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【三人閑談】
慶應ラグビーを語る

2019/06/25

エディー氏が変えた日本ラグビー

生島 世界的には95年からプロ化が始まり、日本が最初、世界に追いつけなかったのは、企業文化の中のラグビーで戦っていたからでしょう。アマチュアがプロと戦っていたようなものでした。

それをエディーさんがガラッとマインドセットを変えましたね。

廣瀬 そうですね。それこそ日本ラグビーは、「プロ選手には勝てない」、「速い選手、大きい選手には勝てない」と、皆が思っていたんですよね。そこをエディーさんは変えてくれた。

今の日本代表の若い選手は、もう普通に「勝てる」と思ってやっていますよ。

集大成としては、2015年のイングランド大会なんですが、それまでに3年半くらい、いい準備ができたなと思いますね。

金沢 練習方法も、相当変わったんでしょう。

廣瀬 例えば練習の1日の組み立て方も、今までは2部練で、午前、午後の区別だけでしたけれど、最初の合宿は4部練で、5時半、10時半、2時半、6時スタートと1日4回練習がある。

1回の練習時間はギュッと短縮されて1時間とか45分なんですが、その代わり質をとにかく上げる。長くてゆっくりやる練習より、短く集中して練習をし、いい習慣を身に付けるというのがエディーさんのアイデアでした。最初は1日がメッチャ長く感じました(笑)。

しかも、朝の9時に「スリープ」が入っているんです。

生島 朝寝の強要(笑)。これにはみんな戸惑っていましたよね。

廣瀬 そう。でも、栄養とトレーニングとリカバリーをすごくバランスよく考えるのがエディーさんだったのです。それで、ケガをしなくなるという。

佐渡のお米で体つきが変わった

金沢 エディーさんはオープンな方なので、練習方法なども、ネットですぐわかるんですよ。

でも、大学ラグビーでそれをどのように使うかというのはすごく難しい。コーチの手腕というのはそこかなと思います。皆、同じ知識は持っているけど、各人にどのようにアプローチしていくのか。ジャパンで上手くいっても、慶應で同じ反応が起こるとは限らないので。

生島 慶應は、やはり仕組みで何とかしようというところが感じられますよね。OB組織の一般社団法人化(一般社団法人慶應ラグビー倶楽部、2018年設立)という非常に画期的なことにも挑んだ。また企業との連携にも他の大学と比べて非常に前向きですよね。

例えば、私もイベントのお手伝いさせていただいた佐渡のお米プロジェクト。合宿所にJA佐渡から佐渡米の提供を受けたんですね。学生たちは食べ盛りですから、そのご飯代もバカにならない。そこで自治体や企業との連携を図るところが慶應らしい。そういったバックアップ体制は非常に先進的だと思いますね。

金沢 慶應のチームはすごく走るんで皆ガリガリだったんです。そこに帝京大学という強力なチームが出てきて、フィジカルの強さが重要だということが、大学ラグビーの中で当たり前になった。「帝京に勝つためには体をまず大きくしないといけない」と、栄養士さんに来てもらったりしたんですが、全然効果が出ないんですよ。

結局、寮で食べていたのは練習後の夕飯だけだったんですね。そうすると、一食しか管理ができない。まず朝飯を食べない。昼はお金がないからコンビニ、夜だけ寮でちゃんと食べますみたいなことになる。

それでは全然だめですから、全部寮で出して管理しようとなった。すると、今度はお米が足りないので佐渡市にご協力をお願いしたわけです。この何年かでだいぶ慶應の選手も体つきが変わってきましたね。

生島 とにかく、どの大学も帝京に勝とうと、この10年やってきた。方向としてはあるべき方向に慶應は進んだと思います。ピッチの上だけではない、いろいろな戦いがありますよね。

それと、私が慶應が羨ましいなと思うのは、部員が一般学生と一緒に勉強する機会が多いことです。早稲田の学生の応援が少なくなったのは、スポーツ科学部がある埼玉県所沢のキャンパスができて、本部キャンパスに通う体育会の学生が少なくなったのが一因です。一般学生と体育会の学生の交流がなくなってしまうのは寂しい。慶應はその点、恵まれているので、これは生かしてほしいと思います。

加えて中等部、普通部、塾高、志木高、SFC中高からのクラスメートが出るとなれば応援も増えるでしょう。ラグビーが慶應の花形スポーツでいるためには、もちろん優勝を争っていないといけないとは思いますが。

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