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【三人閑談】
慶應ラグビーを語る

2019/06/25

大学ラグビーの本質

生島 ただし、優勝を目指すとなると、重要なのはリクルーティングなんです。大変ですよ、帝京大や東海大と渡り合うのは。各大学の入試の仕組み、そして入学後のバックアップ体制にも差がありますから。

金沢 決定時期もどんどん早くなっているみたいですね。

生島 慶應は、その中でよく戦っていると本当に思います。指導陣の苦労がしのばれます。わずかなエッジが優勝につながりますから。上田さんは、そのわずかな先行者利益をつくるのがすごく上手な方だった。

今、情報が溢れている中で、どういうふうにエッジを出していくか。それはリクルーティングだけでなく、仕組みやプレー・スタイルも同様です。慶應にはプレーは泥臭く、戦略はスマートに勝ってほしいんです。

廣瀬 慶應の選手は頭は良いと思いますよ。山田章仁(2007年卒、日本代表)もそうですけど、自分がこうやって活躍するんだというイメージを持っている。全体を見て、このメンバーの中で、自分はどういう役割を持って貢献していくんだと、自分の立ち位置を決められるのが慶應出身の代表選手かなと思います。

生島 僕は去年の慶應のチームの古田京キャプテン(医学部)の記者会見での対応を見ていて、大学ラグビーは勝つだけではないな、と本当に思いましたよ。古田キャプテンはこの一年間ですごく成長しましたね。

金沢 そうですね。下級生の時とは全然違いますね。

生島 やはり大学のラグビーというのは、そういう人間教育の場だとも僕は思っているんです。いい人材を輩出なさったなと思いましたね。

でも昨季の最後の試合(大学選手権準々決勝早稲田戦、19−20で惜敗)に負けた後、それを受け止めるのは、学生ではなかなか難しいと思いますね。

金沢 いや、そうですね。でも、一番受け止められなかったのは古田ですね。やっぱり、それだけ賭けていたものがあったのだと思います。表立っては絶対に言いませんが、心の中では相当苦しかったみたいですね。そんなこともラグビーの理不尽さなのかもしれないですけど。

廣瀬 そうですね。

金沢 4年間のヘッドコーチをしたなかで、「やはり慶應ラグビーはこうあるべきだ」ということは、常に選手には話しかけていました。上からというよりは、できるだけ選手に考えさせるようにはしていましたね。

例えば「慶應の伝統」って何かということを全員に考えて話してもらう。それは一体何なのかと。そういうことを考えさせることで、彼らも120年続いている、ということを感じ取って誇りに思ってくれたらいいなと思ったんですね。

今は大学のチームがゴミ拾いをやってFacebookに上げたりするのが流行りです。でも、そんなことはサラッとできるのがカッコいいなと思う。そういうことが選手に染みついてほしい。

その中で古田はリーダーシップを発揮しながら、より考えなければいけない立場だったので、生島さんから褒めていただいたような行動ができるようになったのかと思うんです。僕は何もしていないですけどね。

生島 いやいや、コーチ陣の指導があったからですよ。でも、お二人のように卒業後もラグビーに関わっている人が多くなりましたね。高田晋作氏(99年度主将、FW。現三菱地所)も、ビジネスとラグビーを結びつけている。

廣瀬 はい。たしかに。

金沢 そうなんですよね。面白いのは、レベルはトップではなくても、いろいろなところで、ラグビーをやっているんです。根本は皆、すごく好きなんだなと思います。

リーダーシップのスタイル 

廣瀬 慶應は、リーダーシップという意味では各部員のモチベーションの幅が広いので難しかったですね。帝京や東海はラグビーをやりに来ているので、そこで活躍しないと次の世界は見えてこない。でも慶應は、別にラグビーを頑張らなくても、いい会社に就職できるから、正直、ラグビーに重きをおいていない人もいる。

その人たちを1つにするところがすごく難しかったですし、いまだにその答えは僕の中では出ていない気がします。

生島 昔は監督がウィークエンドだから、キャプテンがチームの中心でしたからね。それもまた、今は変わってきていますが。

金沢 例えば、何かをやるときに、それは、「ヘッドコーチの意思」と選手が受け取るのか、ヘッドコーチが導いていても、「自分たちがそれを決めたんだ」と思ってやるのかで違うんです。

キャプテンやリーダー陣と話すことはすごく重要視していましたね。絶対に譲れないところは譲りませんが、譲れるところはできるだけ選手から言わせるようにしていました。結局、自分たちから発したと思ってやるほうが、彼らもモチベーションと責任を持つからです。

生島 今のコーチは、そうした「ヒューマンスキル」が求められます。例えば、エディーさんはものすごいリーダーシップを持っていると思いますが、実はすごく責任を分割していた。選手に任せるところもあるし。

廣瀬 コーチもスペシャリストが多かったですね。最初の2年間、エディーさんの代表チームは僕がキャプテンでしたが、そのときはある程度ベースをつくる時期で、エディーさんからのトップダウンが多かった。改革が必要でしたので。

でも、次にマイケル・リーチがキャプテンになったら、彼はバックグラウンドが全然違うので、いろいろなものを取り入れるようになっていった。そして、最後の最後にエディーさんの言うことを聞かなかったら南アフリカに勝ったんですよね。ラスト・ワンプレーで。

だから、どの時期かによってリーダーシップのスタイルが変わってくるし、キャプテンと監督との関係も変わる。そこは金沢さんも一緒だと思います。

選手に投げられるようになった、というのは組織としての成熟だと思うんですよね。

最初はある程度こういうことをやろうとトップダウンで落としておいて、少しずつ選手に決めさせていく。試合でも監督は上(スタンド)にいますし、現場に委ねている。そこがラグビーの面白いところだと思いますよね。

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