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【三人閑談】
"声"のちから

2019/02/25

男性の声、女性の声

森山 人は怒ると声高になって、声が大きくなりますね。怒りというのは迫る脅威に対して、「強いぞ」ということを示さないといけないので、筋力とか身体的な強さを主張しなければいけない。テストステロンという男性ホルモンも関係しているということです。

人間も、ほかの動物もそうだと思うのですが、高い音は小さくて、かわいくて、弱いという象徴で、低い声は大きなものとか強いものです。

魚住 男性という感じですね。

森山 だから、怒りを表現して相手を追い払うためには、ボディの響きが必要だし、声帯も長くなって、低い音を鳴らせるようにならないといけない。

一方、子供たちはかわいらしくて高い声で、大人に子供の声がよく聞こえるように3千ヘルツ付近をたくさん含んでいる。わざと耳障りにできているんですよね。大人に聞いてもらわないといけないので。

魚住 注意を引きますよね。

森山 男性の場合、大人になって声変わりすると、むしろ野太さみたいなものが出てくる。

魚住 女性も年を取ると声が低くなるじゃないですか。宇多田ヒカルさんとか、デビュー曲の「Automatic」のときはものすごくキーが高かったけれどだんだん低くなってきて。

森山 マライア・キャリーもそうですね。

魚住 女性の声が低くなっていくのはどういうことなのですか。

佐藤 声楽家もやはり高い声が出にくくなってきます。筋肉の衰えというのは大きいですよね。

森山 あとは声帯の表面は粘膜があって、潤いによって非常に繊細にくっつくようになっているのですが、「ヤダァー」みたいな喉を使ったしゃべり方をしていると声帯が傷むわけです。こういう話し方というのは女性同士にとってはどうなんですか(笑)。

魚住 高い声を出し合って、ちょっと「上から」みたいになってしまうとマウンティングし始めるので、低い声を出してカジュアルにするということは、女性は知らず知らずにやっているはずなんです。嫌われないようにしていくために喉を使っているのかも(笑)。

森山 それが喉にはあんまりよくない。

魚住 それでエイジングするというのもあるんですか?

森山 あとはやはり傷んだあとの治りですかね。若いとすぐ治るのですが、声帯も皮膚にできた傷と同様になかなか治らなくなってきます。

「息を吐く」から始める

佐藤 僕は声楽を教えるときに、1つの表現として、習字の筆の使い方で筆先から自然に下ろすようにする。それがうまい声帯の合わせ方だ、と言うのです。

そのような感じの、すっと入る息の使い方、声帯の使い方というのが、いいと思っているんです。でも、年齢を重ねると、それもできなくなりますね。声楽家も声帯を長い間使ってくるとやっぱり摩耗してきます。

魚住 声帯を疲れさせないとか、長く使うためにはどのようにすればいいのですか。

森山 先ほどブレスが大事だと言いましたが、これは本当に一貫しているんですよ。喉の筋肉も衰えるけれども、呼吸筋も衰えるんです。息を吸って吐くということがだんだん弱くなってきて、腹式呼吸ができなくなり胸から上だけになってしまう。すると、少ない息で聞かせなければいけないから、無理やりガーッと、「そば鳴り」で声を出さなければならなくなる。

体を使わないで息を吸うと、良くない話し方になってしまうんですね。

魚住 やはりお腹を使って声を出すことを続けていれば声帯は守られやすいと。

森山 そうだと思います。だから、あまり速くしゃべらないほうがいいんです。浅い呼吸しかできなくなってしまうので。

佐藤 確かに早口の人のほうが声が荒れているような気がしますね。

森山 時代が「うまい、安い、早い」なので、矢継ぎ早にパンパンパンとしゃべらなければいけないというところもありますが、そこはぐっとこらえて、ゆっくり息を吸ってからしゃべる。そのほうが説得力も増すのではないですか。

スピーキングマシンみたいなのではなく、肉体を持った生身の人間という感じがしますし。

魚住 そうですね。でも、「吸ってください」と言うと、皆、胸のあたりが動くんです。そうではなくて、お腹を膨らませるイメージですよね。

森山 初心者の人は「吸って」と言うと、お腹が硬くなってしまうんです。だから、僕はいつも「吐く」ことから始めましょうと言うのです。まず全部息を「ハーッ」と吐く。

佐藤 歌の場合もそうです。とにかく吐き切る。そうしたら、自然に息が入ってきます。

森山 その自然に入るというのがとてもいいんですよね。「吸ってみましょう」というと、もう空気があるのに、さらに吸おうとするので胸に入るしかなくて、力を入れて広げないといけなくなってしまう。

佐藤 素晴らしいですね。声楽家がやらなければいけないことをすべて知っていらっしゃる。

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