコントロールできない面もあったりしますが、優勝のための準備をし続けていれば、また歓喜の瞬間が訪れるのではないかと思います。

廣瀬 慶應は「ラグビーしかない」という中でラグビーをやるのではなくて、いろいろなものの中から選択肢を持ってラグビーをやっているところに、生きがいとかカッコよさを持ってやってほしいですね。

そしてやはり、今まであるものを壊して新しいことにチャレンジするのが、僕は慶應らしさかなと思うので、どんどん新しいチャレンジをしてほしいですね。

生島 今の話で思い出しましたが、中嶋章義さんは、学生時代にケガをしているのに三角巾で腕を吊り、学生服で歌舞伎座に芝居を見に行くのが粋だと思っていたと。それを聞いて慶應だなと思いました(笑)。

だから、いろいろな教養を身に付けながらラグビーをやるのが大事なことじゃないかと思うんです。

金沢 慶應ラグビーは、しっかりと「色」を出してほしいと思うのです。勝てたら当然うれしいですけど、「今年の慶應ってこういうラグビーだったよね」と皆の心に残るようなラグビーができたら、そこに誇りも持てる。

ぜひそういうラグビーを期待したいですね。

生島 昨年のチームはフォワード陣がいい味を出していましたよ。4、7、8番がひたすら頑張る。あの懸命な姿が慶應っぽいなと思います。

僕がこれだけ慶應のことが気にかかるのも、『慶応ラグビー 「百年の歓喜」』を書いた時に、いろいろな方との縁をいただいたからです。そのときの縁が今も続いているのは有り難いことで、これはなかなかほかの競技ではないことです。

人とのつながりの中で感じるのは、慶應のOB、そして学生に共通するのは、社会性、ソーシャルスキルが高いことです。84、5年のメンバーのことを本にまとめたいという気持ちが続いているのは、松永主将、日本一の中野忠幸主将、そしてTBSでドラマの演出家になられた福澤克雄さん(旧姓山越。85年優勝時FW)をはじめ魅力のある方が大変多いからです。

日本一の主力メンバーでもある若林俊康さん(86年主将、WTB)の息子さん(若林俊介選手)が、現在慶應でプレーされているのを見ると、ジーンと来てしまいます。

金沢 ソーシャルスキルが高いという評価は、今の学生がつくっているものではないので、それはこれから学生が受け継いでいかなければいけないものだと思います。そうしないと、20年後、30年後に、慶應のラグビーって大したことないよね、と言われてしまうので。

生島 是非慶應らしさを受け継ぎ、新しい面も出していくことを期待しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事