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【三人閑談】
"声"のちから

2019/02/25

「いい声」って何だろう?

魚住 発音というのはすごく大事だと思うのですが、一方で皆、「いい声になりたい」と言いますね。でも、いい声って何なのでしょう? 魅力的な声というのはいろいろあると思うのですが。

佐藤 その人のキャラクターとマッチした、人間性が出る声でしょうか。

例えばすごくいかつい・・・・感じをした人が、とても高くてかわいい声だったら、マッチしないので「いい声」とは言われないでしょうね。

魚住 そうか、外見やキャラクターとマッチしていると、「あ、素敵な声だな」となるんですね。

森山 私は「モテ声診断ツールVQチェッカー」というweb上のアプリを2011年に監修したのですが、1200万アクセスを優に超えたんです。それ以来、ラジオとかテレビから「いい声って何ですか」とよく取材されます。

まずはTPOですね。例えばアメ横の店員にとってのいい声は、「いらっしゃい、いらっしゃい」という威勢の良い「だみ声」です。一方、エレベーターガールのように狭い部屋にいる人たちは口元でつぶやくようにやさしく話す。このように状況によって、いい声の物差しが全然違ってきます。

魚住 状況もありますよね。相談事をしているときに、ブワーッと後ろの人まで聞こえるように話す人がいる(笑)。

そういう話し方のコントロールができているかというのもありますね。

森山 また、聞いている人の好みも千差万別ですからね。

魚住 好みというのは難しい。

森山 だから、「いい声」という1つの答えはない。

魚住 歌手の方でも、ワーッと何か心が震えるような声の方がいらっしゃいますよね。

森山 佐藤先生の低音とか。

魚住 そうです。例えばキャラクター的にもぴったりの低音を電話で話されたら、「あ、好き」みたいに思ってしまう(笑)。

森山 だから2つありますね。TPOに左右されるものと、無条件に「なんていい声!」というのと。

魚住 その「無条件にいい声」というのを皆さん、どうすれば出せるのだろうと思っていらっしゃる。

正しい声と話し方

森山 皆さん、理想が高いですよね。いい声というのはやはり才能が左右するところがあります。

でも「正しい声」というのは誰でもできるんです。人間の体の構造はそんなに個体差は大きくないので、息の通り道が大事だということや、最初の文字をはっきり言って、ブレスと声がつながっていることが大事だというポイントを意識すれば、皆、「正しい声」を出すことはできる。

それから、人を説得するような場面では、音楽でいうところのクライマックスが大事です。クライマックスのないしゃべり方はやはり聞いてもらえませんね。

魚住 話し方に山を持ってくるということですか。

森山 そうですね。やはりいい音楽には流れがありますよね。きれいなメロディは、よく3回繰り返すといいます。1回、2回、そして3回目に変化する。「さくら、さくら、やよいのそらは」と。これがリズムよく感じるらしいです。

スピーチでも、よく役職者の方がご挨拶されるときに3つの〇〇と言いますよね。

佐藤 僕も声自体は、健康な声帯であれば、そんなに違いはないと思うのです。やはり共鳴、息をどれだけのいい圧力で出すか。説得力のある政治家などで、その訴えが心に残る声というのは、そういった「圧」が強いような気がします。

加えて声楽家から言うと、鼻腔の共鳴というのは声帯と同じで人それぞれなのですが、共鳴体が大きいほうが、大きなホールで響かせるためのいい響きが得られるし、まろやかな音にはなります。

魚住 体が大きいほうがよいということですね。

佐藤 ええ。響きの部分が大きければ大きいほどいい。日本人女性は小柄なほうなので、世界的に見ると、オペラなどで歌える役もすごく限られてしまいます。例えばスーブレットという快活な若い娘の役とか、レッジェーロ(軽快優美に)しか歌わない役とかを当てられてしまうことが、日本人は多いのです。

若手のバリトンで素晴らしい人がいるのですが、何か僕が思っていた役の音と色が違うなと思ったんです。きちんと役はできるし、歌い通せるキャラクターを持っているのだけれど、彼と話すと、「実は、昔はテノールだったんです」と言う。「共鳴体が普通のバリトンよりは小さい」とお医者さんに言われましたと。

だから、バリトンの低い声を出しても、もともとテノールの高い音を出す共鳴体しか使えないから、低音の豊かさというのがちょっと足りないのかなと。

魚住 声帯は弦楽器にたとえられたりしますが、ボディの部分の個人差というか、得手不得手みたいなのがあるんですね。

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