三田評論ONLINE

【三人閑談】
東京タワーを見上げて

2019/04/25

「赤と白」の美

近藤 電波塔としての機能は、2011年にスカイツリーのほうに移ったわけですが、平成から始められたライトアップされたタワーの素晴らしさというのは、東京の夜にはもう欠かせないものになっていますね。そういう意味では、スカイツリーとの比較はあまりわれわれはしないし、東京タワーというのは唯一のものと思います。

三田通りからのタワーも素晴らしいし、酔っぱらってふっと出てきた六本木で、飯倉方面に行こうというときの姿もいい(笑)。

望月 三田通りにとっても東京タワーはもう欠かせないですね。形もそうですが、石井幹子先生がデザインなさった照明によってやはりすごく変わりましたよね。

三田通りの照明についても、前田さんから紹介をいただいて石井先生に講演をお願いしたのですが、石井先生は照明の感じ方によって人の心理が大きく変わるような話もなさっていました。

一方、昼間の赤がまた青空にすごく映える。スカイツリーなんか真っ白じゃないですか。あの色はどこからきたのですか。

前田 あれは全くの偶然で、大展望台から上は赤・白の7等分なのですが、これはある一定の高さ以上の建造物は航空障害の色にしなさいという法律があって、当時は赤白にするのが決まりだったのです。

昔の工場地帯の写真を見ると、煙突がみんな赤白です。ところが、途中で高輝度の航空障害灯といわれる電灯を一番上に立てれば、高い構築物でも色は自由ということになりました。それでスカイツリーもそれを付けることによって赤白でなくても大丈夫になったのです。

近藤 そうなのですね。

前田 その後、塗料の性能が上がって非常に美しい色にできるようになりましたね。また大展望台から下は色は自由なのですが、上部と同じ赤、正確に言うとインターナショナルオレンジという色を60年間、ずっと守り続けたので、それが1つのアイデンティティとして街に馴染んだということだと思います。

だから偶然からなんですが、頑固にフラッシュライトにしないで、あの色を保ったというのが今のアイデンティティになっていると思います。

東京タワーが見える場所

近藤 昔、慶應の図書館のトイレの窓から東京タワーと、当時のうちの社屋が見えたのですが、今はたぶん見えないと思うんです。

望月 途中にビルが多く建ってしまいましたからね。

前田 東京タワーの展望台から三田キャンパスを見ても、だんだん見えにくくなってきましたね。

近藤 私の中等部の同期のコラムニスト泉麻人君がある日、中等部を使って撮影している古い日活映画(『青春前期 青い果実』、1965年)を発見しましてね。梶芽衣子さんがまだ太田雅子という名前の頃の映画なんです。屋上でいろいろなシーンを撮っているんですが、そこにはまるで隣りにあるみたいに東京タワーが出てくるんですね。

綱町パークマンションもありませんし、タワーができて、割とすぐの映画じゃないかと思います。

望月 病院でも、長い間入院している人が、タワーが見えるのでいいなと思っていたら、隣りにビルが建ってしまって全然見えなくなってショックを受けてしまうということもあるようですね。

前田 まわりは病院が多いんですね。済生会とか、慈恵医大とか、最近は山王病院系もありますし、虎の門病院からも見えます。リリー・フランキーの小説『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン』で、オカンが最後に入院していた病室の窓から東京タワーが見えた、という印象的なシーンがありますね。

阿久悠さんも最後に慈恵医大に入院されていたみたいで、週刊誌に人がぞろぞろ東京タワーに行くけどそんなにいいのか、みたいなことを書いていらしたのですが、後で調べたら「大好き東京タワー」という歌も作詞されていたみたいです。

ですから面白いですね。批判しているのかと思ったら大好きだみたいな。不思議なタワーだと感じます。

三田通りと東京タワー

近藤 私は東京タワーに一番近い会社に入社した者として、下からタワーを見上げる景色を毎日見ておりましたが、ちょっと離れた今もなお、いつでもタワーを探してしまうような感じが続いています。

前田 構造物として60年を超えましたが、われわれのミッションは100年を超えていけるような整備・管理をしていくことです。今、大展望台の窓枠、サッシを全部取り替えていて、今年の夏に完成する予定です。

インターナショナルな観光の場になってきていますので、単に景色を見下ろすところではなく、東京タワーに来ていただくことに価値がある、そして東京の街を実感していただくような、何か人生の一場面の記憶にとどめていただけるようなご利用の仕方のサポートをしっかりさせていただきたい。社会的、文化的な機能として、経済的にもインフラとして存続できるように運営したいと思っています。

近藤 エッフェル塔のようにどんどん文化的な価値が高まっていきますね。

前田 エッフェル塔は今年130年を迎えるそうですが、もう、フランスというより世界的な1つの文化の拠点みたいになっている。エッフェル塔は明治20年代にできているのに、塔体のアーチのところにわざわざデザイン性のある飾りを付けていたり、すごいなと思います。

望月 三田商店会としてこれから発展していくには、どうしてもタワーさんの力をお借りしなければできません。

三田通りのカーニバルのときは歩行者天国になるのですが、車道の真ん中から真っ直ぐにタワーがよく見えるんですよね。毎年それを楽しみにしている人もいます。三田の通りが東京タワーを眺めるのに位置的にも非常にいいと思いますので、ぜひご協力をお願いしたいと思っております。

前田 いや、こちらこそ三田通りの一番端に置いておいてください(笑)。

三田通りから望む東京タワー

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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