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【三人閑談】
"声"のちから

2019/02/25

アナウンスとナレーション

魚住 アナウンサーは最初は「アー」と長音を30秒ぐらい延ばすことで息の使い方を学ぶのです。ワンブレスで長い文章をしゃべって粘りを持たせるためですが、そういう訓練とか、あと単発で「ア」「ア」と声をバンと出す練習をやります。

あとは滑舌ですかね。早口言葉で「外郎(ういろう)売り」の口上を練習する。原稿を読むという、目で見たものを声に出すというのはまた特殊なことですので、初見のものを間違えずに読むという練習もします。

音楽と同じで強弱とか緩急、間を取るという訓練もします。でも、なかなか上手いアナウンサーはいませんけどね。

森山 そうですか(笑)。

魚住 アナウンサーからナレーターになれる人はほとんどいないんです。私は朗読を高校生からやって大会とか出ていたので、ものすごく訓練したんですね。

小さいときからピアノをずっとやっていて、音の流れやメロディが体に入っていたので、それを「読み」に変えていったのですが、アナウンサーからナレーターになる人はあまりいないですね。

森山 おもしろいですね。声優から、アナウンサーにもいけないと言いますよね。

魚住 そうですね。やはり、体が伴わないとナレーションというのは難しいんです。体の動きを音に乗せていくと、聞いている人がワーッと感動してくれたりするんですね。

森山 ナレーションは歌なんですね。

魚住 声優さんはセリフですものね。ト書きの部分もナレーションは読むし、むしろ、そちらの状況説明のほうが多いですから。

森山 同じ声を使う、似ている仕事に見えるけど、全然違うんですね。

合唱の妙味

魚住 ハーモニーのときの声の出し方は独唱のときとは違うものが何かあるのでしょうか。

佐藤 声というのは長い音を出すとビブラートがついてしまうのですが、ハーモニーをつくるときはそのビブラートを少なくするんですね。ただ、まったくなくても上手くハモりにくいので、ある程度余裕のある、お互いが感じ合えるところでつくり合うとハーモニーになりやすい。その加減がすごく難しいです。

あとは、どれだけソルフェージュ力があるか。ソルフェージュというのは楽譜を正しく読んで、正しい音程がとれることです。

ワグネルもそうですが、譜面を初めて見たという人たちが、正しい音程で歌うというのは、すごくハードルが高いことだと思います。楽譜を正しく読めて、自分の音は正しい音程なのかということを体に身につけていくことはすごく大切だし、それができたら音をキープできます。

ソルフェージュ力というのも、「真似」につながるところがあって、ピアノを1回も弾いたことがない人でも、すごく音程がいい人はいます。耳がいいんでしょうね。

森山 あと、合唱がおもしろいのは同じパートを何人もの人で歌いますが、あれはある人の声帯で鳴った音源が隣の人のボディに響くという妙味があるんです。

だから、体の使い方、つまり共鳴体を同じにしてやると、歌がお互いに共鳴してボーンと響いてくる。鳴っているのは一人の体ではないんですよね。

だから、体の使い方がメンバー同士で違う合唱団だと集まって歌ってもお互い助け合えない。

魚住 上手くない合唱団って、音程は合っているのに何か音の質が合っていない感じがしますよね。

森山 逆に一人一人の声が聞こえてきてしまう。上手いところは誰が歌っているか分からなくなって、1つのパートからボーンと一個の人格が聞こえてくる感じで混ざります。

佐藤 全部が一つに共鳴し合っているんですね。

森山 だから、合唱というのは不思議で、一人一人の能力はそんなに高くなくても、体がお互いに響き合えば結構いい音が出てくるんですよね。そこが合唱の門戸の広いところというか、魅力だと思うのです。

佐藤 そうですね。だから、プロの歌手たちが十人集まって歌っても、魅力的な響きになるかというとそうとも限らない。それは声量はあるだろうし、ピッチも正しくとるだろうから、ちゃんとした音にはなるだろうけれど、味があるかというと、そうでもないんですよね。いろいろな声を持った、多様なバックグラウンドのある人が集まって、同じ方向を向いたメソッドで歌ったほうがいい場合があります。

これはオーケストラの場合も同じなんです。

森山 「思い」というレベルですかね。昔、福永陽一郎という指揮者はある練習で「やさしく」としか言わなかったそうです。「やさしく」、また一旦音を止めて「もっとやさしく」(笑)。そうするとピターッと揃って、やさしい音が一つになる。これは「やさしく」というイメージが共有できた瞬間に、みんなの共鳴体が揃って鳴ったのだと思うんです。

魚住 今日はいろいろなお話をいただいて、とても得した気分です(笑)。有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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