【三人閑談】
ポーランドと日本
2019/03/25
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山中 誠(やまなか まこと)
日本・ポーランド文化交流協会理事長。慶應義塾大学経済学部卒業。1974年に外務省入省後、アジア局、欧亜局、条約局、国際情報局にて勤務。駐シンガポール大使(2007年~10年)、駐ポーランド共和国大使(2011年~16年)を歴任。
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柴田 恭子(しばた やすこ)
ポーランド・日本情報工科大学日本文化学部専任講師、慶應義塾大学法学部政治学科非常勤講師。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。ポーランド科学アカデミー哲学・社会学研究所博士課程修了、博士(社会学)。
「古い国」ポーランド
柴田 ポーランドには、その歴史にドラマ性があります。現在までポーランド国民の意識に大きな影響を残しているのが、18世紀後半のロシア、プロイセン、オーストリアという列強三国による「ポーランド分割」ですが、それに先立つ15世紀から17世紀にかけて、ポーランド(ポーランド・リトアニア共和国)は中東欧の大国として、かなりの繁栄を誇っていました。
山中 建国は9世紀とか10世紀頃だったと言われていますね。柴田さんがおっしゃった通り、15世紀から17世紀ぐらいがいわば黄金期で、非常に大きな版図のポーランドという国があったと。
柴田 ええ。そこで特徴的だったのは、士族が人口の10%前後を占め、16世紀からは選挙王政という形で、王様を世襲ではなく、自分たちで選んでいたことです。そのように強い自由の意識があり、現在のポーランドでも民主主義、自由の意識が大変重要視されていると思います。
ただ、自由を重要視するあまり、これらの士族が各々結託したり外国に買収されたりして、議会で拒否権を濫用し、列強の干渉を引き起こして分割されてしまった。
関口 「ポーランドとはどういう国か」と聞かれたら、その名前が残っている最も古い国の1つ、という言い方ができると思うんですね。現在の国名ポーランド(ラテン語でポローニア、ポーランド語でポルスカ)のように、中世から国名が現在まで続いている国はそんなに多くはない。
イタリアという国はなかったし、ドイツやオーストリアという国もなかった。現在EUを構成する国の名前で、ポーランドは最も古い国名の1つです。
言語についても、中世のラテン語支配が終わった16世紀から、ルターなんかが一生懸命ドイツ語を普及していきますが、ドイツ語にちょっと遅れて16世紀半ばにはポーランド語文学が完成している。
この「古い」ということは大事なことではないかと思います。セルフイメージが中世から今日まであるのだろうと思います。自分たちがポーランド人だという意識が随分昔からあったのでしょう。
王様がいるのに共和国
山中 私がポーランドで驚いたことは、5月3日が憲法記念日で日本と同じ日だったことです。もっとも、ポーランドでは憲法制定は1791年のことでした。
これは世界史上米国に次いで2番目に古い議会制定憲法なんですね。ですから、非常に歴史のある議会政治の伝統を持っていた。それについては、ポーランドの人も誇りに思っているようです。その頃が、いわゆる第一共和政の時代ということですね。
関口 その終わりですね。
山中 その後、分割の時代を経て1918年の第二次世界大戦終結後、民族自決の原則で、なんとか独立を勝ち取り、そこから始まるのが第二共和政です。その後、第二次世界大戦、ソ連時代の共産主義体制を経て、1989年に冷戦が終わって民主化する。そこから第三共和政が始まります。
関口 第一共和政は、王様がいるのに共和国という。これは珍しいです。ほかには知らないですね。
柴田 王様も選挙で選ぶこの体制は、貴族共和制、士族民主主義とも呼ばれていますね。
関口 選挙で選ぶようになったのがちょうど文章語ポーランド語の自律と同じ16世紀の半ば頃ですね。選挙権は、士族身分を持つ者、日本で言えば武士階級に属していれば誰でも持っている。選ばれる王様も、国籍による制限は一切ない。
ですから、外国人の王様が何人もいます。だいたい最初の選挙で選ばれた王様はフランスから来ている。そんなふうに、面白い一種の議会民主制がかなり早くからあった。
柴田 そうですね。
関口 そして、王様はあまり力がなくて、絶対王政は嫌だと(笑)。人口の10%の士族が皆、一国一城のあるじで、広い荘園を持って、それなりの自由を持ち、群雄割拠している。
王様はたくさんの大名の中の一人に過ぎず、国の常備軍というものもない。その間に絶対的な君主制を目指すフランス、ハプスブルク、ロシアなど周りははどんどん強くなってきて、18世紀末にばらばらにされてしまったわけです。
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関口 時正(せきぐち ときまさ)
東京外国語大学名誉教授。東京大学文学部仏語仏文学科卒。著書に『ポーランドと他者』、訳書に『ショパン全書簡 ポーランド時代』(共訳)、プルス作『人形』(第69回読売文学賞、第4回日本翻訳大賞)など。